【尼崎の税理士が解説】みなし退職金とは?支給条件から否認リスクまで

尼崎の税理士法人松野茂税理士事務所 みなし退職金の条件
目次

はじめに

経営者の皆様から「みなし退職金」についてのご相談を多くいただきます。適切に活用すれば大きな節税効果が期待できる一方、税務調査で否認されるリスクもある制度です。今回は、みなし退職金について実務的な観点からQ&A形式で詳しく解説いたします。

Q1. みなし退職金とは何ですか?

A. みなし退職金とは、役員が退任した際に支給される退職金のうち、通常の退職金とは別に「退職金とみなされる給与」のことです。

具体的には以下のような支給が該当します:

  • 役員退職時の功労金
  • 退職慰労金の追加支給
  • 在任中の未払給与の一括支給(退職時の特別支給分)

税務上は退職所得として取り扱われるため、給与所得と比べて大幅な税負担軽減効果があります。

Q2. みなし退職金を支給するための条件は何ですか?

A. みなし退職金として認められるためには、以下の要件を満たす必要があります:

1. 実質的な退任の要件

  • 役員としての職務を完全に終了している
  • 代表権や業務執行権限を放棄している
  • 実際に経営から離脱している

2. 支給の相当性

  • 在任期間、職務内容、会社への貢献度に見合った金額
  • 同業他社や類似規模企業との比較で妥当な水準
  • 会社の財務状況に照らして過大でない

手続きの適正性

  • 株主総会または取締役会での正式な決議
  • 退職金規程等の社内規定に基づく支給
  • 適切な会計処理と税務処理

Q3. 通達ではどのような内容が定められていますか?

A. 法人税基本通達9-2-32から9-2-35において、以下の内容が定められています:

通達9-2-32(退職給与の範囲) 役員の退職により支給する一時金で、退職の事実に基づいて支給されるものは退職給与に該当する

通達9-2-33(功績倍率法による適正額の計算)

  • 最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率 = 適正退職金額
  • 功績倍率は通常1.0〜3.0程度(会社規模や業績による)

通達9-2-35(分割支給の取扱い) 退職給与を分割して支給する場合の税務上の取扱いを明確化

Q4. どのような場合にNGとなり、否認を受けるのですか?

A. 以下のようなケースでは税務調査で否認されるリスクが高くなります:

1. 形式的退任(実質継続)

家族が後任となり、実質的な支配が継続している

退任後も実質的に経営に関与している

相談役等の名目で引き続き報酬を受けている

 過大な支給額

  • 功績倍率が3.0を大幅に超える
  • 同業他社と比較して明らかに高額
  • 会社の財務状況に見合わない金額

3. 手続きの不備

  • 株主総会決議を経ていない
  • 退職の事実が不明確
  • 会計処理や税務処理が不適切

4. 租税回避目的の濃厚な取引

  • 税務上の利益を得ることが主目的
  • 経済的合理性に欠ける取引

Q5. いったん退任した後で取締役に復帰する場合の条件は?

A. 一度退任してみなし退職金を受給した役員が再び取締役に復帰する場合、以下の条件を満たす必要があります:

1. 実質的な退任期間の確保

  • 最低でも1年程度の退任期間が必要
  • この期間中は一切の業務に関与しない
  • 完全に経営から離脱していることが客観的に認められる

2. 復帰の必然性

  • 会社の経営上やむを得ない事情がある
  • 代替手段がない合理的な理由が存在する
  • 単なる税務上の都合でないことの立証

3. 復帰時の条件

  • 復帰後の職務内容が以前と同一でない
  • 報酬水準の見直し
  • 復帰の経緯と理由の明確な文書化

Q6. 5年経てば取締役に復帰しても税務調査で問題ないのですか?

A. 5年経過すれば絶対に安全というわけではありません。 ただし、以下の理由で否認リスクは大幅に軽減されます:

1. 時効の関係

  • 法定申告期限から5年経過で更正期間が終了(悪質な場合は7年)
  • 過去の退職金支給について更正処分を受けるリスクが消滅

2. 実質的退任の立証

  • 5年間の長期にわたる退任で実質的な退職の事実が明確
  • この期間中の完全な経営離脱が客観的に証明される

3. 復帰の必然性

  • 長期間の経過により、復帰の理由に合理性が認められやすい
  • 会社の状況変化や新たな事業展開等の理由が立証しやすい

ただし注意点として:

今後の税務調査では他の論点で調査される可能性

復帰時の職務内容や報酬設定は慎重に検討

復帰の経緯について適切な文書化が必要

まとめ

みなし退職金は適切に活用すれば大きな節税効果が期待できる制度ですが、税務調査で否認されるリスクも存在します。特に以下の点にご注意ください:

  • 実質的な退任の確保:形式だけでなく実態が重要
  • 支給額の相当性:功績倍率法等による適正額の算定
  • 手続きの適正性:株主総会決議等の適切な手続き
  • 復帰時期の検討:最低1年、できれば5年程度の期間確保

経営者の皆様の状況に応じて最適な提案をいたします。みなし退職金に関するご相談は、ぜひ当事務所までお気軽にお問い合わせください。 あくまで個人の解釈で個々の事例の判断は異なる場合があります。

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