はじめに
こんにちは。税理士法人松野茂税理士事務所の松野です。
先日、スタッフから「今住んでいる自宅の敷地の一部だけを売却するケース」について質問がありました。これは実務でよく遭遇するケースですが、意外と誤解されやすいポイントです。今回は、この質問についてQ&A形式で解説します。
スタッフからの質問
質問:居住中の自宅敷地の一部を売却するケース
スタッフ:
「先生、相談があります。お客様から『自宅の敷地が広いので、隣の方に敷地の一部を売却したい』という話がありました。自宅の建物と土地はそのまま残して、敷地の一部だけを売却する場合でも、居住用財産の3,000万円控除は使えますよね?」
松野先生の回答:
「いや、それは大きな誤解だよ。実は、今現在住んでいる自宅の敷地の一部だけを売却する場合、原則として3,000万円控除は適用できないんだ。
これは実務でよくある間違いなので、しっかり理解しておこう。」
スタッフ:
「えっ、そうなんですか!?居住用の土地なのに、なぜ使えないんですか?」
なぜ敷地の一部だけでは控除が使えないのか
松野先生の解説:
「いい質問だね。まず、居住用財産の3,000万円控除の制度の趣旨から説明しよう。
制度の基本的な考え方
租税特別措置法第35条では、居住用財産の譲渡について3,000万円控除が認められているけど、これは**『家屋とその敷地を一体として譲渡する場合』**を想定した制度なんだ。
つまり:
- 家屋の譲渡 → ○ 控除対象
- 家屋とともに敷地を譲渡 → ○ 控除対象
- 敷地の一部だけを譲渡(家屋は残す) → × 原則、控除対象外
根拠となる通達
租税特別措置法通達31の3-10には、こう書かれている。
居住用家屋の一部の譲渡について
その居住の用に供している家屋の一部を譲渡した場合、当該譲渡は措置法第31条の3第1項に規定する譲渡には該当しない
これは家屋についての規定だけど、同様の考え方が敷地についても適用されるんだよ。」
スタッフ:
「なるほど…。つまり『居住用』というのは、家屋と土地をまとめて譲渡することが前提なんですね。」
松野先生:
「その通り!敷地だけを切り売りするのは、この制度の想定外なんだ。」
具体例で理解する
松野先生:
「具体例で考えてみよう。」
ケース1:敷地の一部のみ譲渡(控除×)
【現在の状況】
・自宅:敷地300㎡、建物あり
・居住中
【譲渡内容】
・敷地のうち100㎡だけを隣人に売却
・建物と残りの敷地200㎡は引き続き居住
【結果】
→ 3,000万円控除は**適用不可**
→ 通常の譲渡所得として課税
スタッフ:
「うわー、これは要注意ですね…。」
ケース2:建物を取り壊して敷地全体を譲渡(控除○)
松野先生:
「では、こういう場合はどうだろう?」
【現在の状況】
・自宅:敷地300㎡、建物あり
・令和7年1月に転居済み
【譲渡内容】
・令和7年5月に建物を取り壊し
・令和7年10月に敷地300㎡全体を譲渡
【結果】
→ 一定の要件を満たせば3,000万円控除が**適用可能**
スタッフ:
「建物を取り壊して、敷地全体を譲渡すれば使えるんですね。」
松野先生:
「そうだよ。ただし、以下の要件を満たす必要がある:
- 取り壊した日から1年以内に譲渡契約を締結
- 居住しなくなった日から3年を経過する年の12月31日までに譲渡
- 取り壊し後、譲渡契約締結までの間、貸付けその他の用に供していないこと
これらを守らないと、やはり控除は使えないから注意が必要だね。」
例外的に控除が使える場合
スタッフ:
「先生、敷地の一部でも控除が使えるケースはないんですか?」
松野先生:
「いい質問だね。実は例外的に使える場合もあるんだよ。」
例外:家屋も一緒に譲渡する場合の敷地の一部
松野先生:
「例えば、こういうケースだ。」
【状況】
・二世帯住宅(区分登記)
・1階:父所有、2階:息子所有
・敷地:父所有
【譲渡内容】
・父が1階部分の建物と敷地の一部を譲渡
・息子の2階部分は残る
【判断】
→ 父については、**自分の家屋とその敷地**を一緒に譲渡しているので
→ 一定の要件を満たせば控除適用の可能性あり
スタッフ:
「なるほど!敷地の一部でも、自分の家屋と一緒に譲渡していれば、例外的に認められる可能性があるんですね。」
実務上の注意点とアドバイス
松野先生:
「このケースで、実務上注意すべきポイントをまとめておこう。」
1. 事前相談が重要
お客様が「敷地の一部を売りたい」と相談に来られた時点で、3,000万円控除が使えないことを説明する必要がある。
よくある勘違い:
- 「居住用の土地だから控除が使えるはず」
- 「一部でも居住用なら大丈夫だろう」
→ これらは誤りです!
2. 代替案の提案
控除が使えない場合、以下のような代替案を検討する:
- 譲渡時期の調整: 将来、家屋ごと譲渡する予定があるなら、その時まで待つ
- 分筆の検討: 敷地全体を売却し、新たに小さい土地を購入する
- 他の特例の活用: 収用等の特例が使えないか検討
3. 取得費の按分計算
敷地の一部を譲渡する場合、取得費の計算も重要:
譲渡部分の取得費 = 土地全体の取得費 × (譲渡面積 ÷ 全体面積)
正確な面積の把握と按分計算が必要です。
まとめ:押さえるべきポイント
松野先生:
「今日のポイントをまとめよう。」
○ 控除が使える場合
- 家屋とその敷地を一緒に譲渡
- 家屋を取り壊して敷地全体を譲渡(要件あり)
- 転居後3年以内の譲渡(要件あり)
× 控除が使えない場合
- 居住中の自宅の敷地の一部のみを譲渡
- 家屋を残したまま、敷地だけを売却
重要な考え方
「居住用財産」の特例は、生活の本拠を手放す場合に認められる制度。単なる資産の一部売却は対象外と考える。
スタッフ:
「よく分かりました!お客様には、まず譲渡の全体像を聞いて、適用の可否をしっかり判断します!」
松野先生:
「その心構えが大事だよ。この判断を誤ると、お客様に多額の税負担が発生してしまう。事前相談を徹底しよう。」
【参考】根拠条文・通達
租税特別措置法
- 第35条第1項(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除)
その居住の用に供している家屋の譲渡、または家屋とともにする敷地の譲渡について控除を認める - 第35条第2項(居住用財産の範囲)
居住用家屋、居住用家屋とともにするその敷地等を規定
租税特別措置法通達
- 措置法通達31の3-10(居住用家屋の一部の譲渡)
居住用家屋の一部を譲渡した場合、当該譲渡は措置法第31条の3第1項に規定する譲渡には該当しない - 措置法通達35-2(居住用土地等のみの譲渡)
家屋を取り壊して敷地のみを譲渡する場合の要件を規定 - 措置法通達35-5(長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱いの準用)
第35条の判定については、通達31の3-2、31の3-12等に準じて取り扱う
参考リンク(国税庁)
おわりに
「居住用財産の一部のみの譲渡」は、一見居住用に見えても、3,000万円控除の適用が受けられないケースです。
お客様から土地の一部売却の相談があった際は、必ず適用要件を確認し、場合によっては譲渡方法の見直しや時期の調整をアドバイスすることが重要です。
税理士法人松野茂税理士事務所では、このような譲渡所得の税務相談を数多く手がけております。不動産の譲渡をご検討の際は、ぜひ事前にご相談ください。
税理士法人松野茂税理士事務所
〒660-0861 兵庫県尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F
(阪神尼崎駅徒歩1分)
TEL: 06-6419-5140
FAX: 06-6423-7500
Email: info@tax-ms.jp
営業時間: 平日 9:00-17:30
対応エリア: 尼崎市、西宮市、伊丹市、大阪市内ほか
所得税・法人税・相続税のご相談から、組織再編・M&Aまで幅広く対応しております。
尼崎で30年の実績。不動産譲渡の税務相談はお任せください。