スタッフとの会話で分かる!融資審査で重視される決算書の明細
スタッフA:「所長、決算書や法人税の申告書は分かるんですが、勘定科目内訳書って何ですか?」
所長:「良い質問だ。実は勘定科目内訳書は、銀行融資の際に非常に重要な書類なんだよ」
スタッフB:「決算書とは違うんですか?」
所長:「決算書は全体像を示すもの。勘定科目内訳書は、その詳細な明細を記載した書類なんだ。今日はその重要性を教えよう」
勘定科目内訳書とは
スタッフA:「具体的にどんな内容が書かれているんですか?」
所長:「勘定科目内訳書は、貸借対照表の主要な勘定科目の明細を詳細に記入した書類なんだ」
主な記載項目
資産の部:
- 現金預金 → 各銀行の口座別残高
- 売掛金 → 取引先別の残高
- 受取手形 → 振出人・金額・期日の明細
- 棚卸資産(在庫) → 商品・製品・原材料の内訳
- 役員貸付金 → 役員別の貸付残高
- 固定資産 → 資産別の取得価額・減価償却
負債の部:
- 買掛金 → 仕入先別の残高
- 借入金 → 金融機関別の残高・返済条件
スタッフB:「かなり細かいですね」
所長:「そう。決算書では『売掛金3000万円』としか書かれていないものが、勘定科目内訳書では『A社1000万円、B社800万円、C社500万円…』と詳細に記載されるんだ」
銀行が勘定科目内訳書で見るポイント
スタッフA:「銀行は融資の際、この内訳書で何をチェックするんですか?」
所長:「銀行の目的は一つ。架空の資産がないかをチェックしているんだ」
スタッフB:「架空の資産、ですか?」
所長:「そう。前に勉強した粉飾決算を思い出してごらん。粉飾すると資産が増えるよね。その架空資産を見抜くために、銀行は内訳書を細かくチェックするんだよ」
銀行が警戒する5つのポイント
所長:「具体的には、こういうポイントを見ているんだ」
【ポイント1】現金残高が多すぎる
スタッフA:「現金が多いのは、良いことじゃないんですか?」
所長:「いや、逆なんだ。現金残高が多すぎると、実際に手元に残っているのか疑われるんだよ」
現金残高の適正範囲
正常な範囲:
- 小規模企業:10万円〜50万円程度
- 中規模企業:50万円〜100万円程度
- 日々の小口現金や釣銭程度
異常な金額:
- 現金残高が100万円超
- ましてや300万円、500万円
- 実際には存在しない可能性
スタッフB:「なぜ架空の現金を計上するんですか?」
所長:「粉飾で利益を増やすと、その分どこかの資産を増やさないと帳簿が合わない。その時に一番簡単なのが『現金』に計上することなんだ」
銀行の質問例
銀行員:「御社の決算書では現金残高が300万円ありますが、実際に金庫に入っていますか?今、確認できますか?」
所長:「こう聞かれて『実は…』となるケースが多いんだよ」
スタッフA:「すぐバレますね」
所長:「そう。だから現金残高は適正な金額に抑えることが重要なんだ」
【ポイント2】特定の売掛金残高が大きすぎる
スタッフB:「売掛金もチェックされるんですか?」
所長:「もちろん。特にA社の売掛金が全体の売上高に比較して多い場合は、銀行に説明できなければいけないんだ」
売掛金の異常パターン
パターン1:全体の売掛金が多い
- 前年より売掛金の残高が増加
- 売上は変わらないのに売掛金だけ増える
- 架空売上の可能性
パターン2:特定取引先への集中
- A社への売掛金が全体の50%超
- 1社への依存度が高すぎる
- その会社が倒産したら連鎖倒産のリスク
パターン3:長期滞留債権
- 6ヶ月以上回収されていない売掛金
- 実質的に回収不能の可能性
- 不良債権化している
所長:「銀行はこういう疑いを持つんだ」
銀行が疑うこと
疑い1:取引先や取引条件の悪化
- 「取引先の業績が悪くて回収が遅れているのでは?」
- 「無理な掛け売りをしているのでは?」
疑い2:売上の過大計上(粉飾)
- 「架空の売上を計上しているのでは?」
- 「売上の前倒し計上をしているのでは?」
スタッフA:「売掛金一つでそこまで疑われるんですね」
所長:「そう。だから勘定科目内訳書では、取引先別の売掛金残高が重要なんだ」
【ポイント3】受取手形の滞留
所長:「受取手形も売掛金と同様にチェックされる」
受取手形で見られるポイント
チェック項目:
- 振出人(誰が振り出した手形か)
- 金額(1枚の手形の金額)
- 期日(いつ決済されるか)
- 滞留状況(期日が異常に長くないか)
異常なパターン:
- 期日が6ヶ月以上先
- 決済されない手形が溜まっている
- 振出人の信用が低い
スタッフB:「手形が長期間決済されないのは危ないんですね」
所長:「そう。手形が不渡りになると、一気に資金繰りが悪化する。銀行はそのリスクを見ているんだ」
【ポイント4】役員貸付金の増加
所長:「これが銀行にとって最大のマイナスイメージなんだ」
スタッフA:「役員貸付金ですか?」
所長:「そう。役員貸付金の残高が増加すると、銀行は非常に警戒するんだよ」
役員貸付金が疑われる理由
銀行の見方:
- 売上の過大計上の帳尻合わせ
- 架空売上を計上 → 売掛金が増える
- 回収できない → 役員貸付金に振替
- 不明金の支出の隠蔽
- 使途不明な支出が発生
- 帳簿の帳尻を合わせるために役員貸付金に計上
- 会社のお金の私的流用
- 社長が会社のお金を個人的に使った
- それを貸付金として処理
スタッフB:「どれも良くない理由ですね…」
所長:「そう。だから役員貸付金は会社の大きなマイナスイメージとなるんだ」
銀行からの指摘
銀行の対応:
- 「役員貸付金があるから、会社にお金を返しなさい」
- 「返せないなら融資できません」
- 「役員貸付金を役員報酬で相殺してください」
所長:「役員貸付金があるから融資を断られることは少なくないんだ」
スタッフA:「役員貸付金は作らないのが一番ですね」
所長:「その通り。どうしても発生した場合は、早急に解消する必要があるんだよ」
【ポイント5】在庫(棚卸資産)の増加
スタッフB:「在庫も前に勉強しましたよね」
所長:「そう。在庫の棚卸資産が大きくなることも、銀行から疑われるんだ」
在庫増加で疑われること
疑い1:売れ残り
- 「商品が売れなくて在庫が増えているのでは?」
- 「不良在庫が山積みでは?」
- 「実質的な価値がないのでは?」
疑い2:赤字隠し(粉飾)
- 「在庫を水増しして利益を作っているのでは?」
- 「実際の在庫より多く計上しているのでは?」
正常な在庫の目安:
- 小売業:売上の1〜2ヶ月分
- 卸売業:売上の2〜3ヶ月分
- 製造業:売上の3〜6ヶ月分
異常な在庫:
- 前年比で大幅増加
- 売上が減っているのに在庫が増える
- 業種平均を大きく超える
所長:「在庫が異常に多いと、銀行は『この在庫は本当に存在するのか?』『売れるのか?』と疑うんだ」
銀行融資で説明できる準備
スタッフA:「所長、じゃあ融資を受ける時は、どう準備すればいいんですか?」
所長:「良い質問だ。銀行に説明できるように、こういう準備をしておくんだ」
融資申込前のチェックリスト
現金残高の確認
- [ ] 現金残高は適正範囲内か(100万円以下)
- [ ] 実際の現金残高と一致しているか
- [ ] 架空現金はないか
売掛金の確認
- [ ] 各取引先の残高は適正か
- [ ] 長期滞留債権はないか
- [ ] 特定取引先への依存度は高すぎないか(50%以下が理想)
- [ ] 回収条件の説明ができるか
受取手形の確認
- [ ] 期日が適正か(通常3ヶ月以内)
- [ ] 振出人の信用状況は問題ないか
- [ ] 不渡り懸念のある手形はないか
役員貸付金の確認
- [ ] 役員貸付金はゼロか
- [ ] ある場合、返済計画はあるか
- [ ] 発生理由を説明できるか
棚卸資産の確認
- [ ] 在庫の内訳を説明できるか
- [ ] 不良在庫を除外しているか
- [ ] 在庫回転日数は適正か
- [ ] 実地棚卸は正確に行っているか
スタッフB:「これを全部チェックしてから融資を申し込むんですね」
所長:「そう。そして銀行から質問されたら、すぐに答えられる準備をしておくことが大切なんだ」
実際の銀行面談でのやり取り
スタッフA:「実際に銀行の人とどんな会話になるんですか?」
所長:「よし、実例を見せよう」
【良い例】説明できる会社
銀行員:「売掛金が3000万円ありますが、主な取引先を教えてください」
社長:「はい、A社が1000万円、B社が800万円、C社が500万円です。いずれも長年の取引先で、回収実績も良好です。内訳書をご覧ください」
銀行員:「在庫が1500万円ありますが、これは?」
社長:「当社は月商500万円ですので、約3ヶ月分の在庫です。製造業としては適正な水準です。不良在庫は毎期適切に廃棄しています」
銀行員:「分かりました。問題ありませんね」
【悪い例】説明できない会社
銀行員:「現金残高が500万円ありますが、実際に金庫にありますか?」
社長:「いや…実は帳簿上だけで…」
銀行員:「役員貸付金が800万円ありますが、これは?」
社長:「うーん、よく分からないんですが、税理士がそう処理したと…」
銀行員:「在庫が去年の倍になっていますが、理由は?」
社長:「…」
銀行員:「申し訳ございませんが、今回の融資は見送らせていただきます」
所長:「こうなると融資は難しいんだ」
スタッフB:「説明できないと、すぐに断られるんですね」
まとめ:勘定科目内訳書の重要性
所長:「最後にまとめよう」
勘定科目内訳書で銀行が見る5つのポイント
1. 現金残高
- 多すぎると架空を疑われる
- 適正範囲:100万円以下
2. 売掛金
- 増加傾向は要注意
- 特定取引先への集中リスク
- 長期滞留債権の有無
3. 受取手形
- 期日の長い手形は危険
- 振出人の信用確認
4. 役員貸付金
- 最大のマイナスイメージ
- できる限りゼロに
- 増加は即座に警戒される
5. 棚卸資産(在庫)
- 増加は売れ残りか粉飾を疑われる
- 業種別の適正水準を把握
スタッフA:「勘定科目内訳書って、本当に重要なんですね」
所長:「そう。決算書本体よりも、実は内訳書の方が重要なんだ。ここに会社の本当の姿が現れるからね」
スタッフB:「お客様の決算書を作る時は、銀行の視点も考えないといけませんね」
所長:「その通り。私たちは単に税金の計算をするだけじゃない。銀行融資を受けやすい決算書を作ることも、重要な仕事なんだ」
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