はじめに
インボイス制度の導入により、消費税の取り扱いが大きく変わりました。特に個人事業主から法人への転換(法人成り)を検討されている事業者の皆様にとって、今がまさに「最後のチャンス」と言える重要な時期です。
インボイス制度導入前の法人成りメリット
従来の2年間免税制度
新設法人は設立当初、以下の条件により消費税の納税義務が免除されていました:
- 基準期間がない:設立1期目・2期目は前々事業年度の課税売上高による判定ができない
- 特定期間の判定:資本金1,000万円未満かつ特定期間の課税売上高・給与支払額が1,000万円以下
- 結果:最大2年間の消費税免税事業者として事業運営が可能
この制度により、法人成りは大きな節税効果をもたらしていました。
インボイス制度導入による変化
免税事業者の制約
2023年10月のインボイス制度導入により状況が一変:
免税メリットの消失:登録と同時に課税事業者となり、従来の2年間免税の恩恵を受けられない
取引先の仕入税額控除:免税事業者からの仕入れは原則として仕入税額控除の対象外
事実上の登録圧力:取引継続のためインボイス登録事業者になる必要性
新設法人における救済措置:2割特例
2割特例の概要
インボイス制度導入に伴い、新設法人には以下の特例措置が設けられています:
適用条件
- 基準期間のない新設法人
- インボイス登録により課税事業者となった法人
- 令和5年10月1日から令和8年9月30日までの期間
特例内容
簡易課税制度との選択適用も可能
納付税額 = 課税売上げに係る消費税額 × 20%
通常の仕入控除税額の計算が不要
具体的な節税効果
計算例
- 年間課税売上高:5,000万円
- 課税売上げに係る消費税額:500万円(10%)
従来の本則課税の場合
- 仕入控除税額を個別計算
- 実際の仕入れに係る消費税額によって納税額が決定
2割特例適用の場合
仕入れの内容に関わらず一律20%で計算
納付税額:500万円 × 20% = 100万円
業種的に建設業 サービス業などは2割特例が有利となると思われる。
法人成りを検討すべきタイミング
今が「最後のチャンス」である理由
- 経過措置の期限:2割特例は令和8年9月30日まで
- 設立タイミング:早期設立により特例適用期間を最大化
- 事業規模:一定規模以上の事業者ほど節税効果が大きい
検討すべき事業者の特徴
所得税の累進税率が高くなっている事業者
年間課税売上高が1,000万円を超える個人事業主
取引先からインボイス対応を求められている事業者
事業拡大により法人化のメリットが見込める事業者
法人成りの総合的なメリット
消費税以外のメリット
税務面
- 所得税から法人税への転換による税率メリット
- 役員報酬による所得分散効果
- 退職金制度の活用
- 欠損金の繰越控除期間の延長(10年)
事業面
事業承継対策としての効果
社会的信用の向上
金融機関からの資金調達の円滑化
優秀な人材確保の優位性
注意すべきポイント
デメリットと留意事項
- 設立・運営コスト:登記費用、税理士費用の増加
- 社会保険の強制適用:厚生年金・健康保険の事業主負担
- 税務申告の複雑化:法人税申告書の作成
- 赤字でも発生する税負担:法人住民税均等割
慎重な検討が必要な場合
個人事業での各種控除(青色申告特別控除等)を十分活用できている事業者
年間売上高が1,000万円未満で推移する見込みの事業者
設立・運営コストが節税効果を上回る可能性がある事業者
2割特例より本則課税や簡易課税が有利になる場合もあるので注意
まとめ
インボイス制度の導入により、法人成りによる消費税節税の環境は大きく変化しました。しかし、新設法人に対する2割特例により、令和8年9月30日までは一定の節税メリットを享受できる「最後のチャンス」が残されています。
事業規模や将来性を総合的に判断し、この機会を活かした法人成りを検討されることをお勧めします。ただし、個々の事業状況により最適な選択は異なりますので、専門家にご相談のうえ、慎重にご検討ください。製造業やサービス業は簡易課税よりも2割特例が有利となります。
会社設立後の特定期間の課税売上高が1千万円(または給与の合計額が1千万円)を超えてしますと翌年から2割特例は選択できません。特定期間とは会社を設立して6月間を言います。この6月間の売上高(実際は給与の合計でもよい)が1千万円を超えると翌年は2割特例は使えません。