はじめに
相続した空き家を売却する際、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」(以下「空き家特例」)を活用することで、最大3,000万円の特別控除を受けることができます。
実務上、「広い土地を複数回に分けて売却したい」というご相談をよくいただきます。このような場合、空き家特例の適用はどうなるのでしょうか。
今回は、条文を明示しながら、土地を分割して譲渡する場合の取扱いについて解説いたします。
事例の概要
相続人Aさんは、被相続人から居宅(建物と土地)を相続しました。土地が広いため、以下のように分割して売却することを検討しています。
今年の譲渡:
- 6月:土地の2分の1を2,000万円で譲渡
- 11月:残りの土地2分の1を1,500万円で譲渡
このように、同一年内に分割して複数回売却した場合、空き家特例はどのように適用されるのでしょうか。
空き家特例の基本的な条文
租税特別措置法第35条第3項(空き家特例の根拠規定)
空き家特例は、租税特別措置法第35条第3項に規定されています。
この規定により、相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋またはその敷地等を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に一定の要件を満たして譲渡した場合、第1項の規定を準用して、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。
租税特別措置法第35条第1項(控除額の限度)
第3項が準用する第1項には、以下のように規定されています:
「個人の有する資産が、居住用財産を譲渡した場合に該当することとなった場合には、その年中にその該当することとなった全部の資産の譲渡に係る譲渡所得の金額から3,000万円を限度として控除することができる。」
重要なポイント:「その年中」「全部の資産」
この条文により、同一年内に複数回譲渡しても、合算して3,000万円まで控除できることが明確にされています。
措置法通達による解釈
措置法通達35-7(同一年中の複数譲渡)
国税庁の通達(措置法通達35-7)では、より具体的に以下のように示されています:
「措置法第35条第3項に規定する相続人が、同一年中に同条第2項各号に規定する譲渡及び同条第3項に規定する対象譲渡(空き家特例の譲渡)をし、そのいずれの譲渡についても同条第1項の規定の適用を受ける場合は36-1に定める順序により特別控除額の控除をすることとなる。
なお、同条第1項の規定により、その年中にその該当することとなった全部の資産の譲渡に係る譲渡所得の金額から3,000万円(同条第4項の規定の適用がある場合には、次項に定める算式により計算した金額)を限度として控除することに留意する。」
本事例における適用
同一年内の複数譲渡の場合
本事例では:
- 6月の譲渡:2,000万円
- 11月の譲渡:1,500万円
- 合計:3,500万円
租税特別措置法第35条第1項および第3項の規定により、同一年内であれば、これらを合算した譲渡所得の金額から3,000万円を控除することができます。
つまり、2回に分けて売却していますが、確定申告では両方の譲渡所得を合算し、そこから3,000万円を控除することになります。
控除の順序
措置法通達36-1により、特別控除の順序は以下のとおりです:
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下)から先に控除
- 短期譲渡所得で控除しきれない場合は、長期譲渡所得(所有期間5年超)から控除
重要な制限:1回限りの適用
国税庁タックスアンサーNo.3306の規定
空き家特例の適用要件として、以下が定められています:
「(6) 同一の被相続人から相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等について、この特例の適用を受けていないこと。」
翌年以降の譲渡には適用不可
この規定により、空き家特例は1回しか適用できません。
本事例で今年、土地の2分の1を売却して空き家特例を適用した場合、翌年に残りの土地を売却しても、再度空き家特例を適用することはできません。
同一年内と翌年以降の違い:
売却時期 | 特例の適用 | 控除額 |
---|---|---|
同一年内に複数回売却 | ○ 適用可能 | 合計で3,000万円まで |
翌年以降に売却 | × 適用不可 | 0円(特例使用済み) |
実務上の売却計画のポイント
1. 同一年内にまとめて売却
土地を分割して売却する場合、同一年内に完了させることで、複数回の譲渡を合算して3,000万円の控除を受けることができます。
2. 翌年にまたがる場合は要注意
もし売却が翌年にまたがる場合、1年目に空き家特例を適用すると、2年目の譲渡には適用できなくなります。
例:
- 令和7年:土地の2分の1を売却 → 空き家特例で3,000万円控除
- 令和8年:残りの土地を売却 → 空き家特例は適用不可
3. 売却代金1億円以下の要件
空き家特例には「売却代金が1億円以下であること」という要件があります。
分割して売却する場合でも、相続時から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却代金の合計額で判定されます。
本事例では、6月と11月の合計3,500万円が判定の対象となります。
4. 相続開始から3年以内の期限
空き家特例は、相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡することが要件です。
分割売却を検討する場合も、この期限内にすべての売却を完了させる必要があります。
条文のまとめ
租税特別措置法第35条第3項
空き家特例の根拠規定。相続した空き家について、第1項を準用して3,000万円の特別控除を適用できる。
租税特別措置法第35条第1項
「その年中にその該当することとなった全部の資産の譲渡に係る譲渡所得の金額から3,000万円を限度として控除する」
→ 同一年内は合算して3,000万円が限度
国税庁タックスアンサーNo.3306
「同一の被相続人から相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等について、この特例の適用を受けていないこと。」
→ 1回限りの適用
措置法通達35-7
「その年中にその該当することとなった全部の資産の譲渡に係る譲渡所得の金額から3,000万円を限度として控除することに留意する。」
→ 同一年内の複数譲渡は合算
まとめ
相続した空き家の土地を分割して売却する場合、同一年内であれば複数回の譲渡を合算して3,000万円まで控除できます。
これは、租税特別措置法第35条第1項が「その年中にその該当することとなった全部の資産の譲渡」と規定し、同条第3項の空き家特例がこれを準用しているためです。
ただし、空き家特例は1回しか適用できません(国税庁タックスアンサーNo.3306)。今年適用すると、翌年以降の譲渡には使えなくなります。
したがって、土地を分割して売却する場合は、同一年内に完了させることが重要です。
売却計画を立てる際は、これらの規定を十分理解し、最も有利な方法を選択することが求められます。
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