株価引き下げシリーズ 第3回
持株会社と子会社株価上昇の連動メカニズム
持株会社は子会社株式を主な資産として保有するため、子会社株価が上昇すると持株会社の貸借対照表上の「投資有価証券(子会社株式)」の評価額が増加し、純資産の部(評価差額を含む)が厚くなります。
その結果、純資産価額方式に基づく持株会社株式の評価額も増加しやすく、「子会社株価↑ → 親会社純資産価額↑ → 親会社株価↑」という連動構造が生じます。
評価差額に対する法人税相当額の控除による抑制効果
相続税評価上、純資産価額方式では不動産等の含み益について37%控除を行うため、子会社側や持株会社側に含み益がある場合でも、評価額の上昇は時価の100%ではなく約3分の2程度に抑制されます。
同様に、持株会社が株式保有特定会社とならないよう事業持株会社化することで、類似業種比準価額要素を使えるため、純資産価額一本建てのケースより、持株会社株価の上昇を一定程度抑制できます。
併用方式の非上場会社の株価評価の計算式
非上場株式の評価は会社規模によって以下のように計算されます。
- 大会社:類似業種比準方式(斟酌割合0.7)
- 中会社:類似業種比準方式(斟酌割合0.6)×L + 純資産価額方式×(1-L)
- L=0.9・0.75・0.6
- 小会社:類似業種比準方式(斟酌割合0.5)×0.5 + 純資産価額方式×0.5
- 株式保有特定会社:S1+S2 又は 純資産価額方式
今回の説明は、非上場株式の計算公式の純資産価額方式の評価を抑える方法についてです。
具体的な計算事例

前提条件
A社は純資産価額の相続税評価が5千万円です。A社の業績は非常によく、相続が予想される数十年後には10倍になる予想となっています。
そこで社長は相続税の評価を上げない方法を税理士にアドバイスを求めました。税理士は株式移転の説明を行いました。
ケース比較
①対策なしの場合
A社は現在5千万円の会社評価です(大会社から小会社までの併用方式による評価)。将来10倍になる予想で、仮に相続時に5億円になります。
②株式移転を行った場合
株式移転を行い間接的にA社を保有すると、関係会社株式(子会社株式)の相続税評価は5億円ですが、簿価(株式移転時の時価5千万円)との含み益の評価差額は4億5千万円になります。
含み益に対する法人税相当額(令和7年は37%)は166,500,000円となり、親会社の相続税評価において子会社株式の評価は実質的に5億円から1億6,650万円低く評価されます。
計算の詳細
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 将来の子会社評価(時価) | 500,000,000円 |
| 株式移転時の時価 | △50,000,000円 |
| 含み益 | 450,000,000円 |
| 法人税相当額(37%) | 166,500,000円 |
| 純資産価額方式での評価 | 333,500,000円 |
③効果の比較
- 何もしなかった場合:A社の相続税評価 5億円
- 株式移転など対策した場合(仮に小会社で計算):
- 類似業種比準方式×0.5 + 純資産価額方式333,500,000円×0.5
- 実質的に1億6,650万円以上の評価減効果
このように、非常に効果的な相続対策となります。
株価上昇抑制の本質的効果
実質的な株価上昇の抑制は、株式保有特定会社を避けることによって類似業種比準方式との併用を行いますので、非常に大きな株価上昇の抑制効果があります。
株式移転以外の方法も有効
株価の上昇抑制対策は、何も株式移転の方法によらなくてもよいのです。
株価の低迷期に、低い株価の時に持株会社を設立し子会社化する方法でも同じ効果が得られます。
まとめ
持株会社スキームによる相続対策は、子会社株式の含み益に対する法人税相当額控除を活用することで、将来の株価上昇による相続税負担を大幅に軽減できます。特に業績好調で将来的な株価上昇が見込まれる企業においては、早期の対策実施が重要です。
株式移転または持株会社設立のタイミングや、株式保有特定会社とならないための事業持株会社化など、個別の状況に応じた最適なスキーム設計が必要となります。
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