小規模宅地等の特例 間違いやすいポイント Q&A

税理士法人松野茂是利子事務所 小規模宅地
目次

Q1:「生計を一」にするの概念について

Q:老人ホーム入居中の母とその子の生計一親族適用について

老人ホームに入居している母と、賃貸住宅で別居している子が、小規模宅地等特例の適用を受けられますか?

A:生計一親族の要件を満たしていれば適用可能

生計を一にするとは、同一の生活単位に属し、相互に助け合って共同の生活を営んでいることを指します。具体的には:

  • 日常生活の資を共通にしていること
  • 居住費、食費、光熱費等の主要な部分を共通にしていること
  • 老人ホームの費用を被相続人名義で支払っていること

老人ホーム入居の場合でも、生計一親族の要件を満たしていれば特例の適用は可能です。


Q2:別居親族の居住要件について

Q:被相続人が病気入院中の間、面倒をみていた別居の親族が取得した居住用宅地

被相続人が病気治療のため入院していた期間中、別居の親族が毎日面倒を見ていた場合、その親族が相続した居住用宅地に特例適用はありますか?

A:特定居住用宅地等の要件に該当しない

特定居住用宅地等は、相続開始直前において被相続人等の居住用に供されていたものが対象です。

  • 別居の親族による看病は「生計を一」の要件を満たさない
  • 相続開始直前に被相続人と生計を一にしていた親族の要件に該当しない

したがって、特定居住用宅地等の適用は受けられません。


Q3:事業用宅地の生計一要件について

Q:被相続人所有の宅地で事業を営んでいた別居親族の場合

被相続人Aの子Bが、A所有の宅地で大工業を営んでいました。AとBは別居で、Bには相応の収入があり、Aから経済的援助は受けていませんでした。この宅地に小規模宅地等特例は適用されますか?

A:特定事業用宅地等の要件に該当しない

特定事業用宅地等の趣旨は、被相続人の生前から一般的に事業の維持に欠くことのできない宅地について、相続財産の担税力の無有に着目し、相続税負担の軽減を図るものです。

  • 被相続人と生計を一にしていない
  • 経済的援助関係がない

この場合、事業継承者の担税力はあると考えられるため、特定事業用宅地等の適用は困難です。


Q4:2世帯住宅の取扱い

Q:区分所有建物の登記がされている1棟の建物の敷地

被相続人甲と配偶者乙、子丙が、1棟の建物を所有し、区分所有建物の登記があります。甲の居住部分(A部分)と、生計別の丙の居住部分(B部分)がある場合の特例適用は?

A:平成26年改正により大幅に適用が拡大

平成26年1月1日以降の相続開始から:

  • 配偶者が取得した部分:80%減額
  • 生計別の子が取得した部分:0%減額(適用なし)

重要なポイント:

  • A部分(50㎡)は特定居住用宅地等に該当
  • B部分(50㎡)は措置法69条の4第1項の要件に該当しない
  • 区分所有建物の登記がある場合の特別な取扱い

Q5:老人ホーム入所の注意点

Q:相続開始直前に老人ホームに入居していた場合

被相続人が老人ホーム入居する前に同居していた親族が敷地を取得する場合の適用について。

A:要介護認定等の要件確認が必要

平成26年1月1日以降の相続開始から、次の事由で老人ホーム等に入居した場合は適用可能:

  1. 要介護認定又は要支援認定を受けていること
  2. 障害支援区分の認定を受けていること

ただし:

  • 相続開始直前において被相続人等の居住用に供されていなかった場合でも
  • 上記要件を満たし、相続開始まで継続して事業又は居住を継続していれば適用可能

Q6:配偶者居住権の取扱い

Q:配偶者居住権が設定されている宅地への小規模宅地等特例適用

相続した宅地等に自宅用と共同住宅用の遺言対象の宅地に小規模宅地等特例を適用できますか?

A:自宅用・共同住宅用共に適用可能

配偶者が取得した配偶者居住権の対象宅地36,000千円に対しても小規模宅地等特例を適用できます。

配偶者居住権の対象宅地に小規模宅地等特例を適用した場合の効果:

  • 配偶者の納税額:0円(配偶者控除適用により)
  • しかし、配偶者控除を適用することにより逆に納付税額は多くなる場合もある

配偶者居住権の対象宅地に特例を適用する場合は、他の小規模宅地等の適用もあわせて検討が必要です。


Q7:個人事業用資産の納税猶予と免除

Q:個人事業用資産の相続税納税猶予と小規模宅地等特例の選択

個人事業用資産の相続税の納税猶予及び免除の規定の適用を受けると、事業用宅地に小規模宅地等特例の特定事業用宅地等の適用を受けることはできますか?

A:選択適用となる

個人事業用資産の相続税の納税猶予及び免除の規定と小規模宅地等特例の特定事業用宅地等の規定は選択適用です。

重要な検討ポイント:

  • 宅地の割合が少ない場合:個人事業用資産の納税猶予が有利
  • 宅地の割合が多い場合:小規模宅地等の特定事業用宅地の特例が有利
  • 同時に適用することはできない

Q8:贈与税の配偶者控除との関係

Q:贈与税の配偶者控除と特定居住用宅地等の計算

配偶者居住権が設定されている宅地への小規模宅地等特例について、贈与税の配偶者控除も適用した場合の取扱いは?

A:相続開始直前における現況により判定

贈与税の配偶者控除を受けた居住用不動産についても、相続開始直前において被相続人の居住用に供されていた宅地等であれば、小規模宅地等特例の適用対象となります。

注意点:

  • 配偶者控除を適用することで相続税総額では配偶者の納税額の方が少なくなる場合がある
  • 配偶者居住権の対象宅地に特例適用をしない方が有利な場合もある
  • 総合的な税額計算での検討が必要

まとめ

小規模宅地等の特例適用にあたっては、以下の点に特に注意が必要です:

  1. 生計一の概念:同居の有無よりも経済的な結びつきが重要
  2. 相続開始直前の現況:被相続人の状況により適用可否が決まる
  3. 選択適用:他の特例との関係で有利不利を検討
  4. 配偶者控除との関係:総合的な税額での比較検討が必要
  5. 老人ホーム特例:要介護認定等の要件確認が必須

専門的な判断が必要な場合は、個別の事情に応じて詳細な検討を行うことが重要です。


【参考】国税庁関連リンク

基本資料・法令関係

国税庁通達・質疑応答事例

申告書様式・記載要領

実務参考資料

判例・裁決事例

最新情報・改正情報


実務でよく参照するページ

  1. 小規模宅地等の概要タックスアンサー No.4124
  2. 生計一に関する取扱い所得税法基本通達2-47
  3. 配偶者居住権の評価財産評価基本通達
  4. 老人ホーム特例の要件措置法令40条の2第2項

これらのリンクを活用することで、最新の取扱いや詳細な要件を確認できます。

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