11回【尼崎の税理士が解説】間違いやすい!小規模宅地等の特例 共通Q&A集

税理士法人松野茂税理士事務所 1回【尼崎の税理士が解説】間違いやすい!小規模宅地等の特例 共通Q&A集

相続税申告において、納税額に最も大きな影響を与える特例の一つが「小規模宅地等の特例」です。適用できるか否かで、相続税額が数千万円単位で変わることも珍しくありません。しかし、その適用要件は複雑で、実務上でも判断に迷うケースが頻繁に発生します。

今回は、特定居住用宅地等、特定事業用宅地等、貸付事業用宅地等に共通する、特に誤りやすい論点をQ&A形式で詳しく解説します。


目次

Q1. 相続開始時に売買契約中の土地(売主側)は特例の対象になりますか?

A1. 原則として対象外(NG)です。

相続税の評価において、相続開始時に売買契約が締結され、引き渡しが完了していない不動産は、もはや「土地」ではなく「売買代金を受け取る権利(未収債権)」として扱われます。

小規模宅地等の特例は、租税特別措置法第69条の4第1項の規定により、あくまで「宅地等」そのものを相続または遺贈により取得した場合に適用されるため、金銭債権と評価されるこのケースでは適用できません。

ただし、契約内容が不確実で、後に契約が解除された場合など、例外的に特例の適用が認められる可能性はゼロではありません。所得税のように、契約日基準か引渡日基準かを選択する考え方とは異なる点に注意が必要です。

【条文の根拠】 租税特別措置法第69条の4第1項は「相続又は遺贈により取得した財産のうちに…宅地等がある場合」と規定しており、宅地等そのものの取得が要件となっています。


Q2. 相続開始時に売買契約中の土地(買主側)は特例の対象になりますか?

A2. 原則として対象(OK)です。

買主側の場合、相続開始時点で被相続人がその土地を居住用や事業用として利用していれば、財産評価は土地・家屋として行われ、小規模宅地等の特例の対象となり得ます。

代金を支払い済みで引渡しを待っている状態であれば、実質的に土地の所有権を取得しているものとして評価されるため、被相続人がその土地で事業を営んでいた、あるいは居住していたなど、その他の要件を満たせば特例を適用できます。


Q3. 生前贈与(相続時精算課税制度を含む)で取得した土地は特例の対象になりますか?

A3. 対象外(NG)です。

小規模宅地等の特例は、**「相続または遺贈」**によって取得した宅地等を対象とする制度です。したがって、贈与税の暦年課税(相続開始前7年以内の贈与で相続税に加算される贈与を含む)や相続時精算課税制度を利用して生前に贈与された土地については、本特例を適用することはできません。

【条文の根拠】 租税特別措置法第69条の4第1項は「相続又は遺贈により取得した財産」と明記しており、贈与により取得した財産は除外されています。また、措置法通達69の4-1においても、「特例対象宅地等には、被相続人から贈与(死因贈与を除く)により取得したものは含まれない」と明確に規定されています。

相続開始前7年以内の暦年課税贈与により取得した土地が相続税の課税価格に加算される場合であっても、取得原因が「贈与」である以上、特例の適用はありません。相続時精算課税制度についても同様です。


Q4. 親族以外の第三者が遺贈によって取得した場合、特例は適用できますか?

A4. 対象外(NG)です。

小規模宅地等の特例を適用できる取得者は、被相続人の**「親族」**であることが法律上の要件とされています。

【条文の根拠】 租税特別措置法第69条の4第1項柱書きにおいて、特例の適用を受けることができる者は「個人」とされており、同条第3項各号の要件において「被相続人の親族」であることが前提となっています。

ここでいう「親族」とは、民法第725条に規定する親族、すなわち6親等内の血族、配偶者および3親等内の姻族を指します。したがって、遺言によって親族以外の第三者(友人など)が土地を取得したとしても、この特例を受けることはできません。


Q5. 養子が遺贈によって取得した場合はどうですか?

A5. 対象(OK)です。

養子は法律上の「親族(一親等の血族)」として扱われます。したがって、養子が相続または遺贈によって宅地等を取得し、その他の適用要件を満たせば、小規模宅地等の特例を適用できます。

民法上、養子縁組により養子と養親の間には法律上の親子関係が成立し、養子は養親の一親等の血族となります。相続税法においても養子は実子と同様に扱われますので、小規模宅地等の特例の適用においても親族要件を満たします。


Q6. 共有で土地を相続した場合、限度面積はどのように計算しますか?

A6. 共有持分に応じて按分します。

特例の限度面積(特定居住用宅地等なら330㎡、特定事業用宅地等なら400㎡など)を計算する際、対象となる土地の面積に各自の共有持分割合を乗じて判定します。

例えば、面積100㎡の土地を共有持分1/2で取得した場合、特例の対象として計算するのは50㎡となります。

【条文の根拠】 租税特別措置法施行令第40条の2第6項において、特例対象宅地等の全部または一部が共有である場合には、それぞれの持分割合を乗じて計算した面積により、限度面積要件を判定することが規定されています。


Q7. 評価対象の土地に私道が含まれている場合、私道部分も特例の対象になりますか?

A7. 対象(OK)です。

その私道が、特例の対象となる宅地(自宅の敷地や事業用の土地など)と一体として利用されている場合は、私道部分も含めて小規模宅地等の特例の対象とすることができます。

例えば、自宅の敷地に接続する私道で、日常的に自宅への出入りのために使用されているような場合、その私道は居住用宅地等と一体として評価され、特例の適用対象となります。

ただし、私道が専ら他人の通行の用に供されており、被相続人等の居住または事業の用に供されていないと認められる場合には、特例の適用はできません。


Q8. 当初申告の選択が誤っており、税務署から修正を求められた場合、別の土地で特例を再選択できますか?

A8. 認められる場合があります。

例えば、「家なき子」特例を適用して申告したものの、税務調査でその要件を満たしていないと指摘されたとします。この場合、当初の選択が否認されたことになるため、もし他の相続人が取得した別の土地(例:貸付事業用宅地等)で適用要件を満たしているのであれば、そちらで特例を適用する選択替えが認められることがあります。

これは、当初の選択が法令の要件を満たしていないことが判明した場合に、真に適用可能な宅地等について改めて特例を適用する趣旨です。


Q9. 当初申告後に、もっと有利な選択方法が見つかった場合、更正の請求で選択替えはできますか?

A9. 認められません(NG)。

小規模宅地等の特例は、一度申告書で選択した内容を、後から納税者に有利になるという理由だけで変更(選択替え)することは原則として認められていません。

【条文の根拠】 相続税法第32条の更正の請求は、申告書に記載された課税価格等が過大であった場合などに認められますが、小規模宅地等の特例における宅地等の選択は、納税者の選択に委ねられた権利の行使です。単に選択を誤ったという理由では、課税価格が過大であったとは認められません。

どの土地で特例を適用するかは、相続税額に大きな影響を与えます。申告前に、税額が最も少なくなる組み合わせを十分にシミュレーションし、慎重に選択することが極めて重要です。


Q10. 遺産分割後、遺留分侵害額請求を受けて土地を代償として渡した場合、特例は使えますか?

A10. 対象(OK)です。

民法改正により、遺留分は金銭債権(遺留分侵害額請求権)となりました。したがって、相続で一度取得した土地の特例適用要件は満たされます。

その後、遺留分侵害額の支払いのためにその土地を相手方に渡す行為は「代物弁済」という譲渡にあたり、譲渡所得税の申告が必要になる場合がありますが、相続税の申告で適用した小規模宅地等の特例が取り消されることはありません。

小規模宅地等の特例の適用要件の判定は「相続開始時」および「申告期限」を基準として行われます。遺留分侵害額請求に基づく代物弁済は相続後の譲渡取引であり、相続税の課税関係には影響を与えません。


Q11. 災害で事業が休業中に相続が発生した場合、事業用宅地の特例は受けられますか?

A11. 一定の要件下で認められます。

原則として、相続開始時に事業が休業している場合、事業用宅地としての特例は適用できません。租税特別措置法第69条の4第1項では、「事業の用に供されていた宅地等」と規定されており、相続開始の直前において現に事業の用に供されていることが要件となっているためです。

しかし、災害によりやむを得ず休業している状況については救済措置が設けられています。

【条文の根拠】 措置法通達69の4-5および69の4-17において、災害により被相続人の事業の用に供されていた建物が被害を受けたため、申告期限において当該事業を休止中である場合、当該事業の再開のための準備を進めていると認められるときは、当該建物の敷地は申告期限において当該親族の事業の用に供されているものとして取り扱うことができるとされています。

被災後、事業再開に向けて準備を進めているなど、事業を継続する意思が明確であれば、特例の適用が認められる可能性があります。具体的には、修復工事の発注、営業再開の告知、従業員の雇用維持などの準備行為が認められることが必要です。


まとめ

小規模宅地等の特例は、相続税の節税効果が非常に大きい一方で、適用要件が複雑です。今回ご紹介したQ&Aは、実務上よく問題となる論点ばかりです。

適用の可否によって相続税額が大きく変わるため、専門家である税理士に相談することをお勧めします。特に、複数の土地がある場合の選択や、要件を満たすかどうか微妙なケースでは、慎重な判断が必要です。


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