はじめに
100%グループ内で資産を譲渡した場合、グループ法人税制により譲渡損益は繰り延べられ、「資産損益調整勘定」が発生します。
問題になるのは、 この調整勘定が合併によって「引継」になるのか、「実現」になるのか という点です。
今回は「兄弟会社間の合併(親会社が100%保有)」という典型的な事例を前提に整理します。
グループ法人税制
原則
全支配関係のある内国法人間で 譲受法人と譲渡法人の完全支配関税の終了により、繰り延べられた譲渡損益 は戻し入れます。
組織再編により、完全支配関係が終了した場合も 原則通り、繰り延べられた譲渡損益は戻し入れます。
例外
ただし、譲受法人が組織再編により譲渡法人との間で完全支配関係が無くなる又は譲渡損益対象資産を他の法人に移転する場合であってその組織再編が完全支配関係のある内国法人間の適格合併、適格分割、適格現物出資、適格分配である場合には、繰り延べられた損益の戻し入れは行わず、繰延が継続します。法61の13③二
(譲渡法人の組織再編 法61の13⑤も同様の趣旨です)
法人税法第61条の13第6項(法人税61の13⑥)は、グループ法人に関してグループ内で資産譲渡があった後、譲受法人が適格組織再編(適格合併・適格分割・現物出資・現物配分)によりその資産を移転した場合、移転先法人を引き続き「譲受法人」とみなして、譲渡損益調整の繰延規定を適用し続ける(譲渡法人の組織再編も同趣旨です)
個別の案件については条文を確認してください。
前提:兄弟会社(親会社が100%保有)のケース
- 親会社 A が 100%保有する B 社・C 社
- 数年前に B 社 → C 社へ X 社株式を譲渡
- グループ法人税制により 譲渡損益調整勘定(繰延)が発生
- 今回、C 社が B 社を吸収合併する
この場合、資産損益調整勘定の処理をどうするかが論点になります。 上図は例外 下図は原則

具体的な譲渡損の事例
【譲渡時の状況】
B社:X社株式の簿価 1億円
C社への譲渡価額:3,000万円
譲渡損:7,000万円
【グループ法人税制の適用】
→ この7,000万円の譲渡損は損金不算入
→ 「譲渡損調整勘定」として繰延処理
例外規定(兄弟会社=100%グループの場合)
ここが最重要ポイントです:
100%グループ内の兄弟会社間合併の場合
譲渡損調整勘定は「引継」となります
【合併時の処理】
C社がB社を吸収合併
↓
譲渡損調整勘定7,000万円は実現しない
↓
合併後のC社に引き継がれる
↓
将来、X社株式をグループ外に売却した時点で実現
つまり、合併しても譲渡損は損金算入できず、引き続き繰り延べられることになります。
実務上の重要ポイント
譲渡損が「閉じ込められる」問題
100%グループ内での資産譲渡で生じた譲渡損は:
- 即座に損金算入できない
- 合併しても実現しない(100%グループ内の場合)
- グループ外への売却まで使えない
この「譲渡損の閉じ込め」は、節税効果を期待していた企業にとって大きな誤算となる可能性があります。
原則規定:別の兄弟会社などのケース(支配関係による適格合併)
兄弟会社以外の、たとえば
- 親会社が 70%保有する子会社 X
- 親会社とは無関係の会社 Y
- X が Y を合併(70%支配 → 適格合併)
というケースでは、 資産損益調整勘定は「実現」します。
70%保有の場合の譲渡損事例
【前提】
譲渡損調整勘定:5,000万円
【合併時の処理】
完全支配関係ではないため
↓
譲渡損5,000万円が実現
↓
損金算入可能となる
完全支配関係の終了
完全支配関係が終了する場合も、譲渡損益調整勘定は実現します。
非適格の合併の場合 完全支配関係がある 株式の継続保有無しなどの場合

■原則:非適格合併=時価課税
これは税法の大原則。
■例外:完全支配関係 × 譲渡損益調整資産(=グループ法人税制)
📌 含み益(繰延分)は被合併法人では課税されない
📌 合併法人は簿価引継ぎになる
📌 結果として 時価 − 繰延 = 被合併法人簿価 となる
【原則】非適格合併は被合併法人で時価課税。
【例外】ただし完全支配関係にある場合で、
移転資産が“譲渡損益調整資産”(グループ法人税制の繰延資産)であれば、
含み益部分は被合併法人では課税されず、
合併法人では簿価引継ぎとなる。
したがって、移転資産は
時価 − 繰延額 = 合併法人簿価
という形で移転される。 詳しくは国税庁のリンク先へ
Q 譲渡法人が組織再編を行った場合の繰延の譲渡損益はどうなりますが?
原則
譲渡法人が、譲受法人との間の完全支配関係がなくなる組織再編を行った場合には原則 繰り延べている譲渡損益を戻入ます。譲渡法人の組織再編 法61の13⑤
例外
ただし、譲受法人が組織再編を行った場合であっても、その組織再編が完全支配関係のある内国法人の適格合併である場合には、例外的に譲渡損益の戻入は行わない。譲渡法人の組織再編 法61の13⑤]
よって 完全支配関係+適格合併は戻入を行わない。非適格は戻入ることになります。
個別の案件については条文を確認してください。
チェックリスト
合併を検討する際は、以下を必ず確認:
- [ ] 過去のグループ内譲渡の有無
- [ ] 譲渡損益調整勘定の金額
- [ ] 完全支配関係(100%)の有無
- [ ] 合併後の出口戦略
適格合併のまとめ
- 100%グループ内の兄弟会社間合併
- 譲渡損益調整勘定は「引継」
- 譲渡損は実現しない
- 100%以外の支配関係での合併
- 譲渡損益調整勘定は「実現」
- 譲渡損が損金算入可能に
グループ法人税制における譲渡損の取扱いは複雑であり、特に100%グループ内では譲渡損が長期間「閉じ込められる」リスクがあります。組織再編を検討される際は、必ず事前に専門家にご相談ください。
グループ法人税制(100%グループ内資産譲渡)と合併時の「譲渡損益の繰延」取扱い!有償ストックオプションと従業員持株会の違い|税理士法人松野茂税理士事務所
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本記事は一般的な税務情報の提供を目的としており、個別の税務相談に代わるものではありません。
事務所概要
税理士法人松野茂税理士事務所
代表税理士:松野 茂
社員税理士:山本 由佳
所属税理士:近畿税理士会 尼崎支部
法人登録番号:第6283号
法人番号:4140005027558
適格請求書発行事業者登録番号(インボイス番号):T4140005027558
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