先日、事務所でスタッフからこんな質問を受けました。
スタッフからの質問
「所長、住宅ローン控除を1年目から失念しているお客様がいるのですが、毎年確定申告はしています。更正の請求になると思うのですが、インターネットで調べたら『更正の請求事由に該当しないケース』として紹介されていました。更正の請求はできないのでしょうか?」
私の回答
「いい質問だね。確かにそう書いているブログは多いけど、実務上は対応可能なんだよ。私も過去に同様のケースで更正の請求をしたことがあるから、念のため税務署に確認してみよう」
税務署への確認結果
実際に税務署に問い合わせたところ、次のような回答がありました。
「住宅ローン控除は納税者の選択により適用を受ける制度です。単なる適用失念は、国税通則法23条2項1号の更正の請求事由には該当しません。したがって、原則として更正の請求はできません。
ただし、適用要件を満たしていることが明確な場合、税務署長の職権により減額更正を行うことで、実質的に救済することがあります」
法律論と実務の違い
法律上の建前
– 住宅ローン控除は租税特別措置法41条等に基づく特例
– 納税者が自ら選択して適用を受ける制度
– 単なる「適用失念」は「計算の誤り」には該当しない
– したがって、法律上の権利としての更正の請求は認められない
実務上の取扱い 【職権による救済が可能】
– 税務署長の職権による減額更正(国税通則法24条)により救済
– 適用要件を満たしていることが明確であれば、柔軟に対応されることが多い
– ただし、あくまで税務署の職権による恩恵的な措置
インターネット情報の問題点
スタッフが調べた他のブログでも、多くが「更正の請求はできない」と断定的に書いていることに驚きました。
これらの情報には、次のような問題があります:
1. 国税庁の事例集だけを見て判断している
2. 法律論と実務を区別していない
3. 税務署への確認をしていない
このような情報が広まることで、救済されるべき納税者が諦めてしまうことを懸念します。
実務上の対応方法
住宅ローン控除の適用失念に気付いた場合:
1. 期限の確認
– 各年分の法定申告期限から5年以内
2. 適用要件の確認
– 住宅取得日、居住開始日
– 借入金の条件
– 所得要件、床面積要件など
3. 必要書類の準備
– 住宅借入金等特別控除額の計算明細書
– 住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書
– 登記事項証明書
– 売買契約書等の写し
4. 税務署への相談
– 更正の請求書を提出する前に、まず相談
– 職権減額更正の可能性を確認
– 必要に応じて追加資料を準備
重要なポイント
– あくまで税務署の職権による措置であり、法律上の権利ではない
– したがって、税務署によって対応が異なる可能性がある
– 却下された場合の不服申立ても、理論上は難しい
–早めに税務署に相談することが重要
まとめ 住宅ローン控除の適用失念について:
住宅ローン控除の適用失念について:
– インターネットで「更正の請求はできない」と書かれていても、実務上は救済される可能性が高い
– 法律上の権利ではなく、税務署長の職権による恩恵的な措置
– 適用要件を満たしている場合は、諦めずに税務署に相談することが大切
実務と理論のギャップは、税務の世界ではしばしば見られます。インターネットの情報だけで判断せず、専門家や税務署に相談することをお勧めします。
事務所概要
税理士法人松野茂税理士事務所
代表税理士:松野 茂
社員税理士:山本 由佳
所属税理士:近畿税理士会 尼崎支部
法人登録番号:第6283号
法人番号:4140005027558
適格請求書発行事業者登録番号(インボイス番号):T4140005027558
所在地:〒660-0861 兵庫県尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F
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営業時間:平日 9:00〜18:00
