阪神尼崎駅徒歩1分、税理士法人松野茂税理士事務所の松野です。30年の実務経験をもとに、不動産所得の事業的規模判定について、特に共有不動産の取扱いを中心に解説します。
事業的規模とは何か
不動産の貸付けが「事業的規模」に該当するかどうかで、税務上の取扱いが大きく変わります。事業的規模に該当すると、青色申告特別控除(最大65万円)、事業専従者給与の必要経費算入、資産損失の全額経費算入など、有利な取扱いを受けることができます。
所得税基本通達26-9の基準
国税庁の所得税基本通達26-9では、建物の貸付けが事業に該当するかどうかを「社会通念上『事業』と称するに至る程度の規模」で判定するとしています。
具体的な形式基準として、次のいずれかを満たす場合は、原則として事業的規模として取り扱われます。
- アパート等の貸室:おおむね10室以上
- 独立家屋の貸付け:おおむね5棟以上
実務では「2室=1棟」として換算する方法が一般的です。たとえば、アパート6室と戸建て2棟を所有している場合、6室÷2=3棟、3棟+2棟=5棟となり、事業的規模に該当します。
共有不動産の場合はどう数えるか
ここからが本題です。相続などで不動産を共有している場合、この5棟10室の判定はどのように行うのでしょうか。
持分按分しない考え方が原則
結論から申し上げると、共有不動産の事業的規模判定では、共有持分で室数や棟数を按分せず、物件全体の貸付実態を基準に判定するのが通達の趣旨に沿った考え方です。
たとえば、兄弟2人で10室のアパートを2分の1ずつ共有している場合、各自が5室ずつ所有していると考えるのではなく、10室のアパート全体を共有していると考えます。したがって、各共有者とも10室基準を満たし、事業的規模に該当することになります。
地方税(個人事業税)との整合性
兵庫県など地方税の実務においても、共有不動産は持分按分せず「共有物全体で認定」する取扱いが示されています。所得税と個人事業税で判断が異なると実務上混乱が生じるため、この考え方は整合的です。
相続税の小規模宅地等の特例との関係
相続税の小規模宅地等の特例における「特定貸付事業」の判定でも、事業的規模の判断が重要になります。
措置法通達69の4-24の4
租税特別措置法関係通達「69の4-24の4」では、特定貸付事業に該当するかどうかを判定する際、「社会通念上『事業』と称するに至る程度の規模」で判定するとし、その具体的判断は所得税基本通達26-9の取扱いに準じるとしています。
つまり、相続税の特例適用においても、5棟10室基準が一つの目安となるのです。
事業的規模に該当する場合のメリット
事業的規模に該当すると、次のような税務上のメリットがあります。
青色申告特別控除
事業的規模の場合、最大65万円(電子申告等の要件を満たす場合)の控除が受けられます。事業的規模でない場合は10万円が上限です。
事業専従者給与
青色申告者の場合、事業専従者給与を必要経費に算入できます。事業的規模でない場合は適用できません。
資産損失の経費算入
事業的規模の場合、賃貸用固定資産の取壊し、除却等による損失を全額必要経費に算入できます。事業的規模でない場合は、その年分の不動産所得の金額が限度となります。
貸倒損失
事業的規模の場合、賃貸料等の貸倒損失を必要経費に算入できます。
形式基準と実質判定の関係
5棟10室はあくまで「特に反証がない限り」の形式的な目安です。
実務では、この基準を満たさない場合でも、賃貸収入の規模、管理の態様、人的・物的設備の状況などから、実質的に社会通念上の事業と認められる場合には、事業的規模と判定される可能性があります。
逆に、5棟10室を満たしていても、例外的に事業的規模と認められないケースも理論上はあり得ます。
実務上の留意点
共有不動産を含めた不動産所得の事業的規模判定では、次の点に留意が必要です。
共有者全員の合意形成
共有者それぞれが事業的規模に該当するかどうかを判断する際、物件全体での判定となるため、共有者間で認識を統一しておくことが重要です。
継続的な見直し
相続や贈与、物件の売却などにより、事業的規模の該当性が変わる可能性があります。定期的に見直しを行いましょう。
相続対策との連携
小規模宅地等の特例を適用する場合、事業的規模の判定が特例の適用可否に影響します。相続対策を検討する際には、この点も考慮が必要です。
まとめ
共有不動産の事業的規模判定は、持分按分せず物件全体で判断するのが原則です。5棟10室という形式基準は重要な目安ですが、最終的には実質的な事業性を総合的に判断することになります。
不動産所得の申告や相続対策をご検討の際は、個別の状況に応じた適切な判断が必要です。当事務所では、30年の実務経験と専門知識をもとに、お客様の状況に最適なアドバイスを提供いたします。
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