確定申告の時期になると、「この費用は医療費控除の対象になりますか?」というご質問を多くいただきます。医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得から控除できる制度です。
しかし、「医療費」と一口に言っても、すべてが控除対象になるわけではありません。今回は、医療費控除の基本的な考え方と、対象となる医療費・ならない医療費について、Q&A形式でわかりやすく解説します。
医療費控除の基本的な考え方
Q1. 医療費控除とは何ですか?
A. 医療費控除とは、その年の1月1日から12月31日までの間に、本人または生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費が一定額を超える場合に、その超える部分の金額を所得から控除できる制度です(所得税法第73条)。
控除額の計算式:
医療費控除額 = 支払った医療費の合計額 - 保険金等で補填される金額 - 10万円※
※総所得金額等が200万円未満の場合は、総所得金額等の5%
控除限度額: 200万円
Q2. 医療費控除の対象となる「医療費」の基本的な考え方を教えてください。
A. 医療費控除の対象となる医療費は、所得税法施行令第207条に定められています。基本的な考え方は以下のとおりです。
【医療費の基本要件】
- 治療目的であること
- 病気やケガの「治療」のための費用が対象
- 「予防」や「美容」のための費用は原則として対象外
- 医師等による診療・治療であること
- 医師、歯科医師による診療・治療
- あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術
- 一般的に支出される水準を著しく超えない金額であること
- 特別に高額な費用は対象外となる場合がある
Q3. 「生計を一にする」とはどういう意味ですか?
A. 「生計を一にする」とは、日常の生活の資を共にすることをいいます。
具体的には:
- 同居している家族は原則として「生計を一にする」と判断
- 別居していても、常に生活費等を送金している場合は該当
- 親元を離れて暮らす大学生の子どもへ仕送りしている場合も該当
ポイント: 扶養に入っているかどうかは関係ありません。共働き夫婦でそれぞれ収入があっても、同居していれば「生計を一にする」に該当します。
医療費控除の対象となるもの
Q4. 病院で支払った費用は、すべて医療費控除の対象になりますか?
A. いいえ、すべてが対象になるわけではありません。
【対象になるもの】
- 診察費・治療費
- 入院費用(食事代を含む)
- 手術費用
- 検査費用(治療に伴うもの)
- 処方箋に基づく医薬品の購入費
- 治療に必要な医療器具の購入費・賃借料
【対象にならないもの】
- 差額ベッド代(本人の希望による場合)※ただし、治療上の必要があり個室等に入院した場合は対象となります
- 入院時のパジャマ・洗面用具等の購入費
- テレビカード等のレンタル料
- 診断書の作成費用
- 健康診断・人間ドックの費用(※重大な疾病が発見され、治療を行った場合は対象)
Q5. 歯科治療費は医療費控除の対象になりますか?
A. 歯科治療費も、治療目的であれば医療費控除の対象になります。
【対象になるもの】
- 虫歯・歯周病等の治療費
- 抜歯費用
- 入れ歯の作成費用
- 金歯・ポーセレン等の治療費(※一般的に使用される材料の範囲内)
- 発育段階にある子どもの歯列矯正費用
【対象にならないもの】
- 美容目的の歯列矯正費用(成人の場合で、容姿を美化する目的のもの)
- ホワイトニング費用
- 審美目的のインプラント(※噛み合わせの改善等、治療目的のインプラントは対象)
注意点: 歯列矯正については、子どもの発育段階で行う場合は対象となりますが、成人で単に美容目的の場合は対象外となります。噛み合わせの改善など機能的な問題の治療として必要な場合は、成人でも対象となる場合があります。
Q6. 医薬品の購入費はすべて対象になりますか?
A. 医薬品の購入費は、治療・療養に必要なものであれば対象になります。
【対象になるもの】
- 医師の処方箋に基づく薬局での医薬品購入費
- 薬局で購入した風邪薬・胃腸薬等(治療目的のもの)
- 漢方薬(治療のために購入したもの)
【対象にならないもの】
- ビタミン剤等の健康増進・予防目的の医薬品
- 栄養ドリンク(医薬品に該当しないもの)
- 健康食品・サプリメント
ポイント: 同じビタミン剤でも、医師の処方箋に基づいて治療目的で購入した場合は対象になりますが、自己判断で健康増進目的で購入した場合は対象外です。
Q7. 通院のための交通費は医療費控除の対象になりますか?
A. 通院に必要な交通費は、医療費控除の対象になります。
【対象になるもの】
- 電車・バス等の公共交通機関の運賃
- 緊急時のタクシー代(やむを得ない場合)
- 付添人の交通費(患者が1人で通院できない場合)
【対象にならないもの】
- 自家用車で通院した場合のガソリン代・駐車場代
- 通常時のタクシー代(公共交通機関が利用できる場合)
注意点: 公共交通機関を利用した場合は領収書がなくても、通院日・経路・金額のメモがあれば認められます。
Q8. 介護保険サービスの費用は対象になりますか?
A. 介護保険サービスのうち、医療系のサービスは医療費控除の対象になります。
【対象になるもの(医療系サービス)】
- 訪問看護
- 訪問リハビリテーション
- 居宅療養管理指導
- 通所リハビリテーション(デイケア)
- 短期入所療養介護(医療型ショートステイ)
【対象になるもの(福祉系サービス)※医療系サービスと併せて利用する場合】
- 訪問介護(生活援助中心型を除く)
- 通所介護(デイサービス)
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
【対象にならないもの】
- 福祉用具のレンタル・購入
- 住宅改修費
- 生活援助中心型の訪問介護
【実務上のポイント】 介護保険サービスの医療費控除は複雑なため、実務では領収書に記載されている「医療費控除対象額」欄の金額のみを集計する方法が確実です。サービス事業者から発行される領収書には、医療費控除の対象となる金額が明記されていますので、その金額を合計してください。
Q9. 出産に関する費用は対象になりますか?
A. 出産に関する費用は、医療費控除の対象になります。
【対象になるもの】
- 妊婦健診費用
- 出産費用(入院費・分娩費)
- 助産師による分娩の介助費用
- 不妊治療費
- 出産のための入退院時のタクシー代
【対象にならないもの】
- 実家への里帰り出産のための交通費
- 出産準備品(マタニティウェア・ベビー用品等)の購入費
- 出産祝いのお返し
注意点: 出産育児一時金など、保険から支給される金額は、支払った医療費から差し引く必要があります。
Q10. その他、医療費控除の対象となるものを教えてください。
A. 以下のようなものも医療費控除の対象になります。
【対象になるもの】
- 松葉杖・義手・義足等の購入費用
- 医師の処方に基づくコルセット等の購入費用
- 治療のためのメガネ・コンタクトレンズ代(弱視・斜視等)
- レーシック手術費用
- 禁煙治療費用(医師の診断に基づくもの)
- 人工授精・体外受精等の不妊治療費用
- オンライン診療の費用
- 医師等に対する謝礼金(治療等の対価として相当なもの)
医療費控除の対象とならないもの
Q11. 健康診断・人間ドックの費用は対象になりますか?
A. 原則として対象になりません。ただし、重大な疾病が発見された場合は対象となります。
【原則】 健康診断・人間ドックは「予防」目的のため、医療費控除の対象外
【例外】 健康診断の結果、重大な疾病が発見され、引き続き治療を行った場合は、その健康診断の費用も医療費控除の対象となる
注意点: 軽微な異常値が見つかった程度では「重大な疾病」には該当しません。
Q12. 美容整形の費用は対象になりますか?
A. 原則として対象になりません。
【対象にならないもの】
- 美容整形手術費用
- シミ・ホクロの除去(美容目的)
- 脱毛施術費用
- 二重まぶたの手術費用
【例外的に対象になる場合】
- 先天性の疾患による口唇裂等の治療
- 事故等による傷跡の治療
- わきがの手術(治療目的の場合)
ポイント: 「治療」なのか「美容」なのかが判断基準となります。
Q13. 眼鏡・コンタクトレンズは対象になりますか?
A. 一般的な視力矯正用のメガネ・コンタクトレンズは対象になりません。
【対象にならないもの】
- 近視・遠視・乱視・老眼のためのメガネ・コンタクトレンズ
- メガネのフレーム代
【対象になるもの】
- 弱視・斜視等の治療用メガネ(医師の処方に基づくもの)
- 白内障等の術後に必要なメガネ(医師の処方に基づくもの)
Q14. マッサージや整体の費用は対象になりますか?
A. 国家資格を持つ施術者による治療目的の施術であれば対象になります。
【対象になるもの】
- あん摩マッサージ指圧師による施術(治療目的)
- はり師・きゅう師による施術(治療目的)
- 柔道整復師による施術(治療目的)
【対象にならないもの】
- 疲れを癒す・体調を整える目的のマッサージ
- 無資格者による施術
- リラクゼーション目的の整体
- カイロプラクティック(国家資格ではない)
ポイント: 施術者が国家資格を持っているか、施術目的が「治療」かどうかがポイントです。
Q15. 補聴器は対象になりますか?
A. 医師の診療を受け、補聴器が必要と認められた場合は対象になります。
【対象になる場合の条件】
- 補聴器相談医等の医師が「補聴器適合に関する診療情報提供書」を作成
- その診療情報提供書に基づいて補聴器を購入
【対象にならない場合】
- 自己判断で購入した補聴器
- 医師の診断なしに購入した補聴器
注意点: 補聴器は高額になることが多いため、購入前に耳鼻咽喉科等を受診し、診療情報提供書を作成してもらうことをお勧めします。
セルフメディケーション税制について
Q16. セルフメディケーション税制とは何ですか?
A. セルフメディケーション税制は、健康の維持増進及び疾病の予防への取り組みとして一定の取組を行う個人が、スイッチOTC医薬品を購入した場合に、その購入費用について所得控除を受けられる制度です。
【適用要件】
- 健康診断、予防接種等の「一定の取組」を行っていること
- スイッチOTC医薬品の年間購入額が1万2千円を超えること
【控除額】
控除額 = スイッチOTC医薬品の購入費 - 1万2千円
控除限度額: 8万8千円
注意点: 医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できません。どちらか有利な方を選択します。
医療費控除の申告に必要な書類
Q17. 医療費控除の申告にはどのような書類が必要ですか?
A. 以下の書類が必要です。
【必要書類】
- 医療費控除の明細書
- 医療費の領収書に基づいて作成
- 医療を受けた人・病院等の名称・支払った医療費を記載
- 医療費通知(医療費のお知らせ)
- 健康保険組合等から届く通知
- 記載事項を明細書に転記することで、領収書の添付が不要に
- 確定申告書
ポイント: 領収書は申告時に提出する必要はありませんが、5年間保存する必要があります。
まとめ
医療費控除の対象となるかどうかは、「治療」目的かどうかが基本的な判断基準となります。迷った場合は、以下のポイントを確認してください。
【医療費控除の判断ポイント】
✅ 病気やケガの「治療」のための支出か? ✅ 医師等の資格を持つ者による診療・治療か? ✅ 一般的に支出される水準の金額か?
ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。

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※この記事は令和6年分確定申告時点の情報に基づいて作成しています。税制は改正される場合がありますので、最新の情報は税務署または当事務所までお問い合わせください。
