スタッフとの会話で分かる!社長が求める本当の決算書
スタッフA:「所長、中小企業の社長にとって『良い決算書』って、利益がたくさん出ている決算書のことですよね?」
所長:「それが違うんだよ。これが中小企業の決算書を理解する上で、最も重要なポイントなんだ」
スタッフB:「えっ、利益が多い方が良いんじゃないんですか?」
所長:「大企業ならそうだけど、中小企業は違う。今日は『本当に良い決算書』とは何かを説明しよう」
中小企業の社長が求める「良い決算書」
所長:「中小企業の社長にとって良い決算書とは、毎年利益が増加している会社ではないんだ」
スタッフA:「じゃあ、何が良い決算書なんですか?」
所長:「それは、会社と社長個人、そして家族全体で見た時に、最も節税効果が高い決算書なんだよ」
スタッフB:「なるほど…会社単体じゃなくて、トータルで考えるんですね」
所長:「その通り。もちろん毎年利益を出して法人税を払い、銀行からの融資をスムーズに受けることも大切だ。でも中小企業の社長は、自分の会社と家族の節税効果を考えて、役員報酬や会社の利益を決めているんだ」
個人事業から法人化するタイミング
スタッフA:「実際、どのタイミングで会社を設立するんですか?」
所長:「個人事業として開業して、申告所得が1000万円を超えてくると、銀行も融資したい取引先になる。そうなると、私たち税理士は社長に会社の設立を勧めるんだ」
スタッフB:「どんな風にアドバイスするんですか?」
【税理士の提案例】
所長:「例えばこんな感じだね」
税理士:「社長、今の所得1000万円だと税負担が重いですよね。そろそろ会社を設立しませんか?」
社長:「会社にすると、どうなるんですか?」
税理士:「役員報酬を1000万円に設定すれば、こんなメリットがあります」
メリット1:消費税の免税(ただし注意点あり)
- 設立後2年間は消費税が免税になります
- ただし、インボイス制度の影響で効果は半減
- 取引先がインボイスを求める場合、免税事業者では取引に不利
- 簡易課税制度の選択も検討が必要
- 経過措置(2割特例など)の活用も視野に
メリット2:給与所得控除
- 役員報酬1000万円から給与所得控除200万円程度が控除される
- 課税所得が800万円になって大幅な節税に
メリット3:所得の分散
- 家族を役員にして所得を分散できる
- 税率の累進を抑えられる
メリット4:会社の利益調整
- 役員報酬で調整して会社の所得を0円にできる
- 法人税の負担を最小限に
スタッフA:「すごい!税金がかなり安くなりますね」
所長:「そうだね。ただし、いくつか注意点があるんだ」
スタッフB:「注意点ですか?」
所長:「まず、実際には社会保険の加入も考慮する必要がある。それと、インボイス制度が始まってから、消費税の免税期間のメリットが大きく変わったんだ」
インボイス制度で変わった消費税免税のメリット
スタッフA:「どう変わったんですか?」
所長:「以前は設立後2年間の消費税免税は大きなメリットだった。でも今は状況が違うんだ」
インボイス制度の影響
所長:「取引先が課税事業者の場合、インボイス(適格請求書)を求められることが多い。免税事業者のままだと、取引先は仕入税額控除ができないから、取引を敬遠されるリスクがあるんだ」
スタッフB:「じゃあ、免税期間中でもインボイス発行事業者になった方がいいんですか?」
所長:「取引先の状況による。ただ、選択肢はいくつかあるよ」
選択肢1:簡易課税制度の活用
所長:「あえてインボイス発行事業者になって、簡易課税制度を選択する方法がある」
- 業種によって、みなし仕入率(40%〜90%)で計算
- 実際の仕入が少ない業種(サービス業など)は有利
- 事務負担も軽減できる
選択肢2:2割特例(経過措置)の活用
所長:「それと、インボイス制度導入の経過措置として2割特例がある」
- 売上の2割を納税すればOK(令和8年9月まで)
- 簡易課税よりさらに簡単
- 免税事業者からインボイス発行事業者になった場合に使える
スタッフA:「選択肢がいろいろあるんですね」
所長:「そう。だから法人設立時は、消費税の免税メリットだけじゃなく、取引先の状況や業種に応じた消費税戦略が必要になっているんだ」
法人化で後悔するケース:社会保険料の負担増
スタッフB:「法人化って、メリットばかりなんですか?」
所長:「いや、実は法人化して後悔するケースも少なくないんだ。特に社会保険料の負担は、想像以上に重い」
スタッフA:「社会保険料ですか?」
所長:「そう。個人事業主の時は国民健康保険と国民年金だけだったのが、法人化すると厚生年金と健康保険の加入が義務になる」
社会保険料の負担例
所長:「具体例で見てみよう」
役員報酬1000万円の場合:
- 会社負担:年間約140万円
- 個人負担:年間約140万円
- 合計:年間約280万円
スタッフB:「280万円!結構な金額ですね…」
所長:「そう。個人事業主の時の国民健康保険・国民年金と比べると、倍以上の負担になることも珍しくない」
よくある後悔パターン
スタッフA:「実際、どんなケースで後悔するんですか?」
所長:「こんなパターンが多いね」
パターン1:利益が想定より少なかった
- 法人税は減ったが、社会保険料の固定費が重い
- トータルで個人事業の時より負担増
パターン2:売上が不安定な業種
- 売上が下がっても社会保険料は固定
- キャッシュフローが圧迫される
パターン3:家族を役員にしたケース
- 家族分の社会保険料も加わる
- 所得分散の節税効果が社会保険料で相殺
スタッフB:「じゃあ、法人化しない方がいい場合もあるんですね」
所長:「その通り。だから私は、法人化を勧める時は必ず社会保険料を含めたトータルシミュレーションを行うんだ」
法人化の判断ポイント
所長:「法人化すべきかどうか、こういう視点で判断している」
法人化のメリット > デメリット となるのは:
- ✅ 所得が継続的に1000万円以上
- ✅ 売上が安定している
- ✅ 取引先がインボイスを求めている
- ✅ 将来的な事業拡大を考えている
- ✅ 社会保険の福利厚生面でもメリットを感じる
慎重に検討すべきケース:
- ⚠️ 所得が不安定(年により大きく変動)
- ⚠️ 所得が800万円以下
- ⚠️ 取引先が消費者中心(インボイス不要)
- ⚠️ 一人で事業を続ける予定
- ⚠️ キャッシュフローに余裕がない
スタッフA:「単純に税金だけ見ていてはダメなんですね」
所長:「そう。税金・社会保険料・キャッシュフロー、この3つをトータルで見ないと、法人化で後悔することになる」
個人事業でも節税はできる
スタッフB:「でも所長、法人化しなくても節税する方法はあるんですよね?」
所長:「良いところに気づいたね。実は個人事業でも専従者給与を使えば、かなりの節税ができるんだ」
スタッフA:「専従者給与ですか?」
所長:「そう。家族を事業専従者にして給与を支払えば、その金額を経費にできる。これで所得の分散ができるんだ」
専従者給与のメリット
例:所得1000万円の個人事業主の場合
専従者給与を使わない場合:
- 事業主の所得:1000万円
- 所得税・住民税:約270万円
配偶者に専従者給与400万円を支払う場合:
- 事業主の所得:600万円(所得税・住民税:約120万円)
- 配偶者の所得:400万円(所得税・住民税:約50万円)
- 合計:約170万円(100万円の節税!)
スタッフB:「100万円も違うんですか!」
所長:「しかも、専従者は国民健康保険・国民年金のままでOK。社会保険料の強制加入はない。ここが法人化との大きな違いなんだ」
法人化 vs 個人事業(専従者給与)
所長:「比較するとこうなる」
法人化のメリット:
- ✅ 給与所得控除が使える
- ✅ 社会的信用が高い
- ✅ 銀行融資が受けやすい
- ✅ 消費税対策(条件付き)
法人化のデメリット:
- ❌ 社会保険料の負担が重い(強制加入)
- ❌ 設立・維持コストがかかる
- ❌ 赤字でも法人住民税が必要
個人事業(専従者給与)のメリット:
- ✅ 社会保険料の負担が軽い
- ✅ 手続きが簡単
- ✅ 維持コストが安い
- ✅ 専従者給与で所得分散可能
個人事業のデメリット:
- ❌ 給与所得控除が使えない
- ❌ 社会的信用が法人より低い
- ❌ 事業主本人の所得税率が高くなりやすい
スタッフA:「だから判断が難しいんですね…」
所長:「その通り。所得の金額、家族構成、事業の安定性、取引先の状況…いろんな要素を総合的に見て判断する必要がある。だから私は必ず複数パターンのシミュレーションを作って、お客様に提案しているんだ」
スタッフB:「30年の経験があっても、ケースバイケースなんですね」
所長:「まさにその通り。同じ所得1000万円でも、状況によって最適解は変わる。これが税理士の腕の見せ所だよ」
最後は社長の「会社を大きくしたい」という意思
スタッフA:「所長、でも結局のところ、どうやって最終判断をするんですか?」
所長:「良い質問だ。実は、税金や社会保険料のシミュレーションを全部やった後でも、最後は社長の意思なんだよ」
スタッフB:「社長の意思、ですか?」
所長:「そう。数字だけ見れば、個人事業のままの方が有利なケースでも、法人化を選ぶ社長は多い」
数字を超えた判断基準
所長:「例えばこんなケースがある」
社長A:所得900万円、専従者給与で十分節税できている
- 数字的には個人事業のままが有利
- でも「会社を大きくしたい」という夢がある
- → 法人化を選択
社長B:所得1200万円、法人化が数字的に有利
- でも「自由に事業をやりたい」
- 「社会保険料の固定費が嫌だ」
- → 個人事業のまま
スタッフA:「結局、数字だけじゃないんですね」
所長:「その通り。私が長年やってきて分かったのは、社長の『会社を大きくしたい』という意思が、すべてに優先するということなんだ」
法人化を選ぶ社長の想い
所長:「法人化を選ぶ社長は、こんなことを言うんだ」
社長の声:
- 「従業員を雇って事業を拡大したい」
- 「銀行から融資を受けて設備投資したい」
- 「取引先に『株式会社』として認めてもらいたい」
- 「息子に会社を継がせたい」
- 「社会保険に入って、従業員を守りたい」
スタッフB:「数字じゃなくて、経営者としての覚悟なんですね」
所長:「そういうこと。社会保険料が年間280万円かかっても、『それでも会社を大きくしたい』という意思がある社長は、法人化すべきなんだ」
私たち税理士の役割
所長:「だから私たちの仕事は、こうなる」
ステップ1:数字で比較する
- 法人化 vs 個人事業のシミュレーション
- 税金・社会保険料・キャッシュフローを計算
ステップ2:客観的に説明する
- メリット・デメリットを正直に伝える
- 隠れたコストも包み隠さず説明
ステップ3:社長の意思を確認する
- 「どんな事業をしたいのか」
- 「5年後、10年後をどう考えているのか」
ステップ4:最適なプランを提案する
- 社長の意思に沿った最善の方法を提示
- 実行までサポート
スタッフA:「数字だけじゃなくて、社長の夢や目標も大切にするんですね」
所長:「そう。税理士は単なる計算屋じゃない。社長のビジョンを実現するパートナーなんだ。長年やってきて、これが一番大切だと確信しているよ」
スタッフB:「勉強になります!」
所長:「良い決算書とは、社長の想いが詰まった決算書。これを忘れないでほしい」
節税が目的で作られた会社
スタッフB:「ということは、中小企業の多くは節税目的で設立されているんですか?」
所長:「会社を設立する目的は数多くあるけど、節税への期待は大きなウエートを占めているね」
スタッフA:「具体的にどんな節税をしているんですか?」
所長:「会社は経営者にキャッシュをもたらすことが最優先だから、税率の高い法人税を回避するために、こんな方法を取るんだ」
- 役員報酬を増加させて利益を圧縮
- 交際費などを活用して経費を増やす
- 家族を役員にして所得を分散
スタッフB:「なるほど。じゃあ役員報酬が高い会社は、税金対策をしているんですね」
所長:「そう。ただし、役員報酬が3000万円を超えるような社長は、所得税率と法人税率を比較して最適な報酬額を決める。でもそれは、ごく一部の優良企業だけだね」
銀行はどう見ているのか?
スタッフA:「でも待ってください。利益を圧縮したら、銀行からの融資に影響しませんか?」
所長:「良い質問だ。これが中小企業経営の難しいところなんだよ」
スタッフB:「銀行は利益が少ないと、融資してくれないんじゃ…」
所長:「その通り。銀行は融資を行う際、会社の利益単体で判断する傾向がある。だから役員報酬などで利益が圧縮された会社は、収益力の劣る会社と見られがちなんだ」
スタッフA:「それは困りますね…」
所長:「でも、熟練の融資担当者は違う。法人の経営と個人資産を一体で見て融資判断をするんだ」
熟練の融資担当者の見方
実際の融資実務では:
- 会社の資産・負債に個人財産をプラス
- 統合した貸借対照表を作成して判断
- 家族の役員報酬も考慮
所長:「ただし、会社の決算書だけから収益力を見てしまう傾向もあるから、家族の役員報酬や個人資産の説明は不可欠なんだ」
良い決算書を作るポイント
スタッフB:「じゃあ、社長にとって本当に良い決算書を作るには、どうすればいいんですか?」
所長:「まとめるとこうなるね」
ポイント1:全体最適を考える
会社単体ではなく、社長個人・家族全体で税負担を最小化
ポイント2:銀行対策も忘れずに
適度な利益を確保して、融資を受けやすい決算書に
ポイント3:役員報酬の最適化
所得税率と法人税率を比較して、最適な報酬額を設定
ポイント4:説明資料の準備
銀行には個人資産も含めた資料を用意して説明
スタッフA:「バランスが大事なんですね」
所長:「その通り。節税と資金調達、両方を考えた決算書作りが重要なんだ。これが30年の経験で学んだことだよ」
まとめ:中小企業の決算書は経営戦略
所長:「中小企業の決算書は、単なる数字の記録じゃない。社長の経営戦略そのものなんだ」
ポイント:
- ✅ 良い決算書=利益が多い決算書ではない
- ✅ 会社と個人をトータルで見た節税効果が重要
- ✅ 銀行融資も考慮したバランスが必要
- ✅ 役員報酬の最適化が鍵
- ⚠️ 法人化は社会保険料を含めて慎重に判断
- ⚠️ インボイス制度の影響も考慮が必要
- 💡 最後は社長の「会社を大きくしたい」という意思が最優先
スタッフB:「決算書の見方が変わりました!」
所長:「それは良かった。お客様の決算書を作る時は、いつも『この社長にとって最善の決算書は何か』『この社長はどんなビジョンを持っているのか』を考えてほしい。それが私たちの仕事だからね」
決算書作成・節税対策でお困りの経営者の方へ
当事務所では、長年の実務経験をもとに、社長のビジョンを実現する決算書を作成します。
数字だけでなく、社長の「会社を大きくしたい」という想いに寄り添い、最適なプランをご提案いたします。
当事務所のサポート:
- ✅ 法人化 vs 個人事業の複数パターンシミュレーション
- ✅ 専従者給与を含めた最適な節税プラン
- ✅ 社会保険料を含めた法人化シミュレーション
- ✅ 会社と個人をトータルで見た節税提案
- ✅ 銀行融資を考慮した決算書作成
- ✅ 役員報酬の最適化シミュレーション
- ✅ 法人化のタイミングアドバイス(メリット・デメリット分析)
- ✅ 家族への所得分散プラン(専従者給与・役員報酬)
- ✅ インボイス制度を踏まえた消費税戦略
- ✅ 簡易課税・2割特例のシミュレーション
法人化すべきか、個人事業のままが良いか迷っている方、法人化したが社会保険料の負担が重いと感じている方も、ぜひご相談ください。お客様の状況に応じた最適なプランをご提案します。
決算書の作り方、役員報酬の決め方、銀行対策でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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