スタッフとの会話で分かる!決算書の利益より役員報酬を見るべき理由
スタッフA:「所長、前回のお話で、中小企業の決算書は利益が一定になるように調整されているって学びました」
所長:「よく覚えていたね。業績が良くても悪くても、会社の利益はあまり変わらない」
スタッフB:「じゃあ、中小企業の本当の業績って、どこを見れば分かるんですか?」
所長:「良い質問だ。今日は役員報酬の見方を教えよう。実は役員報酬を見れば、会社の本当の業績が手に取るように分かるんだ」
中小企業の業績判断は「役員報酬」が鍵
スタッフA:「利益じゃなくて、役員報酬なんですか?」
所長:「そう。中小企業の決算書で業績を判断するなら、ずばりこの2つの公式を覚えておけばいい」
【中小企業の業績判断 2つの公式】
公式1:業績が良い時は、役員報酬が増加する
公式2:業績が悪化した会社は、役員報酬が減少する
スタッフB:「シンプルですね!」
所長:「でしょ?業績が良ければ利益が出て、悪ければ利益が減る…これは中小企業には当てはまらない。融資をスムーズに行うために利益を一定に保とうとするからね」
なぜ役員報酬で業績が分かるのか
スタッフA:「でも、役員報酬って簡単に変えられないですよね?定期同額給与の縛りがあって」
所長:「その通り。法人税法の定期同額給与という規定があるから、業績の変化から役員報酬の増減まで、1年程度のタイムラグが発生する」
スタッフB:「じゃあ、すぐには分からないんですか?」
所長:「いや、有能な税理士なら1年程度の利益操作は合法的にやってのける。だから前期と今期の役員報酬を比較すれば、業績の変化が読めるんだ」
役員報酬の変化で読み解く業績
例1:業績好調のパターン
- 前期:社長の役員報酬 800万円
- 今期:社長の役員報酬 1000万円(+200万円)
- → 業績が良くなっている証拠
例2:業績悪化のパターン
- 前期:社長の役員報酬 1200万円
- 今期:社長の役員報酬 900万円(-300万円)
- → 業績が厳しくなっている証拠
スタッフA:「なるほど!利益は変わらなくても、役員報酬の増減で業績が分かるんですね」
この公式が当てはまらない3つのケース
所長:「ただし、この公式が当てはまらないケースもあるから注意が必要だ」
ケース1:非常に優良な会社
所長:「所得税の累進課税と法人税の税率を比較して節税対策している超優良企業は、公式に当てはまらない」
- 役員報酬3000万円を超えるような場合
- 所得税率と法人税率の損益分岐点を計算
- 役員報酬を戦略的に固定
ケース2:節税意識が低い会社
所長:「会計事務所の指導がない場合や、節税にあまり興味がない社長の場合も当てはまらない」
- 税務アドバイスを受けていない
- 毎年同じ役員報酬のまま
ケース3:強気の経営者
所長:「役員報酬は年額2000万円と決めて、赤字の決算書を苦にしない強気の経営者も公式には当てはまらない」
スタッフB:「そういう社長もいるんですね」
所長:「いるいる。『俺は社長だから、これだけもらって当然だ』って考える人もいる。でもこれは経営として危険なサインだけどね」
役員報酬の配分で分かる会社の内情
スタッフA:「役員報酬の金額だけじゃなくて、家族への配分も見るんですか?」
所長:「さすが!役員報酬の個々の金額を把握すると、社長の考え方や後継者の能力まで判断できるんだ」
パターン1:ワンマン社長の会社
役員報酬の例:
- 社長:1500万円
- 長男:400万円
- 次男:300万円
所長:「このパターンは典型的なワンマン社長だね」
スタッフB:「社長が突出していますね」
所長:「そう。長男・次男とも会社の重要なポストに就いているわけでもないので、後継者としてはまだ若く育っていないことが判断できる」
特徴:
- 社長がすべての決定権を持つ
- 後継者育成が遅れている可能性
- 事業承継に課題あり
パターン2:バランスの良い会社
役員報酬の例:
- 社長:1000万円
- 長男:800万円
- 次男:900万円
所長:「これは理想的な配分だね」
スタッフA:「社長と子供たちの報酬が近いですね」
所長:「後継者として長男・次男ともに重要なポストにいて、社員も育っていると推測される。このような会社は円満な会社なんだ」
特徴:
- 権限委譲が進んでいる
- 後継者が育っている
- 組織として成熟
- 事業承継がスムーズに進む
パターン3:節税を意識した優良な会社
役員報酬の例:
- 社長:300万円
- 長男:1200万円
- 次男:1100万円
スタッフB:「えっ!社長の報酬が一番低いんですか?」
所長:「これが最も高度な節税戦略なんだよ」
この配分の意味:
- 社長は年金も受給している
- 年金の減額対象にならないよう役員報酬を300万円まで下げている
- 後継者に高い報酬を払い、所得分散
- 将来の相続対策まで考慮している
- 事業承継がうまくいっている証拠
スタッフA:「すごい!相続対策まで見据えているんですね」
所長:「そう。創業社長は相続財産を増やさないようにして、次世代に稼ぐ力を持たせる。これが本当の事業承継なんだ」
役員報酬から読み解く経営診断チェックリスト
所長:「じゃあ、まとめとして役員報酬から分かることをチェックリストにしよう」
✅ 業績のチェックポイント
前期と比較して役員報酬が:
- 増加 → 業績好調
- 減少 → 業績悪化
- 変化なし → 業績横ばい(または優良企業・節税意識低い会社)
✅ 事業承継のチェックポイント
役員報酬の配分が:
- 社長だけ突出 → 後継者育成が課題
- 社長と後継者が同程度 → 事業承継が順調
- 後継者が社長より高い → 高度な相続対策実施中
✅ 経営の健全性チェックポイント
赤字なのに役員報酬が高い → 危険信号
- キャッシュフローを圧迫
- 銀行からの信用低下
- 早急な経営改善が必要
スタッフB:「役員報酬って、会社の状態を映す鏡なんですね」
所長:「まさにその通り。長年やってきて、役員報酬を見れば会社の現状と社長の考え方が分かるようになった」
M&Aのデューデリジェンスでも重要
スタッフA:「所長、M&Aの案件でも役員報酬を見るんですか?」
所長:「もちろん。M&Aのデューデリジェンスでは、役員報酬は最重要チェック項目の一つだよ」
M&Aで見るポイント:
- 実質的な収益力の把握
- 決算書の利益に役員報酬を加算
- 本当の収益力を計算
- 引き継ぎ後のキャッシュフロー予測
- 買収後の適正役員報酬を想定
- 実際に残る利益を算出
- 事業承継の状況確認
- 後継者の育成度合い
- 買収後のリスク評価
スタッフB:「役員報酬の分析って、すごく奥が深いんですね」
所長:「会社の決算書を見る時は、まず役員報酬をチェックする。これが税理士の基本なんだ」
まとめ:役員報酬は会社の「体温計」
所長:「最後にまとめよう」
役員報酬から分かること:
- ✅ 会社の本当の業績(利益より正確)
- ✅ 社長の経営方針と考え方
- ✅ 後継者の育成状況
- ✅ 事業承継の進捗度
- ✅ 節税への意識レベル
- ✅ 経営の健全性
スタッフA:「利益だけ見ていてはダメなんですね」
所長:「その通り。中小企業の決算書は、役員報酬という体温計で測らないと、本当の姿は見えないんだ」
スタッフB:「今日も勉強になりました!」
所長:「お客様の決算書を見る時は、必ず役員報酬の推移と配分をチェックしてほしい。そこに会社の物語が詰まっているからね」
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当事務所のサポート:
- ✅ 役員報酬の最適化シミュレーション
- ✅ 業績に応じた報酬設定アドバイス
- ✅ 後継者育成を見据えた報酬配分プラン
- ✅ 相続対策を考慮した役員報酬設計
- ✅ M&Aにおける役員報酬の分析・評価
- ✅ 定期同額給与の法令遵守サポート
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