相続時精算課税制度完全ガイド – 申告書ひな形と契約書テンプレート付き
2024年改正対応版・税理士が解説する実務のポイント
こんにちは、税理士法人松野茂税理士事務所の松野です。
令和6年の税制改正により、相続時精算課税制度が大きく変わりました。年110万円の基礎控除が新設され、より使いやすい制度になっています。
今回は、実務経験をもとに、相続時精算課税制度の申告書作成から契約書まで、実務で即使えるひな形をご紹介します。
📊 令和6年改正のポイント
相続時精算課税制度の主な変更点は以下の通りです:
🔸 年110万円の基礎控除新設
令和6年1月1日以後の贈与について、年間110万円の基礎控除が適用されます。
🔸 特別控除額は従来通り
累計2,500万円の特別控除額は変更ありません。
🔸 申告不要枠の拡大
基礎控除110万円以下の贈与は申告不要となります。
📋 贈与税申告書ひな形
申告者・贈与者情報の記載例
実際の申告書作成では、以下の項目を正確に記載する必要があります:
申告者(受贈者)情報
- 申告年分:令和○年分
- 氏名・住所・電話番号
- 職業・生年月日
贈与者情報
- 氏名・住所・続柄
- 生年月日(60歳以上の確認)
贈与財産別の記載方法
🏠 不動産の場合
項目 | 土地の記載例 | 建物の記載例 |
---|---|---|
所在地番 | ○○市○○町○番○ | 同左 |
地目・種類 | 宅地 | 居宅 |
地積・床面積 | ○○.○○㎡ | ○○.○○㎡ |
持分 | ○分の○ | ○分の○ |
評価額 | ○,○○○,○○○円 | ○,○○○,○○○円 |
💰 金銭・有価証券の場合
財産の種類 | 数量・金額 | 評価額 |
---|---|---|
現金 | ○,○○○,○○○円 | ○,○○○,○○○円 |
預貯金 | ○,○○○,○○○円 | ○,○○○,○○○円 |
上場株式 | ○○○株 | ○,○○○,○○○円 |
税額計算の流れ
贈与財産の価額合計
↓
基礎控除110万円を差し引き
↓
特別控除額(最大2,500万円)を差し引き
↓
課税価格 × 20% = 贈与税額
📄 贈与契約書テンプレート
💵 金銭贈与契約書
実務では、以下のような契約書を作成します:
贈与契約書
贈与者○○○○(以下「甲」という。)と受贈者○○○○(以下「乙」という。)は、次のとおり贈与契約を締結する。
第1条(贈与)
甲は、乙に対し、金○,○○○,○○○円を贈与し、乙はこれを受諾する。
第2条(贈与の履行)
甲は、本契約締結と同時に、前条の贈与金額を乙の指定する次の口座に振り込むことにより履行する。
- 金融機関名:○○銀行○○支店
- 口座種別:普通預金
- 口座番号:○○○○○○○
- 口座名義:○○○○
第3条(相続時精算課税制度の適用)
本贈与について、乙は相続時精算課税制度の適用を受けるものとする。
第4条(その他)
本契約に関し紛争が生じた場合は、○○地方裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする。
本契約を証するため、本書2通を作成し、甲乙各自署名押印のうえ、各1通を保有する。
令和 年 月 日
贈与者
住所:〒000-0000 ○○県○○市○○町○-○-○
氏名:○○ ○○ 印
受贈者
住所:〒000-0000 ○○県○○市○○町○-○-○
氏名:○○ ○○ 印
🏡 不動産贈与契約書
不動産贈与の場合は、登記移転や費用負担についても明記が必要です:
不動産贈与契約書
贈与者○○○○(以下「甲」という。)と受贈者○○○○(以下「乙」という。)は、下記不動産について次のとおり贈与契約を締結する。
記
【土地】
- 所在:○○市○○町
- 地番:○番○
- 地目:宅地
- 地積:○○○.○○平方メートル
【建物】
- 所在:○○市○○町○番地○
- 家屋番号:○番○
- 種類:居宅
- 構造:○○造○階建
- 床面積:1階○○.○○平方メートル、2階○○.○○平方メートル
第1条(贈与)
甲は、乙に対し、上記不動産を贈与し、乙はこれを受諾する。
第2条(所有権移転時期)
上記不動産の所有権は、本契約締結と同時に甲から乙に移転する。
第3条(登記手続)
甲及び乙は、本契約締結後速やかに上記不動産の所有権移転登記手続を行う。登記費用は乙の負担とする。
第4条(相続時精算課税制度の適用)
本贈与について、乙は相続時精算課税制度の適用を受けるものとする。
第5条(負担等)
- 上記不動産に係る固定資産税等の公租公課は、令和 年 月 日以降は乙の負担とする。
- 上記不動産について、本契約締結以前に生じた第三者との権利関係については甲が責任を負い、本契約締結以後については乙が責任を負う。
第6条(その他)
本契約に関し紛争が生じた場合は、○○地方裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする。
本契約を証するため、本書2通を作成し、甲乙各自署名押印のうえ、各1通を保有する。
令和 年 月 日
贈与者
住所:〒000-0000 ○○県○○市○○町○-○-○
氏名:○○ ○○ 印
受贈者
住所:〒000-0000 ○○県○○市○○町○-○-○
氏名:○○ ○○ 印
✅ 必要書類チェックリスト
共通書類
- ✅ 受贈者の戸籍の謄本又は抄本
- ✅ 贈与者の住民票の写し又は戸籍の附票の写し
- ✅ 相続時精算課税選択届出書(初回のみ)
財産別必要書類
🏠 不動産の場合
- ✅ 登記事項証明書
- ✅ 固定資産評価証明書
- ✅ 測量図(必要に応じて)
📈 有価証券の場合
- ✅ 残高証明書
- ✅ 株式の明細書
💰 預貯金の場合
- ✅ 残高証明書
- ✅ 通帳の写し
⚠️ 実務での注意ポイント
契約書作成時の留意事項
1. 贈与の事実を明確にする
- 契約書の作成日と実際の贈与日を一致させる
- 金銭贈与は銀行振込等で客観的証拠を残す
2. 当事者の特定
- 住所・氏名は住民票記載通りに正確に
- 続柄も明記(適用要件確認のため)
3. 相続時精算課税適用の意思表示
- 契約書に制度適用の条項を明記
- 選択届出書との整合性を確保
よくある質問
Q1: 一度選択すると変更できないのですか?
A1: はい。相続時精算課税を選択すると、その贈与者からの贈与については撤回できません。
Q2: 暦年課税と併用できますか?
A2: 同一の贈与者については併用できません。異なる贈与者であれば可能です。
Q3: 相続時にはどうなりますか?
A3: 贈与時の価額で相続財産に加算し、既に納付した贈与税は相続税から控除されます。
📅 申告・納付スケジュール
項目 | 期限 |
---|---|
申告期限 | 贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日 |
納付期限 | 申告期限と同じ |
延納申請 | 申告期限まで |
🎯 事業承継での活用事例
当事務所では、事業承継における相続時精算課税制度の活用も多数手がけています:
活用場面
- 自社株式の早期移転
- 収益物件の贈与
- 将来値上がりが期待される財産の移転
組織再編との組み合わせ
- 株式交換前の持株移転
- 会社分割と連動した株式贈与
- M&A前の事前対策
📋 契約書の利用について
上記の契約書ひな形はコピーして自由にお使いください!
利用時のお願い
- 個別事案に応じて内容をご確認・修正ください
- 複雑な案件は専門家にご相談ください
- 当事務所では契約書作成・チェック業務も承っております
💼 まとめ
相続時精算課税制度は令和6年改正により使いやすくなりましたが、一度選択すると撤回できない重要な制度です。
適切な契約書作成と正確な申告書作成が、将来のトラブル回避と税務調査対応の基礎となります。
個別の事案やより複雑なケースについては、ぜひ専門家にご相談ください。個々の事案の解釈は各個人の責任で当社は一切責任を負いません。
このブログ記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談に代わるものではありません。具体的なケースについては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。