はじめに
税理士法人松野茂税理士事務所の松野です。今回は、平成30年度税制改正によって劇的に変化した「一般社団法人を活用した相続対策」について詳しく解説いたします。
かつて相続対策の花形だったこの手法が、なぜ一夜にして業界内で語られなくなったのか。その背景と現在の状況をお伝えします。
改正前の黄金時代:なぜ一般社団法人が注目されたのか?
持分のない法人という魅力
改正前の一般社団法人は、相続対策において非常に魅力的な存在でした。その理由は「持分の概念がない」という特性にあります。
基本的な仕組みはこうでした:
- 財産移転の仕組み
- 被相続人が一般社団法人を設立し、理事に就任
- 個人財産(不動産、有価証券等)を法人に移転
- 法人は持分がないため、相続財産から除外される
- 財産保全機能
- 相続税評価額の高い財産を法人に移すことで、個人の相続財産を圧縮
- 法人内の財産は相続税の対象外となる
- 実質的に財産の世代移転を無税で実現
この手法は「租税回避行為の典型例」として問題視され、平成30年度改正でついに規制されることになりました。
平成30年度改正の激震:業界に走った衝撃波
突然の沈黙
平成30年度税制改正により「特定一般社団法人」の概念が導入されると、税理士業界では急激にこの手法について誰も言わなくなりました。
それまで積極的に推奨していた専門家も、一転して沈黙するようになり、相続対策の主流手法から一気に姿を消したのです。
現在の業界の状況
しかし一部の相続対策を行う事務所は今でも利用していると聞きます。
**当事務所では、リスクとコンプライアンスの観点から、現在はこの手法を扱っておらず、サポートもいたしません。**クライアントの利益を最優先に考え、より安全で確実な相続対策手法をご提案しております。
特定一般社団法人とは?:改正のポイント
判定要件
改正により創設された「特定一般社団法人等」は、以下の要件のいずれかを満たす場合に該当します:
1. 相続開始直前の判定
- 亡くなった理事(被相続人)の相続開始直前において、その被相続人に係る同族理事の数が理事総数の2分の1を超える場合
2. 相続開始前5年以内の期間による判定
- 相続開始前5年以内において、同族理事の数が理事総数の2分の1を超える期間の合計が3年以上である場合
同族理事の範囲 計算における「同族理事」とは、法人の理事のうち以下の者を指します:
- 被相続人(亡くなった理事)
- 被相続人の配偶者および3親等内の親族
- その他、被相続人と特殊な関係がある者(例:被相続人が役員を務める会社の従業員など)
相続税の課税関係
特定一般社団法人に該当する場合の課税は厳しいものです:
1. 課税時期
- 理事の死亡時点で相続税が課税される
- 被相続人の相続財産として法人の純資産額を加算
2. 課税対象額の計算 特定一般社団法人の理事が死亡した場合、その法人は個人とみなされ、被相続人から遺贈により財産を取得したものとして相続税が課されます。
計算式:
課税価格 = 相続開始時の法人の純資産額
────────────────────────
死亡時の同族理事の数 + 1
例:法人の純資産額が5億円で、死亡時の同族理事(被相続人を含む)が4人だった場合 課税価格 = 5億円 ÷ (4 + 1) = 1億円
3. 納税義務者
- 当該法人が納税義務を負う
- 個人の相続税とは別に法人が納付
4. その他重要な注意点
- この制度は法人の「理事」の死亡を対象としており、「社員」の死亡は対象外
- 特定一般社団法人等に課される相続税額は、2割加算の対象となる
- 2018年4月1日以後の理事の死亡について適用(ただし、2018年3月31日以前に設立された法人については、2021年4月1日以後の死亡から適用という経過措置あり)
現在でも有効な一般社団法人活用方法
改正により相続対策としての活用は制限されましたが、適切に運営すれば以下のような活用方法は残されています。
1. 負債財産の処理
不良資産の国庫帰属による処理
- 管理困難な別荘や収益性の低い不動産を法人に移転
- 相続人が承継を望まない財産の処理手段
- 法人解散時に残余財産は国庫に帰属
- 相続人への負担転嫁を回避
2. 事業承継対策
株式移転による評価圧縮
- 自社株式を一般社団法人に移転
- 議決権の集約と分散防止
- 後継者への円滑な事業移転
3. 公益活動との組み合わせ
社会貢献活動による節税効果
- 公益性のある事業運営
- 寄附金控除の活用
- 地域貢献による企業価値向上
4. 資産管理機能
ファミリーオフィス的活用
- 家族資産の一元管理
- 投資運用の効率化
- リスク分散効果
実務で気をつけるべきポイント
既存法人への影響
- 改正前に設立された法人も遡及適用される
- 親族理事の割合や経済的利益の見直しが必要
対応策の検討
1. 理事構成の見直し
- 非親族理事の比率を高める
- 独立性のある理事の選任
2. 経済的利益の分散
- 親族以外への利益供与を増加
- 公益性のある事業活動の拡充
3. 退任タイミングの検討
- 5年経過ルールを踏まえた長期的な計画策定
- 理事退任後の法人運営体制の整備
まとめ:当事務所のスタンス
平成30年度税制改正により、一般社団法人を活用した相続対策は大幅に制限されることとなり、業界内でも一気にタブー視されるような状況となりました。
**当事務所では、一般社団法人を活用した従来の相続対策については、現在は取り扱っておらず、サポートもいたしません。**クライアントの長期的な利益を重視し、より堅実で法的リスクの少ない相続対策手法を中心にご提案しております。
相続対策は長期的な視点で、確実性を重視することが何より重要です。一時的な節税効果よりも、将来にわたって安心できる対策をご一緒に検討させていただきます。
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参考リンク
国税庁公式資料:
専門機関・専門家による解説:
業界団体による解説:
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