6回 尼崎の税理士が解説:小規模宅地等の特例「貸付事業用宅地等」の実務

税理士法人松野茂是利子事務所 尼崎の税理士が解説:小規模宅地等の特例「貸付事業用宅地等」の実務

相続税の申告において、小規模宅地等の特例は大きな節税効果をもたらす重要な制度です。今回は、その中でも実務上の論点が多い「貸付事業用宅地等」について、条文を参照しながら詳しく解説いたします。

目次

小規模宅地等の特例とは

小規模宅地等の特例は、租税特別措置法(以下「措置法」)第69条の4に規定される制度で、被相続人等の事業用または居住用の宅地等について、一定の要件を満たす場合に評価額を減額できる制度です。

貸付事業用宅地等については、200㎡までの部分について50%の評価減が認められます。

貸付事業用宅地等の基本要件

措置法第69条の4第2項第4号に規定される貸付事業用宅地等とは、被相続人等の貸付事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業および準事業)の用に供されていた宅地等を指します。

「被相続人の貸付事業用宅地等」の場合

被相続人自身が貸付事業を営んでいた宅地等については、以下の要件を満たす必要があります。

取得者の要件:

  • 相続開始時から相続税の申告期限まで、その宅地等を引き続き所有していること
  • 相続開始時から相続税の申告期限まで、その宅地等で貸付事業を継続していること

これらの要件は累積的であり、両方を満たす必要があります。つまり、相続人が宅地を取得し、被相続人の貸付事業を引き継いで申告期限まで継続することが求められます。

「生計一親族の貸付事業用宅地等」の場合

被相続人と生計を一にしていた親族が貸付事業を営んでいた宅地等(被相続人が所有していたもの)については、以下の要件が必要です。

取得者の要件:

  • その宅地等を取得したのが、**その親族(生計一親族)**であること
  • 相続開始時から相続税の申告期限まで、その宅地等を引き続き所有していること
  • 相続開始時から相続税の申告期限まで、その宅地等で貸付事業を継続していること

こちらも、生計一親族が宅地を取得し、自らの貸付事業を申告期限まで継続する必要があります。

「事業」の定義と判定基準

事業該当性の判断

貸付事業用宅地等の特例を受けるためには、その貸付行為が単なる資産運用ではなく「事業」に該当することが前提となります。

事業性の判断要素:

  • 対価を得て継続的に行われているか
  • 事業的規模であるか
  • 人的・物的設備を有しているか
  • その他、社会通念上事業と認められるか

駐車場業を例とした事業判定

駐車場業は、貸付事業用宅地等の典型例の一つですが、その形態により特例適用の可否が明確に分かれます。特に重要なのは、「構築物の敷地」に該当するか否かという点です。

小規模宅地等の特例における貸付事業用宅地等は、「構築物の敷地」である必要があります。この「構築物」にアスファルト舗装やコンクリート舗装が含まれると解釈されており、舗装の有無が特例適用の可否を決定する重要な要素となります。

駐車場の形態による判定:

舗装なしの青空駐車場

  • アスファルトやコンクリート等の舗装がない場合は、「構築物の敷地」に該当しないため、原則として特例の適用は受けられません。

舗装ありの駐車場

  • アスファルト舗装またはコンクリート舗装がある場合は、「構築物の敷地」に該当し、その他の要件を満たせば特例の適用が可能です。

一括貸し(サブリース)方式の駐車場

  • 駐車場運営会社に一括で土地を貸し付ける方式(サブリース)の場合、軽減舗装等の工事費用を運営会社が負担したとしても、被相続人の土地の上に建築物が存在することになるため、被相続人の『不動産貸付業』の用途に提供されていた宅地として、特例の適用が可能と思います。

準事業について

措置法施行令第40条の2第5項では、「事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの」を準事業と定義しています。

ただし、貸付事業用宅地等の特例を適用するには、その土地が「構築物の敷地」であることが大前提です。

そのため、青空駐車場のように構築物がない土地は、たとえ継続的に賃料を得ていても準事業には該当せず、特例の対象外となります。

一方、アスファルト舗装がある駐車場であれば、たとえ小規模であっても、月極駐車場として継続的に相当の賃料を得ているのであれば貸付事業用宅地等として認められます。

準事業として認められるための要件:

  • 構築物の敷地であること(アスファルト舗装等)
  • 相当の対価を得ていること
  • 継続的に行われていること
  • 一定の管理行為が伴うこと(契約締結、賃料収受、区画管理等)

平成30年改正:「3年縛り規制」の詳細解説

平成30年度税制改正により、相続開始前3年以内に新たに貸付事業を開始した宅地等については、原則として特例の適用が制限されることとなりました。これがいわゆる「3年縛り規制」です。

特定貸付事業の定義

3年縛り規制を理解する上で、まず「特定貸付事業」の概念を理解する必要があります。

特定貸付事業とは(措置法施行令第40条の2第11項):

特定貸付事業とは、被相続人の相続開始の日まで3年を超えて事業的規模で行われていた貸付事業をいいます。

事業的規模の判定基準:

  • 不動産の貸付けについては、いわゆる「5棟10室基準」が目安となります
    • 独立家屋の貸付け:おおむね5棟以上
    • 区分建物(アパート等)の貸付け:おおむね10室以上
    • 駐車場の貸付け:50台以上(おおむね5棟分に相当)
  • ただし、これらは形式基準であり、実質的に事業と認められるかどうかを総合的に判断します

3年縛り規制の内容

措置法第69条の4第2項第4号ロに規定される要件として、以下の宅地等は貸付事業用宅地等から除外されます。

除外される宅地等:

相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等。ただし、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた被相続人等の貸付事業の用に供されたものは除く。

規制の趣旨:

相続直前に駆け込み的に貸付事業を開始して相続税を減額する租税回避行為を防止することが目的です。

「新たに」の意味

「新たに貸付事業の用に供された」とは、以下のケースが該当します。

  • それまで貸付事業以外の用途で使用していた宅地等を、貸付事業に転用した場合
  • 新規に取得した宅地等を貸付事業に供した場合
  • 遊休地を新たに貸付けた場合

3年縛り規制の適用除外(重要)

以下の場合には3年縛り規制の例外として、特例の適用が認められます。

例外:特定貸付事業を3年超継続している場合

相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた者が、相続開始前3年以内に新たな宅地等を貸付事業に供した場合は、3年縛り規制の適用を受けません。

重要なポイント:

  1. 「3年を超えて」の意味
    • 3年1日以上の期間を意味します
    • 相続開始日から遡って3年超、継続して貸付事業を行っていたことが必要
  2. 「特定貸付事業」であること
    • 単なる貸付事業ではなく、事業的規模(5棟10室基準等)で行われていたことが必要
    • 小規模な貸付けを3年超継続していても、事業的規模でなければ例外適用はありません
  3. 「引き続き」の要件
    • 貸付事業を中断せず継続していることが必要
    • 一旦全物件を売却して事業を終了した後、新たに貸付事業を開始した場合は、継続性が失われます

3年縛り規制の具体例

ケース1:規制の対象となる例(特例適用不可)

令和2年1月に賃貸アパートを新規取得し貸付開始(1棟8室)、令和4年12月に相続発生

→ 貸付期間が3年未満のため、特例適用不可

ケース2:例外適用となる例(特例適用可能)

平成25年から賃貸マンション(1棟12室)を所有し貸付事業を継続(事業的規模)、令和3年に新たに賃貸アパート(1棟8室)を取得、令和4年12月に相続発生

→ 平成25年からの物件は3年超の「特定貸付事業」に該当するため、令和3年取得の新物件も特例適用可能

ケース3:事業的規模でない場合(特例適用不可)

平成25年から賃貸アパート(1棟6室)を所有し貸付事業を継続、令和3年に新たに賃貸アパート(1棟8室)を取得、令和4年12月に相続発生

→ 平成25年からの6室は事業的規模に達していないため「特定貸付事業」に該当せず、令和3年取得の新物件は3年縛り規制により特例適用不可

ケース4:継続性が失われる例(特例適用不可)

被相続人が令和元年まで不動産賃貸業(事業的規模)を営んでいたが、令和2年に全物件を売却し事業を一旦終了。令和3年に新たな物件を取得して貸付開始、令和4年に相続発生

→ 貸付事業の「引き続き」の継続性が失われているため、新物件は特例適用不可

その他の適用除外事由

措置法施行令第40条の2第13項では、以下のような場合にも3年縛り規制が適用されません。

  • 被相続人等の身体の障害、疾病等により自己の居住の用に供することが困難となったため、居住用宅地等を貸付事業に転用した場合

実務上の留意点

申告時の確認事項

貸付事業用宅地等の特例適用に際しては、以下の書類等を整備しておくことが重要です。

  • 賃貸借契約書(契約期間、賃料等の確認)
  • 賃料の入金履歴(継続的な事業実態の証明)
  • 確定申告書(不動産所得の申告内容)
  • 固定資産税納付書、管理費等の支払履歴
  • 3年超の事業継続を証明する資料(該当する場合)

生前対策としての考え方

3年縛り規制の導入により、相続直前の駆け込み的な貸付事業開始による節税対策は困難になりました。

効果的な対策:

  • 貸付事業は少なくとも相続発生の3年以上前から開始する
  • すでに3年超貸付事業を行っている場合、事業拡大としての物件取得は3年以内でも可能
  • 継続性を証明できる記録を適切に保管する

まとめ

小規模宅地等の特例における貸付事業用宅地等は、適用要件が詳細に定められており、特に平成30年改正による3年縛り規制の導入後は、より慎重な判断が求められます。

「被相続人の貸付事業用」と「生計一親族の貸付事業用」では取得者要件が異なること、3年超の継続事業者には例外規定があることなど、実務上重要なポイントを正確に理解することが、適切な相続税申告のために不可欠です。


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