はじめに
個人で不動産賃貸業を営まれている地主さんにとって、相続対策は重要な課題です。今回は、簿価の少なくなった建物を新設法人に譲渡することで、相続財産の圧縮と賃貸収入の所得の分散を同時に実現する手法についてご説明します。
不動産所得は地代収入のみとなり子供が給与を受けます。
この手法の基本的な仕組み
1. 建物の法人譲渡による相続財産の圧縮
現状の問題点
- 個人名義の建物:相続税評価額は固定資産税評価額X(1-0.3)
- 長年の減価償却により簿価は大幅に減少
- 建物の固定試案税評価は残存価格が2割程度なのであまり下がりません。
対策後の効果
- 建物を法人に譲渡することで、個人の相続財産から除外
無償返還届を出すことで土地の評価が2割減額されます。
もともと 借家建付地なので(1-0.6X0.3)なので18%の減額はされます。
賃貸収入は子供達への給与に代わります。
色々 有利な面が多く ブログでは書き入れません。
2. 賃貸収入の分散効果
従来の構造
- 賃貸収入はすべて地主個人に帰属
- 高額な所得税・住民税の負担
- 収入増加により相続財産も増加
対策後の構造
地主個人の収入減少により相続財産の増加を抑制
建物からの賃貸収入は法人に帰属
法人から子供に役員報酬として支給
所得分散により税負担軽減
実務上の手続きと注意点
1. 法人設立から建物譲渡まで
Step 1:法人設立
- 資本金は適正額に設定(1,000万円未満推奨)
- 株主構成は将来の相続を見据えて決定 誰が相続するのか?
Step 2:建物の譲渡価額の決定
さて 譲渡する建物の譲渡価格の問題がありますが、多くの判例から帳簿価格での譲渡が認められます、 1円の簿価なら5万円程度で良いです。
よって償却の進んだ古い建物が対象となります。 非常に重要なポイントです。 新築のマンションは簿価が小さくなるまで待たないと効果を発揮しません。
Step 3:資金調達
簿価で譲渡するため資金を用意する必要はありません。
2. 土地の取り扱い(無償返還の届出)
土地は個人名義のまま
- 建物のみを法人に譲渡
- 土地は個人所有のまま法人に賃貸借 地代は固定資産税の3倍 地代を0円する使用貸借はNGとなります。 重要です。
無償返還の届出書提出
- 土地の所有者(個人)と使用者(法人)が連名で提出
- 無用返還届の理解が必要です。今回は割愛します。
3. 税務上の留意事項
所得税(個人)
- 建物譲渡益に対する譲渡所得税はほとんどありませんが申告は必要です。
簿価又は5万円程度で売却
毎年 法人の役員が給与をもらいます。子供にしておくの良いです。
法人税
- 簿価での譲渡が時価に比して低くて問題になることはほとんどありません、
相続税
無償返還届出を出すことで借地権の認定課税の問題をクリアにします。認定課税の説明は割愛します。
相続財産の減少
前提条件
- 建物:固定資産税評価額 5,000万円、簿価 0円
- 土地:相続税評価額 3億円
- 年間賃料収入:3,000万円
対策前の相続財産
建物:5,000万円 x(1-0.3借家権割合)=3千5百万円
土地:3億円 ×(1-0.6借地権X0.3)=2億4千600万円
合計:2億8千百万円
対策後の相続財産
建物:0円(法人所有)
土地:3億円(無償返還届出により2割減額)2億4千万円
合計:2億4千万円
この例では建物部分の圧縮効果により4千万円の相続財産圧縮を実現
家賃収入が会社に計上される事での相続財産の増加防止の方が重要かと思います。
成功させるためのポイント
1. 適切なタイミング
- 建物の簿価が十分に減少した時期
- 地主の年齢や健康状態を考慮
- 地代は固定資産税の3倍以上
2. 家族間の合意形成
- 相続人全員の理解と協力
- 将来の事業承継も見据えた株主構成
- 法人運営への参画意識
3. 継続的な管理
- 法人の適切な運営
- 役員報酬の適正額の設定
4 地代の決定
土地を会社に貸しているので地代を決めないと行けません。地代は 固定資産税の3倍程度にしておきます。
小規模宅地の評価が可能
多くのケースで貸家の場合の小規模宅地の特例を受けることができると思います。
まとめ
建物の法人譲渡による相続対策は、以下の効果を同時に実現できる優れた手法です:
所得分散効果:賃貸収入の法人帰属と役員報酬による分散
相続財産の圧縮効果
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