スタッフとの会話で分かる!役員報酬以外で業績を見抜く方法
スタッフA:「所長、前回は役員報酬で業績が分かるって学びました」
所長:「よく覚えていたね。役員報酬の増減を見れば、会社の本当の業績が分かる」
スタッフB:「でも、役員報酬は定期同額給与の縛りがあって、すぐには変えられないですよね?」
所長:「その通り。事業年度開始から3ヶ月以内に変更しないと損金不算入になる。だから業績の変化から役員報酬の増減まで、どうしてもタイムラグが生じてしまうんだ」
スタッフA:「じゃあ、もっと早く業績の変化を知る方法はないんですか?」
所長:「あるよ。今日は役員報酬以外で業績を見抜く方法を教えよう」
社長が自由に調整できる2つの項目
所長:「会社の利益は役員報酬で操作することは説明したけど、役員報酬と同様に社長の判断で利益操作できるものが2つあるんだ」
業績を映す2つの鏡
1. 地代家賃(社長が会社に事務所などを貸付けている場合)
2. 交際費や税務上グレーゾーンとなる個人的な経費
スタッフB:「この2つも業績に連動するんですか?」
所長:「そう。しかも役員報酬より早く反応する。順番に見ていこう」
地代家賃で分かる業績と税務戦略
スタッフA:「地代家賃って、社長が会社に不動産を貸している場合ですよね?」
所長:「その通り。実は地代家賃の処理方法には2つのパターンがあって、それぞれメリット・デメリットがあるんだ」
パターン1:役員報酬を高めに設定(地代家賃を含める)
スタッフB:「地代家賃を役員報酬に含めちゃうんですか?」
所長:「そう。例えば本来の役員報酬が800万円のところを、地代家賃200万円を含めて1000万円にする方法だね」
メリット:
- ✅ 給与所得控除が多くなる(約195万円→約220万円)
- ✅ 社長個人の不動産所得の申告が不要(手間が省ける)
デメリット:
- ❌ 社会保険に加入済みなら、社会保険料が増額
- ❌ 年金を受給している年齢なら、厚生年金の支給停止の条件に触れる可能性
パターン2:役員報酬とは別に地代家賃を支払う
所長:「こちらは役員報酬と地代家賃を明確に分ける方法だ」
メリット:
- ✅ 固定資産税や建物の減価償却などの経費が使える
- ✅ 青色申告控除10万円を受けられる
- ✅ 社会保険料の負担増を避けられる
デメリット:
- ❌ 給与所得控除の増加は望めない
- ❌ 個人の不動産所得の確定申告が必要
スタッフA:「どちらが良いんですか?」
所長:「一概には言えないが、社会保険に加入している場合は、地代家賃を高めに設定する方が、税金と社会保険料の両方の面で支払が少なくなることが多いね」
地代家賃で業績を判断する
スタッフB:「地代家賃の金額も業績に連動するんですか?」
所長:「もちろん。業績が良い時は地代家賃を高めに設定して利益を圧縮する。逆に業績が悪くなれば、地代家賃を抑えて利益を確保しようとするんだ」
業績好調の場合:
- 地代家賃:月額30万円 → 40万円に増額
- 理由:利益が出すぎないよう調整
業績悪化の場合:
- 地代家賃:月額30万円 → 20万円に減額
- または:地代家賃をゼロにして無償貸付
- 理由:会社の利益を確保したい
スタッフA:「なるほど!地代家賃の変動で業績が分かるんですね」
所長:「ちなみに、税務上は社長が会社に無料で事務所を貸付けても問題はない。でも地代家賃を高額にする場合は税務上問題があるから注意が必要だよ」
交際費は会社の「体温計」
所長:「次は交際費だ。これが最も分かりやすい業績のバロメーターなんだ」
スタッフB:「交際費ですか?」
所長:「そう。交際費の増減には明確なパターンがある」
交際費の増減パターン
会社が儲かっている時:
- 💰 贅沢に使う
- 「取引先を高級店で接待」
- 「ゴルフコンペを開催」
- 「お歳暮・お中元を豪華に」
業績が悪くなった時:
- 💵 節約を始める
- 「接待の回数を減らす」
- 「飲食店のランクを下げる」
- 「贈答品を見直す」
業績が苦しくなった時:
- 💸 極力抑える
- 「接待をほぼストップ」
- 「必要最低限の贈答のみ」
- 「経費削減モード」
スタッフA:「分かりやすいですね!」
所長:「そう。交際費は会社の業績を写し出す鏡なんだ」
社長の性格も影響する
スタッフB:「でも、すべての会社がこのパターンに当てはまるんですか?」
所長:「良い質問だ。実は社長の個性や性格によって例外もあるんだ」
交際費を使わない社長
パターン1:倹約家タイプ
- 業績が良くても交際費を使わない
- 「無駄な接待はしない主義」
- 交際費が常に低水準
パターン2:派手好きタイプ
- 業績が悪くなっても交際費を抑えられない
- 「見栄を張りたい」
- 「営業のためだ」と正当化
所長:「社長が派手好きなのか、自分に厳しいのか。交際費の支出パターンを見ていくと、社長の性格まで判断できるんだよ」
スタッフA:「決算書から社長の人柄まで分かるなんて、面白いですね」
税務上のグレーゾーン経費
所長:「もう一つ、業績を判断する材料がある。それが税務上グレーゾーンとなる社長個人の経費だ」
スタッフB:「グレーゾーンですか?」
所長:「そう。税理士としては悩ましい経費なんだ」
グレーゾーン経費の例
- 社長の私的な飲食費(一部は事業性あり)
- 家族旅行(視察目的と主張)
- 高級車(業務使用と私用の境界が曖昧)
- 趣味の出費(ゴルフ、釣りなど)
所長:「税務上認められるか否かは、個々の調査によって異なる。税務調査で他に問題がなければ、こういうグレーゾーンが否認されることが多いんだ」
スタッフA:「税務調査でもめる原因になるんですね」
所長:「そう。でもこのグレーゾーンの経費も、会社の業績に連動して交際費と同じように増減するんだよ」
業績好調:
- グレーゾーン経費が増加
- 「これくらいいいだろう」
業績悪化:
- グレーゾーン経費が減少
- 「税務リスクを避けよう」
中小企業の業績判断まとめ
所長:「じゃあ、ここまでをまとめよう」
【中小企業の業績は決算書上の利益に反映されない】
業績が良い時:
- ✅ 役員報酬が増加
- ✅ 地代家賃が増加
- ✅ 交際費などの経費が増加
- → 決算書上は利益を圧縮している
業績が悪い時:
- ⬇️ 役員報酬が減少
- ⬇️ 地代家賃が減少
- ⬇️ 交際費などの経費が減少
- → 一定の利益を確保する
スタッフB:「だから決算書の利益だけ見ていてもダメなんですね」
所長:「その通り。中小企業の本当の業績を知るには、これらの項目を総合的に見る必要があるんだ」
実務での業績判断チェックリスト
所長:「実際に決算書を見る時は、こういう視点でチェックしている」
✅ 前期比較チェックポイント
1. 役員報酬の増減(最重要)
- 増加 → 業績好調の証拠
- 減少 → 業績悪化のサイン
2. 地代家賃の増減
- 増加 → 利益を圧縮したい
- 減少・ゼロ → 利益確保が必要
3. 交際費の増減
- 増加 → 余裕がある
- 大幅減少 → 資金繰りが厳しい
4. グレーゾーン経費の増減
- 増加 → 業績好調(ただし税務リスクあり)
- 減少 → 慎重になっている
スタッフA:「この4つを見れば、本当の業績が分かるんですね」
所長:「そう。しかも役員報酬は年単位だけど、地代家賃や交際費は月単位で変動する。だから業績の変化をより早く察知できるんだ」
銀行員と税務署は何を見ているか
スタッフB:「銀行の人や税務署も、こういう見方をするんですか?」
所長:「もちろん。特に銀行の融資担当者は、これらの項目を細かくチェックしている」
銀行員の視点
見るポイント:
- 役員報酬と地代家賃の合計額
- 交際費の推移(増減の理由)
- 社長個人の資産状況
判断基準:
- 「実質的な収益力はどのくらいか?」
- 「利益を圧縮しているだけで、実際は儲かっているのでは?」
税務署の視点
見るポイント:
- 地代家賃が相場と比べて高すぎないか
- 交際費の内容は適切か
- グレーゾーン経費が多すぎないか
判断基準:
- 「税務上問題ないか?」
- 「否認すべき経費はないか?」
所長:「だから私たちは、節税と税務リスクのバランスを常に考えているんだ」
まとめ:業績を映す3つの鏡
所長:「最後にまとめよう」
中小企業の業績を知るための3つの鏡:
1. 役員報酬(長期トレンド)
- 年単位で変動
- 最も重要な指標
- 社長の判断が反映
2. 地代家賃(中期トレンド)
- 数ヶ月単位で変動可能
- 税務戦略も含まれる
- 社会保険料も考慮
3. 交際費(短期トレンド)
- 月単位で変動
- 最も早く反応
- 社長の性格も反映
スタッフA:「この3つを見れば、会社の状態が分かるんですね」
所長:「そう。決算書の利益という一つの数字ではなく、複数の項目から総合的に判断する。これが長年の経験で身につけた技術なんだ」
スタッフB:「勉強になります!」
所長:「お客様の決算書を見る時は、この3つの鏡をいつも意識してほしい。そうすれば、社長が言葉にしない会社の状況まで理解できるようになるからね」
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- ✅ 社会保険料を考慮した報酬設計
- ✅ 交際費の適正な範囲についてのアドバイス
- ✅ 税務リスクを抑えた経費処理
- ✅ 銀行融資を考慮した決算書作成
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