8回 尼崎の税理士が解説:租税特別措置法69条の4に基づく特定事業用宅地等の特例

税理士法人松野茂是理非事務所尼崎の税理士が解説:租税特別措置法69条の4に基づく特定事業用宅地等の特例 

相続税の負担を大きく軽減できる「小規模宅地等の特例」。中でも事業用宅地については、要件が複雑で判断に迷われる方も多いのではないでしょうか。税理士法人松野茂税理士事務所では、30年以上の実務経験をもとに、相続対策からM&Aまで幅広くサポートしています。今回は、租税特別措置法69条の4の条文構造を踏まえながら、特定事業用宅地等の特例について実務のポイントを解説します。

目次

この記事の3つのポイント

  1. 事業用の土地は400㎡まで80%評価減が可能です。ただし、相続人が事業を引き継ぐなど厳しい要件があります。
  2. 事業用(400㎡)と居住用(330㎡)の土地は完全併用が可能です。最大730㎡まで80%減額の適用を受けられます。
  3. 貸付用の土地が絡むと計算は複雑化。有利な選択には専門家によるシミュレーションが不可欠です。

小規模宅地等の特例の法的根拠

小規模宅地等の特例は、租税特別措置法第69条の4に規定されています。この条文は、相続開始直前に被相続人又は生計を一にする親族の事業や居住に供されていた宅地等について、一定の面積限度で評価減を認める制度です。

特例の適用により、事業用宅地は400㎡まで評価額の80%を減額することができます。例えば、評価額1億円の事業用土地であれば、特例適用により評価額が2,000万円となり、8,000万円もの評価減が可能です。

条文構造と事業用宅地の3区分

措置法69条の4を正確に理解するには、条文の構造を把握することが不可欠です。事業用宅地等については、次の3つの区分で整理されています。

1. 被相続人の事業用宅地等(特定事業用宅地等)

根拠条文:措置法69条の4第3項第1号イ

相続開始直前に被相続人自身が事業に使っていた土地が対象となります。

主な適用要件

  • 相続開始直前に被相続人の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業を除く)の用に供されていた宅地等であること
  • 当該宅地等を取得した親族が、相続税の申告期限において被相続人の事業を承継し、かつ、申告期限まで引き続きその宅地等を有し、その事業を営んでいること

政令との関係

租税特別措置法施行令第40条の2は、事業用宅地の範囲や「準事業」の定義を規定しています。ここでいう「事業」とは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為(準事業)を含む場合と含まない場合があり、条文上の位置づけを正確に把握する必要があります。

準事業の具体例

準事業とは、「事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの」を指します。実務上は、いわゆる**「5棟10室基準」**(独立家屋5棟または区分所有建物10室)に満たない小規模な不動産貸付などが該当します。例えば、アパート5室を賃貸している場合などが準事業に該当する典型例です。

実務上の重要通達:措置法基本通達69の4-16

事業承継の継続要件については、通達69の4-16が実務上極めて重要です。

  • 全部廃業の場合:被相続人の事業を完全に廃止すると、事業承継要件を満たさず特例の適用はできません。
  • 一部転業の場合:被相続人が複数の事業を営んでいた宅地等について、相続人が相続税の申告期限までにその事業の一部を他の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業を除く)に転業した場合には、引き続き被相続人の事業を営んでいるものとして取り扱われます。

具体例

被相続人が製造業と卸売業を営んでいた土地について、相続後に製造業を廃止して卸売業のみを継続する場合、宅地全体について特例の適用が可能です。ただし、全ての事業を廃止して新たに飲食業を始めた場合は、被相続人の事業の承継とはみなされず、特例の適用はできません。

2. 生計一親族の事業用宅地等

根拠条文:措置法69条の4第3項第1号イ(生計一の場合)

被相続人と生計を一にしていた親族の事業に使われていた土地も対象となります。

主な適用要件

  • 相続開始直前に被相続人と生計を一にしていた親族の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業を除く)の用に供されていた宅地等であること
  • 当該宅地等を取得した親族が、相続開始前から申告期限まで引き続きその宅地等を有し、かつ、その親族の事業を営んでいること

重要:取得者と事業を営む親族が異なる場合

一般的なケースは、事業を営んでいる生計一親族自身がその宅地を取得する場合ですが、実は事業を営む親族と宅地を取得する親族が別人であっても特例の適用が認められる場合があります。

具体的には、以下の要件を満たせば適用可能です:

  • 相続開始直前に、被相続人の生計一親族(A)の事業の用に供されていた宅地であること
  • 相続開始時から申告期限まで、その親族(A)がその事業を継続していること
  • 取得者(B)が、申告期限までその宅地を所有し続けていること

:父(被相続人)の土地で、父と生計を一にする長男が事業を営んでいる。その土地を、相続で次男が取得した場合でも、長男が事業を継続し、次男が土地を保有し続けていれば特例の適用が可能です。

被相続人の事業用との重要な相違点

条文上、生計一親族の事業用宅地等では、事業継続要件が「相続開始前から申告期限まで」となっている点が被相続人の事業用と異なります。つまり、生計一親族が相続開始前から営んでいた事業を、申告期限まで継続して営む必要があります。

「生計を一にする」の判断基準

「生計を一にする」とは、所得税法の解釈に準じて実態で判断されます。必ずしも同居が要件ではなく、生活費や学資金等の送金が行われている場合なども含まれます。ただし、判断が微妙なケースも多いため、証拠資料の整理が重要です。

3. 特定同族会社事業用宅地等

根拠条文:措置法69条の4第3項第3号

同族会社が事業に使っている土地で、被相続人等が当該会社に貸し付けている場合が対象となります。

条文の構造

措置法69条の4は、第1項で「被相続人若しくは生計一親族の事業用・居住用」を規定し、第3項第3号で別途「特定同族会社の事業用」を規定しています。この区分は、単に会社が土地を使用しているだけでなく、被相続人側の貸付スキームが前提となる点で構造が異なります。

主な適用要件

  • 相続開始直前において被相続人及び被相続人の親族等が法人の発行済株式総数等の50%超を保有する特定同族会社であること
  • 当該法人の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業を除く)の用に供されていた宅地等であること
  • 当該宅地等が相当の対価で継続的に貸し付けられていたこと
  • 当該宅地等を取得した親族が、申告期限において当該法人の役員であり、かつ、申告期限まで引き続きその宅地等を有し、貸付けを継続していること

実務上の注意点

特定同族会社事業用宅地等は、被相続人が自ら経営する同族会社に土地を貸し付けている典型的な事業承継のケースで活用されます。「相当の対価」の判断や役員要件の充足など、条文要件の精査が重要です。

貸付事業用宅地等との区分(政令40条の2の重要性)

租税特別措置法施行令第40条の2は、事業用宅地の範囲を定めており、特に貸付事業の取扱いを明確にしています。

区分の重要性

  • 特定事業用宅地等(一般事業用):400㎡まで80%減額
  • 貸付事業用宅地等:200㎡まで50%減額

貸付事業として明確に列挙されているのは、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業の4つです。これらの事業は「貸付事業」に該当し、減額率・面積限度が異なります。製造業や小売業などの一般事業と比較して、同じ事業用宅地でも適用される特例の内容が大きく異なるため、政令レベルでの正確な理解が不可欠です。

準事業の位置づけ

政令40条の2では「準事業」についても規定されており、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うものを指します。ただし、条文上どの場面で準事業を含むか除くかが明記されているため、適用判断では条文の文言を慎重に確認する必要があります。

面積限度と減額率の条文上の整理

措置法69条の4第3項各号により、以下のように整理されます。

区分限度面積減額割合根拠条文
特定事業用宅地等400㎡80%措法69の4③一イ
特定同族会社事業用宅地等400㎡80%措法69の4③三
貸付事業用宅地等200㎡50%措法69の4③二

改正動向と「特定事業」概念の峻別

近年、事業承継税制の拡充が図られていますが、小規模宅地等の特例における「特定事業用宅地等」の基本的な枠組み(400㎡・80%減額、事業承継要件等)は維持されています。

用語の混同に注意

「特定事業」という用語は、事業承継税制の文脈(個人版事業承継税制における特定事業用資産、法人版における特例承継計画の特定事業等)でも頻出します。しかし、小規模宅地等の特例における「特定事業用宅地等」とは条文体系が全く異なるため、混同しないよう注意が必要です。

  • 小規模宅地の特定事業用宅地等:措置法69条の4
  • 事業承継税制の特定事業:措置法70条の6の8(個人版)、70条の7(法人版)等

複数の宅地を相続した場合の選択適用

実際の相続では、事業用の土地とご自宅(特定居住用宅地等)を同時に相続するケースも多くあります。平成27年1月1日以降の相続については、併用ルールが大幅に緩和されており、正確な理解が不可欠です。

事業用宅地と居住用宅地の完全併用

重要:平成27年改正による完全併用

平成27年1月1日以降の相続から、特定事業用宅地等(400㎡)と特定居住用宅地等(330㎡)は完全併用が可能となりました。つまり、両方に満額の特例を適用でき、合計で最大730㎡まで80%減額を受けることができます。

具体例

  • 特定事業用宅地等:400㎡(評価額1億円)→ 特例適用後2,000万円
  • 特定居住用宅地等:330㎡(評価額6,600万円)→ 特例適用後1,320万円
  • 合計:730㎡で評価減額額1億3,280万円

貸付事業用宅地等を含める場合の調整計算

一方、特定事業用宅地等や特定居住用宅地等と**貸付事業用宅地等(200㎡、50%減額)**を組み合わせて適用する場合は、単純な面積の合計ではなく、以下の調整計算が必要となります。

調整計算式

(特定居住用宅地等の適用面積 × 200/330)+ (特定事業用・特定同族会社事業用宅地等の適用面積 × 200/400)+ (貸付事業用宅地等の適用面積)≦ 200㎡

【重要】この計算式の意味

この式は「適用できる宅地の合計面積が200㎡になる」という意味ではありません。これは、限度面積や減額効果が異なる土地を共通の物差し(加重値)で評価し、全体の適用上限を判定するためのものです。

具体例

  • 特定居住用宅地等:165㎡を適用
  • 特定事業用宅地等:200㎡を適用
  • 貸付事業用宅地等:なし

調整計算:(165㎡ × 200/330) + (200㎡ × 200/400) + 0㎡ = 100 + 100 + 0 = 200㎡

この場合、実際に適用できる宅地の合計面積は365㎡(165㎡ + 200㎡)となります。調整後の数値が200㎡以内であれば、実際の合計面積は200㎡を超えていても適用可能です。

この計算が複雑であるため、どの土地をどの面積だけ適用させるかの選択が、納税額に極めて大きな影響を与えます。

有利選択のポイント

複数の宅地がある場合、以下の要素を総合的に判断する必要があります:

  1. 各宅地の評価額:評価額が高い土地を優先
  2. 減額割合:80%減額(事業用・居住用)を優先
  3. 限度面積:面積が大きい方を優先
  4. 将来の売却予定:売却する可能性がある土地は特例適用を見送る選択も

実務上の判断

評価額、減額割合、面積を考慮して、最も節税効果が高くなる組み合わせをシミュレーションすることが重要です。特に貸付事業用宅地等が複数ある場合や、各宅地の面積・評価額のバランスによって有利な選択は大きく変わります。

このような複雑なケースでは、税理士による詳細なシミュレーションが不可欠です。税理士法人松野茂税理士事務所では、30年以上の経験を活かし、お客様にとって最も有利な選択をご提案いたします。

実務上のチェックポイント

条文適用にあたり、以下の点を具体的な証拠資料とともに確認することが重要です。

相続開始直前の実態把握

  • どの名義で、誰が実際に事業を営んでいたか(被相続人、生計一親族、同族会社のいずれか)
  • 事業の種類と貸付事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業)に該当するか否か
  • 宅地の使用実態と契約関係

申告期限までの継続要件

  • 事業承継の実態(措置法基本通達69の4-16に基づく一部転業の可否)
  • 宅地の保有継続(取得者が引き続き保有しているか)
  • 同族会社の場合は役員要件の充足

証拠資料の整備

  • 事業の継続を示す帳簿書類、契約書
  • 生計一親族である事実を示す資料(送金記録、健康保険証等)
  • 同族会社の場合は株主名簿、役員登記、賃貸借契約書等

まとめ

特定事業用宅地等の特例は、相続税の節税効果が極めて大きい制度ですが、措置法69条の4及び政令40条の2、措置法基本通達69の4シリーズを正確に理解し、適用要件を満たしているか綿密に確認する必要があります。

特に、被相続人の事業用、生計一親族の事業用、特定同族会社事業用の3区分それぞれで条文上の要件が異なること、一部転業時の取扱いなど通達レベルの実務判断が重要であることを押さえておくことが肝要です。

税理士法人松野茂税理士事務所では、条文・通達に基づいた正確な判断と、30年以上の実務経験を活かした相続対策をご提案しています。特定事業用宅地等の特例適用、相続対策、事業承継、M&Aなど、お気軽にご相談ください。


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