はじめに
相続の現場では、不動産などの財産を公平に分けることが難しいケースがよくあります。そんな時に活用されるのが「代償分割」という方法です。特に小規模宅地等の特例が絡むと計算が複雑になるため、30年の実務経験から、わかりやすく解説いたします。
代償分割とは
代償分割とは、共同相続人のうち1人または数人が相続財産を現物で取得し、その代わりに他の相続人に金銭などを支払う遺産分割の方法です。現物分割が困難な場合に有効な手法として、実務上よく活用されています。
参考:国税庁タックスアンサー
No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算
相続税の課税価格の計算方法
基本的な計算ルール
国税庁の定める計算方法は以下の通りです。
代償財産を交付した人(現物取得者)
相続財産の価額 − 交付した代償金 = 課税価格
代償財産の交付を受けた人
相続財産の価額 + 受け取った代償金 = 課税価格
代償金の評価額の考え方
原則として、代償債務の額は相続開始時の金額となります。
ただし、以下の条件を満たす場合は特殊な計算式を用いることができます。
条件:
- 代償分割の対象財産が特定されている
- 代償債務の額が分割時の通常取引価額を基に決定されている
計算式:
代償金額 × (相続開始時の相続税評価額 ÷ 代償分割時の通常取引価額) = 調整後の代償金額
小規模宅地特例が絡む実務事例
事例の条件
- 土地の相続税評価額:8,000万円
- 小規模宅地特例適用後:1,600万円(80%減額)
- 代償分割時の時価:1億円(評価額÷0.8で算出)
- 実際の代償金支払額:6,000万円
計算パターン①:特殊計算式を使用
6,000万円 × (8,000万円 ÷ 1億円) = 4,800万円
A(土地取得者)の課税価格
1,600万円 − 4,800万円 = △3,200万円
B(代償金受取者)の課税価格
4,800万円
計算パターン②:実額での申告
相続人全員の協議により、代償金をそのまま6,000万円として計算することも可能です。
A(土地取得者)の課税価格
1,600万円 − 6,000万円 = △4,400万円
B(代償金受取者)の課税価格
6,000万円
実務上の重要ポイント
相続人間の税負担を考慮する
小規模宅地特例を適用すると、現物取得者の相続税負担が極端に減少します。一方で代償金を受け取る相続人の負担が相対的に重くなる可能性があります。
実務では以下の点に注意が必要です:
- 各相続人の相続税額をシミュレーションする
- 税負担が公平になるよう遺産分割を調整する
- 小規模宅地特例を最大限活用しつつ、全体の税負担を最小化する
遺産分割協議書の作成時の注意点
- 代償分割の対象となる財産を明確に特定する
- 代償金の金額と支払時期を明記する
- 小規模宅地特例の適用を前提とした分割である旨を記載する
まとめ
代償分割は相続実務において非常に有効な手法ですが、小規模宅地特例が絡むと計算が複雑になります。ポイントは以下の3点です。
- 小規模宅地特例を最大限活用する遺産分割を検討する
- 相続人全員の税負担をシミュレーションする
- 適切な代償金額の計算方法を選択する
相続税の申告は専門的な知識が必要です。代償分割や小規模宅地特例の適用をご検討の際は、お気軽にご相談ください。
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