📰 はじめに
最近、マンション管理組合や管理会社から「駐車場を外部に貸すと税務申告が必要ですか?」というご相談が増えています。
特に、大手サブリース会社が共用部分を一括借り上げ(サブリース)して外部に転貸するケースでは、管理組合が**「収益事業」を行ったとみなされ、法人税の申告対象**になる可能性があります。
しかし、実際の現場では「規約変更」や「住民優先」の意味を理解していない組合が多く、そのまま契約を進めると、思わぬ課税リスクや申告漏れによる追徴課税が発生することがあります。
本記事では、30年の実務経験を持つ税理士法人松野茂税理士事務所が、マンション管理組合の駐車場貸付における税務上の注意点を詳しく解説します。
🟩 1.駐車場貸付は「収益事業」に該当する可能性がある
管理組合は非営利の団体ですが、収益を目的として事業を行うと**法人税法上の「収益事業」**に該当します(法人税法施行令第5条第33号「駐車場業」)。
課税対象となる典型例
✅ サブリース会社に一括貸し(サブリース)する
✅ 外部の一般利用者に直接貸す
✅ 月極契約で継続的に外部貸付を行う
いずれも原則として課税対象になります。
国税庁の公式見解
なお、国税庁の質疑応答事例「マンション管理組合における駐車場使用料の取扱い」においても、管理組合が区分所有者以外の第三者に駐車場を貸し付ける場合は、原則として収益事業(駐車場業)に該当すると明示されています。
🟦 【重要】収益事業に該当しないケース(課税対象外)
すべての駐車場貸付が課税されるわけではありません。以下の場合は、原則として収益事業に該当しません。
✅ 住民専用の場合
区分所有者・居住者のみが利用し、外部への貸付を一切行っていない駐車場
✅ 一時的な貸付の場合
住民が長期不在の間など、ごく短期間(数ヶ月程度)のみ外部に貸し出すケース
✅ 実費負担のみの場合
外部貸付による収益がなく、維持管理費の実費相当額のみを徴収している場合
📌 判断のポイント
「継続的に利益を得る目的があるか」が最大の判断基準です。
一時的・臨時的な貸付で、かつ管理組合に実質的な利益が残らない場合は、収益事業と認定されないケースもあります。
🟩 2.まずは「管理規約」を変更し、総会決議を行う
多くの管理規約では、管理組合の目的を「建物の維持管理」に限定しています。
したがって、駐車場貸付のような収益事業を行うには、総会での規約改正が必須です。
規約変更のポイント
🔸 管理規約に「共用部分の有効活用による収益事業を行うことができる」などの文言を追加しましょう。
🔸 規約に根拠がないまま始めると、非営利の範囲を逸脱して課税リスクが高まるだけでなく、組合内でのトラブルの原因にもなります。
🔸 総会議事録は必ず保管し、税務調査時に提示できるようにしておきましょう。
🟩 3.収益事業を始めたら「税務申告」が必要
駐車場貸付で収益が発生した場合は、次の手続きが必要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 税務区分 | 収益事業(駐車場業)として課税対象 |
| 必要経費 | 借上げ料・保険料・維持管理費・減価償却費など(収益事業部分のみ按分計算) |
| 申告書類 | 法人税・地方法人税の確定申告書 |
| 申告時期 | 事業年度終了後2か月以内 |
| 会計処理 | 管理費会計とは別に「特別会計」で管理が必要(当事務所が作成サポート) |
必要経費の按分計算について
収益事業に該当する場合でも、全額が課税対象になるわけではありません。
収益と経費は、以下のように按分計算を行います。
按分の基本原則:
- 収益事業部分(外部貸付) ÷ 全体の割合で按分
- 一般的には「収益による按分」を使用(最も合理的)
- その他、「台数按分」や「面積按分」も使用可能
このように、外部貸付部分のみが課税対象となり、組合員利用部分は課税されません。
按分計算の注意点:
- 按分割合は合理的な基準(収益・台数・面積・日数など)で算出
- 毎月の利用状況を記録し、按分根拠を明確に保管
- 組合員と外部の料金が異なる場合は、収入も正確に区分
按分計算の具体的な方法については、個別のケースに応じて当事務所が計算します。
申告漏れのリスク
申告が必要と知らずに数年経過すると、税務調査で過去分の追徴課税や延滞税が課される可能性があります。
🟩 4.税務署が確認する「収益事業」の判断基準
税務署は、以下の3点で総合的に判断します。
1. 反復継続性
一時的か、定期的・継続的か
2. 独立性
管理業務と切り離された独立した収益活動か
3. 営利性
住民共益ではなく、外部からの収益獲得を目的としているか
これらに該当すれば、駐車場全体が課税対象とみなされる場合があります。
🟩 5.サブリース契約には「住民優先条項」を必ず入れる【最重要】
ここが最近、税務署が特に重視している新しい論点です。
住民優先条項とは
契約書の中に
「区分所有者・居住者を優先的に利用させる」
という文言がなければ、駐車場全体が収益事業と認定されるリスクがあります。
| 契約内容 | 税務上の扱い |
|---|---|
| 「住民優先」明記あり | 住民利用分は非収益事業(共益目的)として扱われる可能性 |
| 記載なし | 全区画が課税対象になるリスク |
📌 実務のポイント
- 住民利用分と外部貸付分を明確に区分
- 契約書に住民優先の文言を明記
- 契約書コピーを申告時に保存しておく
- 実際の利用状況(住民○台、外部○台)を記録
契約上の一文で、課税・非課税の判断が変わる時代です。
これは最近、国税庁の見解でも明確になりつつある「新しい実務基準」であり、契約前の確認が極めて重要です。
🟦 【実務資料】契約書に記載すべき「住民優先条項」の具体例
税務上のリスクを最小限にするため、サブリース契約書には以下のような特約条項を必ず盛り込むことをお勧めします。
📄 特約条項の記載例
【特約条項】(共用施設の有効活用と組合員の優先権)
第XX条
1. 本契約は、本マンションの共用施設である駐車場の維持管理費用を賄い、
もって組合員の共同の利益に資することを主たる目的とするものである。
2. この目的を達成するため、借主(サブリース業者)は、本駐車場の転貸
にあたり、常に組合員等の利用を最優先するものとし、外部の第三者への
貸付は、組合員等の利用が見込めない空き区画の有効活用に限定された
範囲で行うものとする。
3. 組合員から駐車場利用の申し込みがあった場合、借主は速やかにこれを
優先し、外部利用者の募集・契約よりも優先して手続きを行うものとする。
4. 借主は、毎月末日において、組合員利用区画数と外部貸付区画数を管理
組合に報告するものとする。
5. 本契約に基づく駐車場使用料収入は、専ら駐車場の維持管理および修繕
積立金の充当など、組合員の共同の利益のために使用されるものとする。
✅ この条項が重要な理由
| ポイント | 効果 |
|---|---|
| 第1項:目的の明示 | 収益目的ではなく「維持管理費の確保」と「組合員の共同利益」が目的であることを明確化 |
| 第2項:優先順位の明記 | 組合員優先が契約の大前提であり、外部貸付は二次的・補完的であることを明示 |
| 第3項:優先手続きの義務化 | 組合員申込みがあれば外部契約より優先する具体的手続きを規定 |
| 第4項:利用状況の報告義務 | 実態を把握し、税務調査時に「住民優先の実績」を証明できる |
| 第5項:収入の使途制限 | 収益の使途が組合員の共同利益に限定されていることを明示 |
🔴 避けるべきNG表現
以下のような表現は、収益事業と認定されやすくなるため注意が必要です。
❌ 「借主は自由に第三者に転貸できる」
❌ 「組合員と外部利用者を同等に扱う」
❌ 「収益の最大化を図る」
❌ 「市場価格で貸し付ける」
📋 契約書チェックリスト
サブリース契約を締結する前に、以下の項目を必ず確認してください。
- [ ] 「組合員の共同の利益」という文言が含まれている
- [ ] 「組合員優先」が明記されている
- [ ] 外部貸付は「空き区画の有効活用」に限定されている
- [ ] 組合員申込み時の優先手続きが規定されている
- [ ] 利用状況の報告義務が定められている
- [ ] 収入の使途が組合員の利益に限定されている
💡 税務調査時の対応
税務調査で「これは収益事業では?」と指摘された場合、以下の資料を提示できるようにしておきましょう。
- 契約書原本(住民優先条項を含む)
- 毎月の利用状況報告書(組合員○台、外部○台)
- 組合員からの申込み記録(優先対応の実績)
- 総会議事録(契約承認時の決議内容)
- 収支報告書(収益の使途が維持管理費等に充当されている証拠)
これらの資料が揃っていれば、「組合員の共益目的」であることを客観的に証明でき、全額課税を回避できる可能性が高まります。
🟩 6.実務でよくある質問(Q&A)
Q1. 空き区画が数台分だけある場合も申告が必要ですか?
A. 台数にかかわらず、継続的に外部貸付を行い収益が発生すれば、原則として申告が必要です。ただし、短期間の臨時的な貸付であれば課税対象外となる場合もあります。
Q2. サブリース会社から受け取る金額が少額でも申告は必要ですか?
A. 金額の大小にかかわらず、収益事業に該当すれば申告義務があります。ただし、所得金額によっては納税額がゼロになることもあります。
Q3. 過去に申告していなかった場合、どうすればよいですか?
A. 速やかに税理士に相談し、過去分の申告(期限後申告)を行うことをお勧めします。自主的に申告すれば、加算税が軽減される場合があります。
🟩 7.まとめ:契約と税務は「セット」で考える
マンション管理組合が駐車場を貸す場合、次の3点を必ず確認してください。
✅ チェックリスト
- 管理規約に「収益事業」を行える条項があるか
- 総会決議を経ているか
- 契約書に「住民優先」の文言があるか
これらを満たしていないと、駐車場全体が収益事業扱いとなり、思わぬ税務申告義務や追徴課税が発生する可能性があります。
税務リスクを未然に防ぐために
- 契約前に税理士に相談することが最も重要
- サブリース契約書の内容を事前にチェック
- 総会資料や議事録を適切に保管
- 会計処理は専門家のサポートを受ける
🔷 【重要】駐車場サブリース契約は4者の共同作業が不可欠
マンション管理組合の駐車場サブリース契約を適切に進めるには、以下の4者が連携して取り組むことが極めて重要です。
🏢 4者それぞれの役割
| 関係者 | 主な役割 | 重要ポイント |
|---|---|---|
| ① サブリース会社<br>(借主) | ・契約書の作成<br>・転貸業務の実施<br>・利用状況の報告 | 住民優先条項を契約書に明記し、実際の運用でも組合員を最優先する体制を整備 |
| ② マンション管理組合<br>(貸主) | ・総会での承認決議<br>・管理規約の改正<br>・契約内容の最終判断 | 組合員の利益を最優先し、税務リスクを理解した上で意思決定を行う |
| ③ マンション管理会社 | ・契約手続きのサポート<br>・総会資料の作成<br>・実務調整の窓口 | サブリース会社と管理組合の橋渡し役として、契約内容の適切な調整を支援 |
| ④ 税理士法人松野茂税理士事務所<br>(税務顧問) | ・契約前の税務判断<br>・契約書の税務チェック<br>・申告の要否判定<br>・継続的な税務サポート | 課税リスクを事前に評価し、適切な契約内容と会計処理を助言 |
🔄 4者連携の実務フロー
【契約前段階】
税理士 → 管理組合・管理会社
↓
税務リスクの評価と対策の提案
↓
管理会社 → サブリース会社
↓
契約書案の調整(住民優先条項の挿入)
↓
税理士 → 契約書の税務チェック
↓
管理組合 → 総会での承認決議
【契約後段階】
サブリース会社 → 管理組合・管理会社
↓
毎月の利用状況報告
↓
管理会社 → 税理士
↓
収支報告と税務申告の要否確認
↓
税理士 → 管理組合
↓
年次の税務申告(必要な場合)
⚠️ 4者連携が不十分な場合のリスク
| 連携不足のケース | 発生するリスク |
|---|---|
| 税理士の関与なし | 税務申告の必要性に気づかず、後日追徴課税を受ける |
| サブリース会社の独断 | 住民優先が形骸化し、全額課税のリスクが高まる |
| 管理会社の調整不足 | 契約内容が税務上不適切なまま進行してしまう |
| 管理組合の理解不足 | 規約改正や総会決議が不十分で、後日トラブルになる |
💡 成功する4者連携のポイント
✅ 契約検討段階から税理士を参画させる
契約締結後では手遅れになるケースが多いため、検討開始時点で相談しましょう。
✅ 定期的な4者ミーティングを開催
契約前に少なくとも1~2回、関係者全員が集まって協議する場を設けることが理想的です。
✅ 情報共有のルートを明確化
誰が誰に何を報告するのか、フローを明確にしておきましょう。
✅ 書面での記録を徹底
打合せ内容や合意事項は必ず議事録として残し、関係者全員で共有します。
📞 税理士法人松野茂税理士事務所の4者連携サポート
当事務所では、サブリース契約に関わる4者全員が参加する契約前相談を受け付けます。
相談で対応する内容:
- サブリース契約の税務リスク評価
- 契約書案の税務チェックと修正提案
- 管理規約改正案のアドバイス
- 総会資料作成のサポート
- 継続的な税務申告体制の構築
関係者全員が同じ認識を持つことで、契約後のトラブルや税務リスクを最小限に抑えることができます。
🟩 8.税理士法人松野茂税理士事務所のサポート内容
当事務所では、マンション管理組合の税務・会計・申告のサポートを幅広く行っています。
🏘️ マンション管理組合向け特別料金体系
当事務所では、マンション管理組合の業務を「住民に対する公共的事業」と位置づけ、全国対応で格安料金にて承っております。
管理組合は非営利団体であり、住民の皆様の共同利益のために活動されていることを理解し、できる限り負担の少ない料金設定でサポートいたします。
📍 全国対応可能(電話・オンライン相談・Web会議システム活用)
💰 格安料金体系(管理組合向け特別価格)
📞 初回相談無料
主なサービス
✅ 契約前の税務判断
サブリース契約書のチェック、課税・非課税の事前判定
✅ 規約変更・総会サポート
管理規約の改正案作成、総会議事録作成のアドバイス
✅ 駐車場収益の法人税申告
収益事業に該当する場合の確定申告書作成・提出
✅ 特別会計の作成・管理
管理費会計と分離した収益事業会計の帳簿作成支援 現在特別会計としている管理組合は見たことがありません。
当事務所がエクセルで計算しなおし税務署に収支計算書に添付して税務署に提出します。
✅ 按分計算のサポート
収益按分・台数按分などの合理的な計算方法の提案
✅ 税務調査対応
万が一の税務調査時の立会い・対応サポート
当事務所の強み
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- 税理士2名・マンション管理組合専門のスタッフによる対応
- 組織再編・M&Aなど高度な専門知識も保有
- マンション管理組合向け特別料金で負担を軽減
📍 お問い合わせ
税理士法人松野茂税理士事務所
📍 所在地:〒660-0861 兵庫県尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F
🚃 アクセス:阪神尼崎駅徒歩1分
📞 電話:06-6419-5140
📠 FAX:06-6423-7500
✉️ メール:info@tax-ms.jp
マンション管理組合の駐車場貸付に関するご相談は、契約前の段階でも承ります。
「これから契約を検討している」「既に貸し出しているが申告していない」など、どのような段階でもお気軽にご相談ください。
初回相談で、貴組合の状況に応じた最適なアドバイスをご提供いたします。
※ 本記事の内容は2025年10月時点の税法に基づいています。税制改正により取扱いが変更される場合がありますので、個別のケースについては必ず専門家にご相談ください。
税理士法人松野茂税理士事務所(尼崎)|事務所概要
税理士法人松野茂税理士事務所
代表税理士:松野 茂
社員税理士:山本 由佳
所属税理士:近畿税理士会 尼崎支部
法人登録番号:第6283号
法人番号:4140005027558
適格請求書発行事業者登録番号(インボイス番号):T4140005027558
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