100%子会社の解散・清算に係る会計処理、税務処理について、税理士事務所のスタッフ向けに解説します。
前提となる事例
A社(親会社)がB社株式の100%を保有
- 帳簿価格:2,000,000円
- B社は業績が悪く解散・整理することになった
- 解散時の残余財産:500,000円
- 欠損金:前年3,000,000円、残余財産確定時500,000円
事務所でのやり取り
スタッフAは、帳簿価格2,000,000円と残余財産500,000円の差額1,500,000円を株式清算損失として特別損失に計上していました。
先生が株式清算損失を見て、スタッフに尋ねます。
「A君、この株式清算損失は100%子会社じゃないのか?」
スタッフA「はい、そうです。言われたとおりに会計処理しています。」
先生「ずいぶん前だけど、株式清算損失を別表4で加算留保して別表5で資本等の金額を減額するのと、繰越欠損金の引継ぎが必要って言わなかった?ネットで調べてみて」
スタッフA「そういえば、なんか資料をもらった覚えがある…調べます」
スタッフの困惑
ネットの内容を調べましたが、いろいろ詳しく書かれており難しくてわかりません。
スタッフA「先生、今日が30日…明日までに申告書を作れません。先生、申告書作ってください。」
先生「今、別表4と5の修正するから見てて」
別表の修正方法
別表4の処理
別表4の加算留保の欄に株式整理損失1,500,000円を入れると、別表5の利益積立金額に株式整理損失1,500,000円が右側の増加欄に連動して入ります。
別表5の処理
次に、その下の資本金等の金額の計算で、利益積立金(株式清算損失)を追加して、右側の増加欄にマイナス表記で1,500,000円を入れるだけです。
「よし、できた。」
(科目 株式整理損失⇒株式清算損失に修正・株式精算損失⇒株式清算損失に修正してください。)

なぜこのような処理をするのか?
スタッフA「なんでこんなことするんですか?」
先生「法人税法は理論的だから、適格合併と整合性を取るために同じような結果になるようにしてるんだよ。」
100%子会社の株式清算損失の処理フロー
- 別表4で加算留保
- 利益積立金額を通る
- 最後は資本等の金額をマイナス
業績が悪化した子会社を整理するときは、合併か清算で同じ結果を税法は求めています。細かいところは異なってきますが、基本的な考え方は同じです。
住民税均等割への影響
スタッフA「資本等の金額が減少するのですね。場合によっては住民税均等割も減るのかな?」
先生「いいや、住民税均等割は資本金額と資本等の金額の大きい方だから、住民税は減らないよ」
繰越欠損金の引継ぎ
先生「繰越欠損金も引き継ぐんだけど、親会社の繰越欠損金の欄に手入力する。前年の繰越欠損金欄に、欠損金3,000,000円+残余財産確定時500,000円の合計3,500,000円を入れる。合併の時に使う明細書と同じように数式を入れたので、あとは作っといて」
スタッフA「分かりました。最後はもう一度確認してください」

重要な注意点
先生「下の表にあるように、親会社の前年の事業年度の繰越欠損金に組み込まれるので、子会社の繰越欠損金が期限切れ直前の場合には、親会社に引き継がれた時に親会社では期限切れになるので、非常に重要な論点が隠れてるんだ。」
子会社の繰越欠損金が多額で期限切れ直前のものがある場合は、子会社でうまく使っておかないといけません。
某有名な先生は【子会社の繰越欠損金が届かない~】ってタイトルを書籍の見出しにしてるぐらい重要です。

親会社における税務処理のポイント
1. 子会社株式の損失は損金不算入
100%子会社が清算した場合、親会社が保有している子会社株式の帳簿価額は、決算上は「子会社清算損」などの損失として計上されることがありますが、税務上は損金不算入となります。
関連条文:法人税法第61条の2第17項
この規定により、完全支配関係にある法人の株式について、残余財産の分配がない場合や、残余財産が確定した場合の株式の譲渡損益は生じないこととされています。
2. 子会社帳簿価額の処理
損金算入が認められない代わりに、親会社が保有していた子会社株式の税務上の簿価額は、親会社の**「資本金等の額」から減算**して処理します。
関連条文:法人税法施行令第8条1項22号
残余財産の分配がない場合には、この規定により親会社の資本金等の額を減額します。
3. 子会社の繰越欠損金の引き継ぎ
子会社株式の清算損が損金不算入の代わりに、一定の要件を満たす場合、子会社の繰越欠損金(税務上の青色欠損金)を親会社が引き継ぐことができます。これは、適格合併と同様の考え方に基づいています。
残余財産の分配がある場合の処理
子会社に資産が残っており、親会社に残余財産の分配が行われる場合、税務上は**「資本の払戻し」**として扱われます。
関連条文:法人税法第24条1項4号
この規定により、清算による残余財産の分配が資本の払い戻しに該当します。
1. みなし配当
残余財産の分配額のうち、その子会社の資本金等の額を超える部分は**「みなし配当」**として扱われます。
2. 受取配当の益金不算入
100%子会社からの「みなし配当」は、完全支配関係にあるため益金不算入となります。そのため、親会社の課税所得には影響しません。
関連条文:法人税法第23条1項
完全支配関係にある法人から受ける配当等は、その全額が益金の額に算入されないと定められています。
まとめ
100%子会社の清算における税務上のポイントは以下の通りです。
| 会計処理 | 税務上の取り扱い | 関連条文(主なもの) |
|---|---|---|
| 子会社株式の清算損失 | 損金不算入 | 法人税法第61条の2第17項 |
| 子会社株式の帳簿価額 | 親会社の資本金等の額から減額 | 法人税法施行令第8条1項22号 |
| 子会社の繰越欠損金 | 親会社が引き継ぎ可能 | – |
| 残余財産の分配 | 資本の払い戻しとして処理 | 法人税法第24条1項4号 |
| みなし配当 | 益金不算入 | 法人税法第23条1項 |
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