はじめに
法人経営において、役員報酬による節税対策は重要な戦略の一つです。しかし、通常の定期同額給与は事業年度中の増額が認められていません。そこで活用したいのが「事前確定届出給与」という制度です。この制度を適切に活用することで、決算対策として効果的な節税を実現できます。
役員報酬の基本ルール
定期同額給与の制約
法人税法では、役員報酬が損金算入されるためには「定期同額給与」であることが条件とされています。これにより、以下の制約があります:
- 事業年度途中での報酬増額は原則不可
- 業績好調を理由とした追加支給も認められない
- 役員賞与は原則として損金不算入
事前確定届出給与とは
この制約を解決するのが「事前確定届出給与」制度です。事業年度開始前に支給時期と支給額を税務署に届け出ることで、役員賞与であっても損金算入が可能になります。
事前確定届出給与の仕組み
届出の要件
- 提出期限:株主総会等の決議日から1か月以内、または事業年度開始日から4か月以内のいずれか早い日
- 記載事項:支給対象役員、支給時期、支給額を明確に記載
- 継続適用:一度決定した内容は原則として変更不可
具体例:3月決算法人のケース
- 定期同額給与:毎月50万円
- 事前確定届出給与:翌年3月に決算賞与200万円
- 届出時期:4月から7月までの間に提出
支給パターン別の税務上の取扱い
✅ パターン①:満額支給の場合
支給内容:定期同額給与50万円×12か月 + 決算賞与200万円(満額) 税務上の取扱い:定期同額給与600万円と事前確定届出給与200万円の合計800万円が損金算入
❌ パターン②:一部支給の場合
支給内容:定期同額給与50万円×12か月 + 決算賞与100万円(届出額の半分) 税務上の取扱い:定期同額給与600万円のみ損金算入、事前確定届出給与100万円は損金不算入
✅ パターン③:事前確定届出給与を支給しない場合
支給内容:定期同額給与50万円×12か月のみ 税務上の取扱い:定期同額給与600万円が損金算入
「満額支給」が要件となる理由
法人税法の考え方
法人税法が「満額支給」を要件とする理由は、意図的な法人税の減少行為を防止するためです。
- 計画通りの支給:事前に計画された適正な報酬として損金性を認める
- 恣意的な調整:業績に応じた支給額の調整は租税回避行為として否認
効果的な活用戦略
基本的な節税方法
役員報酬を増額することで法人税の節税効果が期待できますが、赤字転落は避けたいところです。そこで以下の戦略が有効です:
ステップ1:事前準備
事業年度開始時に事前確定届出給与の届出書を提出
- 業績予想に基づいて適切な金額を設定
- 万が一の場合に備えて届出だけは行っておく
ステップ2:決算時の判断
決算時期に最終判断を実施
- 業績好調:満額支給で節税効果を最大化
- 業績不振:支給を見送り(定期同額給与のみ損金算入)
実務上の注意点
1. 支給の可否は明確に決定
中途半端な支給額は損金不算入となるため、「満額支給」か「支給なし」かを明確に決定する必要があります。
2. 資金繰りの考慮
事前確定届出給与の支給には相応の資金が必要です。キャッシュフローを十分に検討して金額を設定しましょう。
3. 社会保険への影響
役員賞与の支給は社会保険料の算定にも影響する場合があります。総合的なコスト計算が重要です。
まとめ
事前確定届出給与制度は、法人の決算対策として非常に有効な手段です。重要なポイントは以下の通りです:
- 事前の届出:事業年度開始時に必ず届出を提出
- 満額支給:支給する場合は届出額の満額支給が原則
- 戦略的判断:決算時期に業績を見極めて最終判断
この制度を適切に活用することで、法人税の節税効果を最大化しつつ、柔軟な決算対策が可能になります。
事前確定届出給与の活用をご検討の際は、お客様の事業内容や財務状況を踏まえた最適なプランをご提案いたします。ぜひお気軽にご相談ください。
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