6回 尼崎の税理士 | 相続税と空き家特例―未分割でも適用できるが要注意!国税庁の見解を解説

尼崎の税理士法人松野茂税理士事務所 未分割と空き家特例
目次

未分割でも空き家特例は使えるのか?

相続不動産を譲渡する際、「遺産分割協議が整わないまま売却したい」というご相談をよくいただきます。空き家特例(被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除)は、未分割の状態でも適用できるのでしょうか?

結論から申し上げますと、未分割でも空き家特例の適用は可能です。 ただし、譲渡所得の申告方法について重要な留意点があります。

国税庁の質疑応答事例が示す取扱い

国税庁の質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」では、未分割財産を売却した場合の取扱いが明確に示されています。

参考リンク:
国税庁 質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」

原則:法定相続分で申告

国税庁の見解(要旨)

未分割の状態で相続不動産を売却した場合、以下の理由により、法定相続分により譲渡所得を申告することが原則となります:

  1. 譲渡所得の課税時期
    譲渡所得に対する課税は、資産が所有者の手を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税するものであり、その収入すべき時期は資産の引渡しがあった日による
  2. 相続財産の共有状態
    相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属し、その共有状態にある遺産を共同相続人が換価した事実が無くなるものではない
  3. 遺産分割の対象
    遺産分割の対象は換価した遺産ではなく、換価により得た代金である

したがって、換価時における換価遺産の所有割合(=法定相続分)により申告することになります。

例外:確定申告期限までに分割が確定した場合

ただし、国税庁は以下の場合に限り、例外的な取扱いを認めています:

所得税の確定申告期限(翌年3月15日)までに換価代金が分割され、共同相続人の全員が換価代金の取得割合に基づき譲渡所得の申告をした場合には、その申告は認められます。

つまり、売却後であっても確定申告期限までに遺産分割協議が成立すれば、協議で定めた割合で申告することが可能です。

最も重要な注意点:後日の更正請求は不可

ここが実務上、最も注意すべきポイントです。

法定相続分により申告した後に、その換価代金が分割されたとしても、法定相続分による譲渡に異動が生じるものではありませんから、更正の請求等をすることはできません。

具体例で考える

事例:

  • 相続人:AとB(法定相続分各1/2)
  • 空き家の売却価格:6,000万円
  • 譲渡益:各人3,000万円ずつ(法定相続分1/2ずつ)
  • 未分割のまま売却し、法定相続分(各1/2)で確定申告

確定申告の内容(法定相続分):

  • A:譲渡益3,000万円 → 空き家特例3,000万円控除 → 課税所得0円
  • B:譲渡益3,000万円 → 空き家特例3,000万円控除 → 課税所得0円

その後の展開:

  • 確定申告期限後(例:翌年4月)に遺産分割協議が成立
  • 協議内容:Aが売却代金全額6,000万円を取得、Bには他の財産で調整(または代償金)

税務上の結果:

  • AとBは既に法定相続分(各1/2)で申告済み
  • 空き家特例:AとBそれぞれに3,000万円控除適用済み
  • 後日、遺産分割協議が成立しても、申告内容の変更(更正請求や修正申告)はできない

なぜ更正請求ができないのか?

これは一見不合理に思えるかもしれませんが、国税庁の見解は以下の理論に基づいています:

「法定相続分とは異なる遺産分割を行ったとしても、それは換価により得た代金の分配方法を決めただけであり、既に行われた不動産の譲渡という事実そのものには何ら影響を与えない」

つまり:

  • 不動産を売却した時点で、法定相続分による譲渡という課税要件は確定している
  • その後の代金の分配方法(遺産分割の内容)は、既に完了した譲渡所得の計算に影響しない
  • したがって、遺産分割の内容を理由とした更正請求は認められない

実務上の影響

上記の事例で、もし遺産分割の内容に応じて税務処理ができるとすれば:

  • A:譲渡益6,000万円 → 空き家特例3,000万円控除 → 課税所得3,000万円(約600万円の税負担)
  • B:譲渡益0円 → 課税なし

となるはずですが、実際には法定相続分での申告が確定しているため、このような変更はできません。

空き家特例との関係

空き家特例は未分割でも適用できますが、以下の点に注意が必要です:

✓ 適用要件は満たす必要がある

  • 被相続人が一人暮らしだったこと
  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
  • 耐震リフォームまたは取壊しをすること
  • 譲渡価額が1億円以下であること
  • その他の要件

✓ 特別控除額の配分

未分割の場合、法定相続分に応じて特別控除額(最大3,000万円)が各相続人に配分されます。

✓ 後日の変更は不可

確定申告期限後に遺産分割が確定しても、既に申告した譲渡所得や特別控除の適用関係は変更できません。

実務上のアドバイス

空き家の売却を検討されている場合:

1. 最優先:売却前に遺産分割協議を成立させる

換価分割として明確に処理することで、後々のトラブルを防げます。協議で定めた割合で相続登記を行い、その割合で譲渡所得を申告します。

2. 次善策:確定申告期限までに協議を成立させる

やむを得ず未分割で売却した場合でも、確定申告期限(翌年3月15日)までに遺産分割協議を成立させ、全相続人が協議で定めた割合で申告すれば、その申告は認められます。

3. 最も避けたいケース:確定申告期限後の協議成立

確定申告期限までに協議が整わない場合は、法定相続分で申告することになり、その後に協議内容が変わっても税務上は一切変更できません。このため、実際の代金の受取額と税務上の申告内容に乖離が生じる可能性があります。

4. 計画的な進行が重要

  • 売却前に相続人間で代金の分配方法について合意形成を図る
  • 確定申告期限を意識したスケジュール管理
  • 法定相続分と異なる分割を予定している場合は、必ず期限内に協議を成立させる

まとめ

空き家特例は未分割でも適用できますが、申告方法には厳格なルールがあります。特に、「法定相続分とは異なる遺産分割を行ったとしても、確定申告期限後であれば更正請求ができない」という点は、実務上大きな影響があります。

この取扱いを知らずに、「とりあえず売却して、後でゆっくり分割を決めよう」と進めてしまうと、思わぬ税負担の不均衡が生じる可能性があります。

相続不動産の売却は、税務・法律の両面から慎重な検討が必要です。早めに専門家にご相談されることをお勧めします。


参考:国税庁
質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」


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