12回【税理士が解説】相続税の申告遅れと小規模宅地等の特例|期限後でも適用できる?

税理士法人松野茂是利子事務所 12回【税理士が解説】相続税の申告遅れと小規模宅地等の特例|期限後でも適用できる?

相続手続きの中でも、特に節税効果の大きい「小規模宅地等の特例」。しかし、「気づいたら申告期限を過ぎていた」「遺産分割がまとまらなかった」というケースは少なくありません。

申告期限を過ぎると、この特例はもう使えないのでしょうか?

結論から言うと、諦めるのはまだ早いです。一定の要件を満たせば、申告期限を過ぎた後でも小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。

この記事では、相続税専門の税理士が、申告期限に間に合わなかった場合の特例の取り扱いについて、関連条文に基づきケース別に分かりやすく解説します。


目次

Q1. 遺産分割は完了しているのに、相続税の申告期限を過ぎてしまいました。特例は適用できますか?

A1. 申告期限内に申告できなかったことについて「やむを得ない事情」があり、税務署長の承認を受けた場合は、適用できる可能性があります。

原則として、小規模宅地等の特例は租税特別措置法第69条の4第6項により、期限内申告時に特例適用の意思表示と明細書の添付が必須要件とされています。

しかし、同法第3項第3号により、以下の要件を満たせば例外的に適用が認められます。

要件

  1. 申告期限内に申告書を提出できなかったことについて「やむを得ない事情」がある
    • 租税特別措置法施行令第40条の2第20項に規定される事情
    • 具体例:災害による被害、交通・通信の途絶、申告書作成に必要な書類の入手困難など
  2. その事情がやんだ日から2ヶ月以内に承認申請書を提出
    • 「相続税の申告書の提出期限までに申告書を提出することができなかったことについてやむを得ない事情がある旨の承認申請書」を税務署長に提出
  3. 税務署長の承認を受ける
  4. 承認された場合、やむを得ない事情がやんだ日から4ヶ月以内に申告書を提出

注意点

単なる「失念」「多忙」「税理士への依頼遅れ」などは、やむを得ない事情とは認められません。認められる事情は極めて限定的ですので、該当する可能性がある場合は、速やかに税理士にご相談ください。

また、本来の納税額が発生する場合には、ペナルティとして無申告加算税(国税通則法第66条)や延滞税(同法第60条)が課される可能性があります。


Q2. 遺産分割がまとまらず、未分割のまま申告期限を過ぎてしまいそうです。どうすれば良いですか?

A2. 「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで、将来的に特例を適用できる道が残されています。

遺産分割が申告期限までに間に合わないケースは実務上よくあります。この場合でも、以下のステップを踏むことで、特例の適用が可能です。

租税特別措置法第69条の4第3項ただし書により、以下の要件を満たせば特例適用が可能です。

手続きの流れ

  1. 期限内申告と「分割見込書」の提出
    • 未分割の状態で期限内に相続税申告を行います 重要です。期限内提出が条件です。
    • その際、必ず**「申告期限後3年以内の分割見込書」**を申告書に添付してください(租税特別措置法施行規則第23条の2第14項)
    • これは、「3年以内に分割を終える見込みです」という意思を税務署に示す重要な書類です
  2. 申告期限から3年以内に遺産分割を完了させる
    • 文字通り、申告期限から3年以内に遺産分割協議を成立させます
  3. 更正の請求を行う
    • 遺産分割が成立した後、税務署に対して「更正の請求」という手続きを行います(国税通則法第23条)
    • 分割が行われた日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求を行ってください
    • この手続きによって、小規模宅地等の特例を適用した正しい税額に修正し、払い過ぎていた税金を還付してもらいます

この一連の手続きは、期限内に分割が間に合わなかった相続人への救済措置と言えます。


Q3. 「やむを得ない事情」で、申告期限から3年を過ぎても遺産分割が終わりません。もう特例は使えませんか?

A3. 3年経過後も、特定の「やむを得ない事情」が税務署長に承認されれば、特例を適用できる場合があります。

原則として、申告期限から3年以内に遺産分割が完了しないと、小規模宅地等の特例は適用できなくなります。

しかし、例えば「遺産分割に関する訴訟が長引いている」など、相続人の責任とは言えないやむを得ない事情がある場合は例外が認められています。

租税特別措置法第69条の4第3項第2号および租税特別措置法施行令第40条の2第19項に基づき、以下の手続きが必要です。

やむを得ない事情の具体例

  • 遺産分割の訴え、調停・審判が係属中であること
  • 遺言書の有効性を争う訴訟が係属中であること
  • 認知(にんち)の訴えや遺留分侵害額請求に関する訴えが提起されていること
  • 遺産の所有権について訴訟が起きていること
  • その他これらに準ずる事情

手続きの流れ

  1. 承認申請書の提出
    • 申告期限から3年を経過する日の翌日から2ヶ月以内に提出
    • 「遺産が未分割であることについてやむを得ない事情がある旨の承認申請書」を税務署長に提出し、承認を得ます
  2. やむを得ない事情が解消された後に分割を完了させる
    • 例えば、判決が確定するなどして事情が解消された日の翌日から4ヶ月以内に遺産分割を完了させます
  3. 更正の請求を行う
    • 分割完了後、速やかに「更正の請求」を行い、特例の適用を受けます(分割日の翌日から4ヶ月以内)

この手続きは非常に専門的であり、認められる「やむを得ない事情」も限定的です。該当する可能性がある場合は、必ず税理士などの専門家に相談してください。


まとめ

小規模宅地等の特例は、原則として期限内申告が要件ですが、条文上、一定の救済措置が設けられています。

  • 申告失念の場合:極めて限定的な「やむを得ない事情」がある場合のみ救済
  • 未分割の場合:期限内申告時に「分割見込書」を提出することで3年間の猶予
  • 3年超の未分割:訴訟係属など特定の事情がある場合のみ延長可能

いずれのケースも、手続きには厳格な期限と要件があります。申告期限が迫っている、または過ぎてしまった場合は、一日も早く相続税に詳しい税理士にご相談ください。

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事務所概要

税理士法人松野茂税理士事務所
代表税理士:松野 茂
社員税理士:山本 由佳
所属税理士:近畿税理士会 尼崎支部
法人登録番号:第6283号
法人番号:4140005027558
適格請求書発行事業者登録番号(インボイス番号):T4140005027558
所在地:〒660-0861 兵庫県尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F
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