【元銀行員だった税理士が解説】銀行が融資審査で重点的にチェックする貸借対照表の科目

税理士法人松野茂税理士事務所 B/Sの見方
目次

融資を成功させるために知っておくべき元銀行員の視点

融資審査において、銀行員は損益計算書と同様に貸借対照表(BS)を重要視します。特に「仮装経理」の兆候を見抜くため、以下の科目を重点的にチェックしています。

損益計算書とBS の本質的な違い

損益計算書(PL)は従業員の努力の積み上げです。売上や利益は、従業員が日々努力して積み上げた成果が数字として表れます。

一方、貸借対照表(BS)は社長の意志そのものです。どこから資金を調達し、何に投資するか、借入をどう管理するか、これらはすべて社長の経営判断が反映されます。つまり、BSは社長の顔なのです。

悪いBSを作ってしまうと、キャッシュフローが悪化し、最終的に会社は倒産してしまいます。なぜなら、会社倒産の原因は赤字ではなく、キャッシュフローの枯渇だからです。どんなに黒字でも、支払うべき現金がなければ会社は継続できません。

だからこそ銀行員は、社長の経営能力や資金管理能力を判断するため、BSを詳細にチェックするのです。

この視点は、私自身が銀行員時代に培った実務経験に基づく考えです。教科書には載らない現場の知識として、融資審査の実態をお伝えします。

【最重要】売掛金 – 仮装経理発見の第一のポイント

銀行員がチェックするポイント

  • 回転期間の異常な延長:売掛金回転日数が業界平均を大幅に上回る
  • 売上高に対する売掛金比率の異常な増加:前年比較で不自然な増加
  • 長期滞留債権の存在:6ヶ月以上の古い売掛金の有無

仮装経理のパターン

売上を架空計上すると売掛金が膨らみ、回収されないため残高が異常に増加します。銀行員はこの点を最も警戒しています。

対策

債権の実在性を証明する資料(契約書、納品書等)の保管

売掛金の年齢分析表を整備

回収遅延の理由を明確に説明できるよう準備

 現金・預金 – 不自然な資金移動のチェック

銀行員がチェックするポイント

  • 現金残高の異常な増加:特に月商に対する現金比率
  • 預金残高の不自然な変動:期末に向けた資金操作の痕跡
  • 複数口座間の資金移動:資金繰りを良く見せるための操作

仮装経理との関連

架空売上で増えた売掛金を「回収した」ように見せるため、現金を増加させるケースがあります。しかし、実際には売上がないため、この現金は他から調達したものとなり、不自然な動きを示します。

役員貸付金 – 経営者の資金流用をチェック

銀行員がチェックするポイント

  • 残高の継続的な増加:返済されない貸付金の蓄積
  • 金額の妥当性:会社規模に対して過大な貸付
  • 返済計画の有無:具体的な返済予定とその実現可能性
  • 資金使途の妥当性:事業に関連しない個人的な支出への流用

仮装経理のカモフラージュ手段

増えすぎた現金を隠すため、役員貸付金として処理するケースがあります。「社長がお金を借りた」という形で現金減少を説明しようとする手法です。

個人的流用のリスク

銀行員が特に警戒するのは、役員貸付金が以下のような個人的な用途に使われているケースです:

  • 個人の趣味・娯楽:ゴルフクラブ購入、高級車、海外旅行など
  • 個人資産の取得:自宅購入、別荘、個人投資など
  • 家族関連の支出:子供の学費、配偶者の事業資金など
  • ギャンブル・投機:株式投資、競馬、パチンコなどの遊興費

これらの用途は事業との関連性が薄く、「会社のお金を私的に流用している」と判断され、経営者のモラルや資金管理能力に疑問を持たれます。融資審査においては大きなマイナス要因となります。

銀行員の実務的な評価方法

重要なポイント:銀行員は役員貸付金について、役員個人に返済能力がないことを前提として考えます。そのため融資審査の際には、役員貸付金の金額を繰越利益剰余金から控除して実質的な財務内容を判断します。

例えば:

  • 繰越利益剰余金:1,000万円
  • 役員貸付金:300万円
  • 実質的な繰越利益剰余金:700万円

この計算により、帳簿上は黒字でも実質的には債務超過に近い状態だと評価されるケースがあります。役員貸付金は「回収不能な不良債権」として扱われ、会社の実力を大幅に下方修正して判断されるのが実態です。

棚卸資産 – 利益操作の温床をチェック

銀行員がチェックするポイント

  • 回転率の悪化:在庫回転日数の異常な延長
  • 評価の適正性:陳腐化した在庫の簿価切り下げ状況
  • 実地棚卸の実施状況:帳簿在庫と実在庫の一致性

注意すべき操作

期末の仕入計上タイミング操作

架空の仕入計上による在庫の水増し

不良在庫の評価損計上回避

固定資産 – 資産の実在性と評価をチェック

銀行員がチェックするポイント

投資の回収可能性:設備投資の効果測定

減価償却の適正性:法定耐用年数に基づく適正な償却

資産の実在性:担保価値のある資産の確認

買掛金・未払金 – 支払能力の実態をチェック

銀行員がチェックするポイント

債務の網羅性:簿外債務の存在可能性

支払サイトの延長:仕入先への支払遅延の有無

未払金の内容:給与、社会保険料等の法定支払の遅延

固定資産 – 資産の実在性と評価をチェック

銀行員がチェックするポイント

投資の回収可能性:設備投資の効果測定

減価償却の適正性:法定耐用年数に基づく適正な償却

資産の実在性:担保価値のある資産の確認

借入金 – 既存債務の状況をチェック

銀行員がチェックするポイント

  • 返済履歴:過去の延滞や条件変更の有無
  • 借入依存度:総資産に対する借入金比率
  • 借入金使途:設備資金か運転資金かの内容確認

まとめ:健全な財務諸表作成のポイント

銀行員に信頼される決算書の特徴

  1. 整合性がある:科目間の数値に論理的な関連性がある
  2. 継続性がある:会計処理方針が一貫している
  3. 透明性がある:注記等で適切な説明がなされている
  4. 実態を反映している:経営実態と数値が合致している

融資成功のための準備

  • 各科目の増減理由を論理的に説明できる資料の準備
  • 業界平均との比較分析
  • 将来の事業計画と数値の整合性確保
  • 税理士による適正な会計処理の実施

重要な注意:仮装経理は3年程度で発覚するケースが多く、一度信用を失うと融資関係の修復は困難になります。適正な会計処理を継続し、銀行との信頼関係を構築することが、安定した資金調達の基礎となります。

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