2025年9月29日 | 税理士法人松野茂税理士事務所
こんにちは。税理士法人松野茂税理士事務所の松野です。
今日は、スタッフから「税務署は、どうやって不正を見つけるんですか?」という質問を受けました。
長年の実務経験から、税務調査の現場で実際に使われている分析手法について、会話形式でお伝えします。
スタッフとの会話
スタッフ: 「松野先生、税務調査で不正を見破るって、どうやっているんですか?」
松野: 「いい質問だね。実は、帳簿には必ず『痕跡』が残るんだよ」
スタッフ: 「痕跡、ですか?」
松野: 「そう。売上除外や架空仕入をすると、必ず数字に不自然な点が出てくる。それを見つけるのが調査官の仕事なんだ」
損益計算書の分析が基本
スタッフ: 「具体的には、どこを見るんですか?」
松野: 「まず、損益計算書の分析から始まるんだ」
損益計算書は日々の積み上げ
松野: 「1年間の損益計算書は、日々の取引を積み上げた報告書だよね。だから、日々のデータと年間のデータを比較すれば、不自然な点が見えてくるんだ」
スタッフ: 「日々のデータって、どうやって作るんですか?」
松野: 「サンプルを作るんだよ」
調査の手順 – サンプル分析
ステップ1:サンプルデータの作成
松野: 「調査官は、こんなサンプルを作成するんだ」
- 1日の売上・仕入の集計
- 通常の営業日を何日かピックアップ
- 商品ごとに売上と仕入を集計
- 月次の売上・仕入の集計
- 各月の売上・仕入を商品ごとに整理
- 月ごとの原価率を計算
スタッフ: 「それで何がわかるんですか?」
ステップ2:原価率(利益率)の比較
松野: 「ここからが重要なポイントだよ」
正常なパターン
年間の原価率 ≒ 月次の原価率
この関係が成り立っていれば、基本的に問題ありません。
- ✅ 売上除外なし
- ✅ 架空仕入なし
- ✅ 棚卸除外なし
異常なパターン
年間の原価率 ≠ 月次の原価率
大きな差がある場合、何か不正がある可能性が高いということです。
スタッフ: 「なるほど! 数字に矛盾が出るんですね」
不正発見の具体的な流れ
スタッフ: 「異常が見つかったら、どうするんですか?」
松野: 「そこからが本格的な調査だね」
ステップ3:問題月の特定
利益率が異常に低い月を見つけます。
松野: 「例えば、通常は利益率30%なのに、特定の月だけ15%とか。これは明らかにおかしいよね」
スタッフ: 「その月に何か不正があったと?」
松野: 「その可能性が高い。だから次のステップで詳しく調べるんだ」
ステップ4:不審な仕入の把握
問題月について、以下をチェックします:
- 通常より金額が大きい仕入
- 見慣れない仕入先からの仕入
- 期末に集中している仕入
- 支払方法が不自然な仕入
スタッフ: 「架空の仕入を計上して、利益を減らしているかもしれない、と」
松野: 「その通り。でも、本当に架空かどうかはまだわからない。だから次の確認が必要なんだ」
在庫との照合 – 3つの確認
松野: 「不審な仕入を見つけたら、その商品が実在するか確認するんだ」
確認1:期末棚卸に計上されているか?
松野: 「仕入れた商品が売れていなければ、期末に在庫として残るはずだよね」
スタッフ: 「確かに。もし在庫にもなければ…」
松野: 「架空仕入の可能性が出てくる」
確認2:翌月に売上になっているか?
松野: 「棚卸に計上されていた場合、翌月に売上として計上されているかをチェックするんだ」
スタッフ: 「期末に仕入れて、翌月に売った、という流れですね」
確認3:翌事業年度の売上になっているか?
松野: 「期をまたいで売れた場合もあるからね。翌事業年度まで追跡するんだよ」
スタッフ: 「もし、どこにも見当たらなかったら?」
松野: 「そこで初めて、売上除外か架空仕入を疑うことになる」
さらなる調査手法
スタッフ: 「帳簿上で疑わしいとなったら、どうやって確認するんですか?」
松野: 「いくつかの方法があるよ」
方法1:反面調査
松野: 「取引先に直接確認する方法だね」
- 仕入先に「この日に、この金額で取引がありましたか?」と確認
- 請求書や納品書の控えと照合
スタッフ: 「もし取引先が存在しなかったら…」
松野: 「架空仕入確定だね」
方法2:銀行調査
松野: 「銀行の入出金記録を確認するんだ」
- 仕入代金が実際に支払われているか
- 売上金が実際に入金されているか
- 現金取引と称しているものの裏付け
スタッフ: 「お金の流れで嘘はつけないですね」
方法3:現場での確認作業
松野: 「調査の現場では、こんな資料も確認するよ」
確認する原始記録
- 出荷記録 – 本当にその日に出荷したか
- 入荷記録 – 本当にその日に入荷したか
- 納品書・受領書 – 実際の取引の証拠
- 出勤簿 – 架空人件費がないか確認
スタッフ: 「帳簿だけじゃなくて、いろんな証拠を集めるんですね」
よくある不正のパターン
松野: 「長年の経験から、よく見られる不正パターンを教えておこう」
1. 売上除外
- 現金売上の一部を計上しない
- 期末近くの売上を翌期に回す
- 一部の得意先の売上を計上しない
2. 架空仕入
- 実在しない仕入を計上
- 金額を水増しして計上
- 個人的な支出を仕入として計上
3. 棚卸除外
- 在庫を少なく計上して原価を増やす
- 帳簿上の在庫と実在庫が合わない
4. 架空人件費
- 実在しない従業員の給与を計上
- 実際より多い金額を計上
スタッフ: 「こういう不正は、必ずバレるんですか?」
松野: 「数字は嘘をつかないからね。必ずどこかで矛盾が出る。長年の実務経験から言えるのは、『不正は必ずバレる』ということだよ」
経営者の皆様へ – 正しい記帳が最大の防衛
スタッフ: 「こういう調査手法を知ると、やっぱり正しく記帳することが大切ですね」
松野: 「その通り。私たちが常にクリーンな帳簿づくりを心がけているのは、こういう理由なんだ」
正しい記帳のポイント
✅ 日々の取引を正確に記録
✅ 原始記録(請求書・納品書等)を確実に保管
✅ 月次で原価率・利益率をチェック
✅ 期末の棚卸を正確に実施
✅ 不自然な数字の変動があれば原因を把握
松野: 「当事務所では、こうした分析を日常的に行っているから、税務調査が来ても慌てることがないんだよ」
まとめ – 不正発見の流れ
- サンプルデータの作成 – 日次・月次の売上仕入を分析
- 原価率の比較 – 年間と月次で差異をチェック
- 問題月の特定 – 利益率が異常な月を見つける
- 不審な仕入の把握 – 金額や取引先をチェック
- 在庫との照合 – 実在性を確認
- 反面調査・銀行調査 – 事実関係を確認
- 原始記録の確認 – 証拠資料との照合
松野: 「長年の実務経験から、この流れを理解しておくことが、適正な記帳につながると確信しているよ」
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