土地等の譲渡所得に関する誤りやすい事例【尼崎の税理士が解説・令和7年版】

税理士法人松野茂税理士事務所 土地等の譲渡所得に関する誤りやすい事例【尼崎の税理士が解説・令和7年版】
目次

はじめに

不動産を譲渡した際の確定申告では、多くの方が誤った処理をしてしまうケースが見られます。今回は、大阪国税局が公表している「資産課税関係 誤りやすい事例」をもとに、現行税法に沿って実務でよくある間違いとその正しい取扱いについて解説いたします。

重要な注意事項: 本記事は平成23年分用の資料を基にしていますが、その後の税制改正により変更された点については現行法(令和7年時点)に更新しております。


1. 収入金額に関する誤り

事例1-1:売買契約書の特約条項を見落とし

誤った取扱い
譲渡所得の計算に当たって、実測精算金があるにも関わらず、売買契約書の売買価額欄に記載された価額のみを譲渡価額としてしまった。

正しい取扱い
売買契約書の特約条項欄の内容等を確認し、実測精算金等があり、売買価額とは別に受領している場合は、その金額を譲渡価額に加算する必要があります(所得税法第36条)。


事例1-2:固定資産税の精算金を収入に含めない

誤った取扱い
売買契約において、売却後の期間に対応する固定資産税相当額を支払う旨の特約があったが、売買価額のみをもって譲渡価額としてしまった。

正しい取扱い
売買契約書の特約条項欄の内容等を確認し、固定資産税の精算金があり、売買価額とは別に受領している場合は、その金額を譲渡価額に加算する必要があります(所得税法第36条)。

実務上の注意点
固定資産税の精算金は、税法上「租税公課の精算」ではなく「売買代金の一部」として扱われます。これを見落とすと所得金額が過少となり、後日修正申告が必要になる可能性があります。


事例1-3:貸家を売却した際の保証金の取扱い

誤った取扱い
貸家(店子付き)を売却した場合の譲渡所得の計算に当たって、持ち回り保証金(売却時に譲渡者と譲受者間で預り保証金を清算せずに、その後、店子が退去した場合は譲受者が負担し返還する)があるにもかかわらず、売買契約書の売買価額欄のみを譲渡価額としてしまった。

正しい取扱い
売買契約書の特約条項欄の内容等を確認し、持ち回り保証金がある場合は、その金額を譲渡価額に加算する必要があります(所得税法第36条)。


事例1-4:低額譲渡における時価と売買価額の差額

誤った取扱い
同族法人に対して、時価3,000万円の不動産を売却したが、その価額が1,000万円であったため、譲渡価額は1,000万円として譲渡所得の計算をした。

正しい取扱い
個人が法人に対して、時価の2分の1未満の価額で譲渡した場合には、時価(事例の場合は、3,000万円)により譲渡したとみなされる(所得税法第59条第1項、所得税法施行令第169条)。

税理士からのアドバイス
同族法人への譲渡は特に注意が必要です。低額譲渡に該当すると、実際の受取額ではなく時価で課税されるため、資金的な準備も含めて事前の検討が不可欠です。


事例1-5:親子間の低額譲渡

誤った取扱い
父親の所有する不動産を1,000万円で長男に売却したが、時価が3,000万円であったため、譲渡価額を3,000万円として譲渡所得の計算をした。

正しい取扱い
父親は、譲渡価額を1,000万円として譲渡所得の計算を行い、長男は、時価と売買価額との差額2,000万円について贈与税が課税される(措置法第7条、個別通達平元直評5)。


事例1-6:相続財産を遺産分割により取得

誤った取扱い
相続財産の遺産分割において、従来から相続人が所有する不動産を代償財産として他の相続人に引き渡したが、遺産分割を要因とするものであるため、譲渡所得の申告は不要とした。

正しい取扱い
他の相続人に不動産を引き渡した時点で、その不動産の時価により譲渡したことになり、譲渡所得が課税される(所得税法第36条、所得税基本通達33-1の5)。

代償分割に係る資産の取得費については、所得税基本通達38-7を参照のこと。


事例1-7:夫婦間の不動産譲渡

誤った取扱い
妻と離婚することになり、居住用不動産を財産分与したが、慰謝料として渡したものであるため譲渡所得の申告は不要とした。

正しい取扱い
不動産を分与(所有権移転)した場合、その時の不動産の時価で譲渡が行われたことになるため、その不動産の時価を譲渡価額として譲渡所得の計算を行う必要があります(所得税基本通達33-1の4)。

分与した不動産が居住用である場合は、各種居住用の特例の適用が受けられる場合があります。


事例1-8:強制換価手続による譲渡と非課税所得

誤った取扱い
競売で土地及び建物を譲渡した場合には、非課税所得に該当する。

正しい取扱い
競売であったとしても、所得税法第9条に規定する資力喪失状態にあることなど所要の要件を充足しないと、非課税所得とはならない(所得税法第9条第1項十)。


2. 取得費に関する誤り

事例2-1:借地権を売却する際の立退料の取扱い

誤った取扱い
所有する土地を売却するために借地人に支払った立退料や離作料は、譲渡費用に当たるとして譲渡所得の計算を行った。

正しい取扱い
借地権等を消滅させた後に、その土地を売却したことは、旧借地権部分と旧底地部分をそれぞれ譲渡したことになる。そして、借地権等を消滅させる対価は、旧借地権の取得費となり、旧借地権等部分は短期譲渡所得となる(所得税基本通達33-11の2、38-4の2)。

譲渡費用とした場合には、概算取得費(5%)を適用したときに計算誤りが生じる。


事例2-2:造成後に売却した土地の概算取得費

誤った取扱い
造成後、売却した土地の譲渡所得について、概算取得費(5%)と造成費用の合計額を取得費として計算を行った。

正しい取扱い
取得費について、概算取得費(5%)を適用する場合には、造成費用を重ねて控除することができない(所得税法第38条第1項、措置法第31条の4第1項)。


事例2-3:相続により取得した不動産を売却する際の取得費

誤った取扱い
相続により取得した不動産を売却した場合の譲渡所得の計算において、当該相続財産を相続する際に支払った代償金を、取得費に加算した。

正しい取扱い
相続財産を取得する際に支払った代償金は、譲渡所得の計算上、取得費に加算することはできない(所得税基本通達38-7)。


事例2-4:営業権等の取得価額

誤った取扱い
取得したものでない営業権(新規開業権等)の譲渡所得の計算において、譲渡収入金額の5%を取得費として計上した。

正しい取扱い
譲渡所得の金額の計算上、控除する取得費がないものとされる営業権、営業権、漁業権等については、譲渡収入金額の5%の金額を取得費(概算取得費)として計上することはできない(所得税基本通達38-16)。


事例2-5:親から相続した土地を子が売却

誤った取扱い
父親から相続した不動産を売却したが、当該不動産は相続税課税対象とされていたため、その相続税額を取得費に加算して譲渡所得の計算を行った。

正しい取扱い
相続により取得した不動産は、被相続人が実際に取得した時期及び価額を引き継ぐことになる(所得税法第60条)。

相続税額の申告の提出期限の翌日から3年を経過する日までの間に売却した場合には、一定の計算方法により計算した額を取得費として加算することができる(措置法第39条)。


3. 譲渡費用に関する誤り

事例3-1:修繕費や固定資産税を譲渡費用に含める

誤った取扱い
修繕費や固定資産税などを譲渡費用として譲渡所得の計算を行った。

正しい取扱い
譲渡費用とは、①仲介手数料や登記費用など譲渡のため直接要した費用、②借家人を立ち退かせるための立退料、建物等の取壊し費用など、資産の譲渡価額を増加させるために支出した費用のことをいい、資産の維持又は管理に要した費用は譲渡費用に含まれない(所得税基本通達33-7)。


事例3-2:抵当権抹消費用の取扱い

誤った取扱い
不動産を売却する際に支払った抵当権抹消登記費用を譲渡費用に加算して、譲渡所得の計算を行った。

正しい取扱い
抵当権を抹消することが、不動産を売却する前提としても、売買を実現するために直接要した費用でないため譲渡費用にはならない(所得税基本通達33-7)。


事例3-3:売買契約解除時の違約金

誤った取扱い
受領した手付金の倍返し(半分は返還分部分)により当初の売買契約を解除し、その後、より有利な条件でその不動産を売却した場合の譲渡所得の計算上、違約金部分を譲渡費用に算入しなかった。

正しい取扱い
売買契約を締結した後、その契約の内容に比してより有利な条件で他にその不動産を売却した場合において、先の契約を解除するために支払った違約金(手付金の返還部分は除く)は、その不動産の譲渡所得の計算上、譲渡費用に算入される(所得税基本通達33-7)。


事例3-4:建物取壊し費用の取扱い

誤った取扱い
建物を取壊し、更地にして土地を売却した際、建物の売却がなかったので、取壊し費用のみを譲渡費用として、譲渡所得の計算を行った。

正しい取扱い
譲渡費用には、建物の取壊しに要した費用のほか、建物の未償却残高相当額も含まれる(所得税基本通達38-8)。


4. 所得区分・損益通算に関する誤り

事例4-1:譲渡日の判定誤り

【所得区分関係】

誤った取扱い
土地の譲渡の日及び取得の日の状況は次のとおりである。

  • 譲渡の日(契約:平成22年、引渡し:平成23年)
  • 取得の日(契約:平成17年、引渡し:平成18年)

そして、平成23年分(引渡ベース)として譲渡所得を申告するのであれば、取得の日も引渡しを受けた平成18年とすべきであるとして、分離短期譲渡所得として計算を行った。

正しい取扱い
譲渡の日を引渡しの平成23年としても、取得の日を契約のあった平成17年(契約ベース)とし、分離長期譲渡所得として申告することは可能である(所得税基本通達33-9)。


事例4-2:譲渡損失の損益通算

【損益通算関係】

誤った取扱い
所有する不動産を売却したところ、譲渡損失が発生したため、その損失を給与所得と損益通算を行った。

正しい取扱い
不動産の譲渡により生じた損失の金額は、他の所得との損益通算は認められない(措置法第31条第1項、第32条第1項)。

不動産の売却であっても、次の特例を適用することにより、譲渡損失の金額と他の所得との損益通算及び翌年以降の繰越しは認められる。

  • 措置法第41条の5(居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
  • 措置法第41条の5の2(特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)

事例4-3:ゴルフ会員権の譲渡損失

誤った取扱い
ゴルフ会員権の譲渡損失(総合譲渡)と不動産の譲渡益(分離譲渡)との損益通算を行った。

正しい取扱い
平成26年度税制改正により、ゴルフ会員権等(リゾート会員権を含む)の譲渡によって生じた損失は、他の所得との損益通算が一切できなくなりました。総合譲渡所得内での他の譲渡益との相殺も認められません(措置法第31条第1項、第32条第1項、所得税法第69条第2項)。

税理士からのアドバイス
平成26年以前はゴルフ会員権の譲渡損失を他の総合譲渡所得と相殺できましたが、現在は完全に損益通算が制限されています。ゴルフ会員権を売却される際は、この点に十分ご注意ください。


事例4-4:青色申告者の事業用不動産譲渡損失

誤った取扱い
青色申告者であることから、事業用不動産(固定資産)の売却による譲渡損失を事業所得と損益通算し、また控除しきれなかった損失の金額を翌年以降に繰り越した。

正しい取扱い
青色申告者であっても、不動産の譲渡により生じた損失の金額と他の所得との損益通算及び青色申告者の場合の翌年以降の繰越しは認められない(措置法第31条第1項、第32条第1項)。


事例4-5:預金等金融資産の譲渡損失

誤った取扱い
所有していた別荘、ヨット、金地金を売却したところ、非に譲渡損失となったため、給与所得との損益通算を行った。

正しい取扱い
全て生活に通常必要でない資産の損失であるため、他の所得との損益通算はできない(所得税法第69条第2項、所得税法施行令第178条第2項)。


事例4-6:キャンピングカーの譲渡損失

誤った取扱い
所有していた金地金、キャンピングカー、通勤用自動車を同年中に売却した。キャンピングカーと通勤用自動車については、譲渡損失が発生したので、金地金の譲渡益と損益通算して申告した。

正しい取扱い
キャンピングカーは、「生活に通常必要でない資産」に該当するため、同じく「生活に通常必要でない資産」である金地金の譲渡益と損益通算できる。

しかし、通勤用自動車は「生活の用に供する資産」として取り扱われるため、利益が出ても課税されない反面、損失についても生じなかったこととなり、損益通算することはできない(所得税法第9条第1項九、第2項一)。


5. 特例適用に関する誤り

事例5-1:固定資産の交換の特例(所得税法第58条)

誤った取扱い
土地を等価交換した場合には、譲渡所得は課税されない。

正しい取扱い
土地を交換した場合であったとしても、所得税法第58条に規定する譲渡の直前の用途と同一の用途に供するなどの所要の要件を充足しないと、相互に時価で譲渡したものとして、譲渡所得金額が算出することになる(所得税法第58条第1項)。


事例5-2:開墾地との固定資産交換

誤った取扱い
個人で所有している土地と不動産業者の所有していた同種の土地(開墾資産)とを交換したが等価交換であったため、固定資産の交換の特例(所得税法第58条)を適用して申告した。

正しい取扱い
不動産業者などが棚卸資産として所有している資産との交換は、特例の対象とならないため時価で譲渡があったものとして譲渡所得の申告が必要になる(所得税法第2条第1項八、第58条第1項、所得税法施行令第5条)。


事例5-3:長年耕作してきた農地との交換

誤った取扱い
長年耕作してもらっていた農地について、農地法の許可を受けて貸借権を解除し、耕作人に対して他の農地を提供したが、同種の資産でないため固定資産の交換の特例(所得税法第58条)は適用できないとした。

正しい取扱い
土地には、建物又は構築物の所有を目的とする地上権、賃借権、農地法に規定している耕作権が含まれる(所得税法第58条第1項一)。したがって、農地と耕作権を交換した場合には、同種の資産と交換したことになり、特例を受けることができる。


事例5-4:等価交換における申告期限後の特例適用

誤った取扱い
土地を等価交換した後、申告期限までの間に、交換の相手方が、当該土地を譲渡した場合には、所得税法第58条の特例の適用要件である「譲渡の直前の用途と同一の用途に供した場合」に該当しない。

正しい取扱い
「譲渡の直前の用途と同一の用途に供した場合」を判定するのは、交後により取得した土地であり、交換先に譲渡した土地ではない(所得税法第58条第1項)。


事例5-5:居宅とその敷地との交換

誤った取扱い
母親が所有している居宅及びその敷地と長男が所有している倉庫及びその敷地につき等価交換したとして所得税法第58条を適用して申告した。

正しい取扱い
交換取得資産は、交換譲渡資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供することが所得税法第58条の適用要件の一つであるが、居宅と倉庫は同種の資産(建物)であるもののの用途が異なるため建物につき交換の特例の適用はない。

なお、建物につき時価課税されることに伴い土地の交換に関して当該時価が交換差金とみなされるので、その差金が交換譲渡資産の価額の100分の20を超える場合には土地の交換についても所得税法第58条の適用は認められない。


事例5-6:優良住宅地の譲渡(措置法第31条の2)

誤った取扱い
長期保有の土地及び建物を譲渡した場合に、建物部分についても特定所得税として優良住宅地の造成等のために土地等を売却した場合の軽減税率の特例(措置法第31条の2)を適用して税額の計算を行った。

正しい取扱い
措置法第31条の2の適用の対象となる資産は、長期保有の土地等に限られる(措置法第31条の2)ことから、建物の譲渡益については、特例の適用はできない。


事例5-7:土地等の収用交換等による補償金

誤った取扱い
土地等の収用交換等による対価補償金について、5,000万円の特別控除の特例(措置法第33条の4)を適用するとともに、控除後の譲渡所得金額について、優良住宅地の造成等のために土地等を売却した場合の軽減税率の特例(措置法第31条の2)を適用して税額の計算を行った。

正しい取扱い
措置法第31条の2の適用する場合には、措置法第33条から第33条の4まで、第34条から第35条の2まで、第36条の2、第36条の5、第37条、第37条の4から第37条の7まで、第37条の9の2から第37条の9の5の特例を重複適用することはできない(措置法第31条の2第2項)。


事例5-8:居住用財産の売却(措置法第31条の3)

誤った取扱い
売却した不動産の所有期間がそれぞれ、土地が20年、建物が8年であったが、3,000万円の特別控除の特例(措置法第35条)を適用するとともに、控除しきれなかった譲渡所得金額について居住用財産を売却した場合の軽減税率の特例(措置法第31条の3)を適用して税額の計算を行った。

正しい取扱い
居住用家屋とその敷地の用に供されている土地等のいずれもが譲渡した年の1月1日において所有期間が10年を超えている場合に限って、措置法第31条の3を適用することができる(措置法第31条の3-3)。


事例5-9:収用の特例(措置法第33条・第33条の4)

誤った取扱い
同一の収用事業(A事業)のために2年にわたって土地を譲渡したが、昨年(初年度)は代替資産を取得した場合の課税の特例(措置法第33条)を適用していたことから、本年の譲渡については5,000万円の特別控除の特例(措置法第33条の4)を適用して申告することとした。

正しい取扱い
同一の収用事業のために2年にまたがり譲渡した場合において、措置法第33条の4の適用があるのは、その最初の年の譲渡に限られる。したがって、本年の譲渡について措置法第33条の4の適用はできない(措置法第33条の4第3項二)。


事例5-10:収用事業のための土地の買取り申出

誤った取扱い
収用事業のために昨年の3月に土地の買取りの申出を受け、その申出の日から6か月以内に譲渡契約は締結したが、引渡しは翌年となった。

確定申告は、土地を引き渡した年分でする予定であるが、買取りの申出の日から6か月以内に引渡しをしていないことから、5,000万円の特別控除の特例(措置法第33条の4)は適用できないとした。

正しい取扱い
資産の譲渡の日を原則どおり引渡しの日とした場合であっても、その買取りの申出の日から6か月以内に譲渡契約を締結しているときは、措置法第33条の4の適用は可能である(措置法第33条の4第3項一)。


事例5-11:収用事業のための土地買取り(B事業)

誤った取扱い
収用事業(A事業)のために2年にわたって土地を譲渡し、2年目の譲渡については、代替資産を取得した場合の課税の特例を適用して申告することとした。

また、同一の収用事業(B事業)のための譲渡もあるが、これについては初年度であることから5,000万円の特別控除の特例を適用して申告することとした。

正しい取扱い
措置法第33条の4の適用を受ける場合は、同年中において措置法第33条の適用を受けていないことが要件となっている。したがって、収用事業(B事業)については、措置法第33条の4の適用はできない(措置法第33条の4第1項)。

※ 収用事業(B事業)の譲渡に係る代替資産を取得した場合には、収用事業(B事業)についても措置法第33条の適用を受けることができる。


事例5-12:補償金以外の補償金の所得区分

誤った取扱い
収用の場合の対価補償金以外の補償金について、全て譲渡価額に加算して譲渡所得の計算を行った。

正しい取扱い
対価補償金以外の補償金については、その内容により次の所得区分ごとに所得金額の計算を行うこととなる(措置法第33条の8、第33条の9等)。

<原則>

  • 収益補償金 ⇒ 不動産、事業所得、雑所得
  • 経費補償金 ⇒ 不動産、事業所得、雑所得
  • 移転補償金 ⇒ 一時所得
  • 対価補償金 ⇒ 譲渡所得、山林所得
    • ※ 対価補償金以外を対価補償金と取り扱うことができる場合がある。

<対価補償金以外の補償金の例>

  • 仮住居補償 ⇒ 移転補償金
  • 家賃減収補償 ⇒ 収益補償金
  • 移転雑費 ⇒ 移転補償金

事例5-13:特定土地区画整理事業のための譲渡(措置法第34条)

誤った取扱い
重要文化財として指定された土地が2年にわたって買い取られ、22年分は措置法第34条の特例を適用して確定申告をしたが、23年分は同様に特例を適用して確定申告をした。

正しい取扱い
措置法第34条の適用対象となる土地等の譲渡において、同一事業の事業用地として2以上の年にわたって買取りが行われたときは、最初の買取りが行われた年以外の買取りは当該特例の対象とならない(措置法第34条第3項)。

したがって、23年分の譲渡についても、その他の特例の適用要件を満たせば、特例の適用がある。

なお、重要文化財として指定された土地等の措置法第34条の連年適用排除については、平成20年1月1日以後に行う土地等の譲渡について適用される。


事例5-14:特定宅地造成事業等のための譲渡(措置法第34条の2)

誤った取扱い
同一の収用事業の対横地に充てるため、平成22年と平成23年に土地の買取りがあった。22年分の申告においては措置法第34条の2を適用していたため23年分については、措置法第34条の2の適用はないとした。

正しい取扱い
対横地の買取りが一の事業の用に供するための買取りに該当するかどうかは、当該対横地の買取りのみに基づいて判定するのであって、当該買取りの起因となった収用等の事業が同一事業であるかどうかは問係がない(措置法通達第34条の2-23)。

したがって、23年分の譲渡についても、その他の特例の適用要件を満たせば、特例の適用がある。


事例5-15:居住用(措置法第35条)

誤った取扱い
居住の用に供していた家屋からB家屋に転居した後、A家屋を譲渡した場合、譲渡した時点では親族の家屋を所有し、B家屋に貸し居住していたため、A家屋については、譲渡者が「主としてその居住の用に供している家屋」と認められることから、特例の適用はないとした。

正しい取扱い
居住の用に供していた家屋でその譲渡の時においで居住の用に供されていない場合の「主としてその居住の用に供していた家屋」の判定時期については、居住の用に供されなくなった時である(措置法通達第31条の3-9)。


事例5-16:夫婦の所有する建物の売却

誤った取扱い
夫が所有していた土地の上に、妻が所有する建物があり、夫婦でこの家屋に居住していた。この居住用不動産を譲渡したところ、土地については譲渡者が発生したため、3,000万円控除の特例及び軽減税率の特例を適用し、建物については譲渡損失となったため、措置法第41条の5の特例を適用して申告した。

正しい取扱い
譲渡敷地の所有者がその譲渡益について、「軽減税率の特例」又は「3,000万円控除の特例」の適用を受ける場合には、譲渡家屋の所有者の譲渡損失について、「繰越控除等の特例」の適用を受けることはできない(措置法第31条の3-19(注)、第35-4)。


事例5-17:生計を一にする親族間での譲渡

誤った取扱い
父から使用貸借により借り受けていた居住用家屋の敷地を相続したを後、直ちに当該家屋ととともに譲渡した が、所有者となった後の居住期間が短いため、特例の適用はないとした。

正しい取扱い
相続により家屋に該当するか否かは、居住期間で判断するのではなく、生活の拠点として利用していたかどうかで判断する。つまり、日常生活の状況、家屋への入居的、家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判断する(措置法通達第35-5で準用する第31条の3-2)。したがって、この事例では、特例の適用ができる。


事例5-18:相続により取得した家屋の売却

誤った取扱い
実家を相続した後、居住することなく売却したが、2年弱までは住んでいたことから3,000万円の特別控除の特例(措置法第35条)を適用して申告した。

正しい取扱い
相続した家屋の所有者として居住した事実がなかったため、措置法第35条の適用はできない(措置法第31条の3-6、第35-5)。

税理士からのアドバイス
ただし、一定の要件を満たす場合には「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」(措置法第35条第3項)が適用できる可能性があります。この特例は、相続により取得した被相続人居住用家屋及びその敷地等を、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合等に、最高3,000万円の特別控除が受けられるものです。適用要件が細かく定められていますので、該当する可能性がある場合は事前に専門家にご相談ください。


6. 特別控除と買換え特例の重複適用(措置法第37条)

事例6-1:買換資産の面積要件

誤った取扱い
買換資産である土地等の面積が譲渡資産の面積の5倍を超えているにも関わらず、買換資産の取得価額の全額をもって譲渡所得の計算を行った。

正しい取扱い
土地等を買換資産として取得した場合、その土地等の面積が譲渡資産の土地等の面積の5倍を超えるときは、その超える部分の面積に対応する部分は、買換資産に該当しないとされている(措置法第37条第2項、措置法施行令第25条第5項)。

譲渡資産が一定の要件を満たす場合には10倍の面積制限となる。


7. 公益法人等への寄附(措置法第40条)

事例7-1:公益法人への土地寄附

誤った取扱い
公益財団法人に対し、土地を寄付したが、所得税は非課税であることから、何ら手続きを行わなかった。

正しい取扱い
公益法人等に土地を寄付した場合には、原則として、寄付時の時価により譲渡があったものとみなされ、これら の財産の値上がり益に対して所得税が課税される(所得税法第59条第1項)。

しかしながら、その寄付が、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして、国税庁長官の承認を受けたときは、その所得税について非課税となる。

この特例を適用するためには、寄付の日から4か月以内に、承認申請書を寄付者の納税地の所轄税務署に提出する必要がある(措置法第40条第1項)。


8. 居住用財産の譲渡損失(措置法第41条の5)

事例8-1:敷地面積500㎡超の場合

誤った取扱い
居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措置法第41条の5)の適用に当たって、売却した居住用不動産の敷地面積が600㎡であったため、500㎡を超える部分に相当する譲渡損失の金額とはないものとして、給与所得との損益通算を行った。

正しい取扱い
譲渡資産の土地等の面積が500㎡を超える場合であっても、譲渡損失の全額を譲渡した年分の損益通算の対象とすることができる。

なお、翌年以降に繰り越す場合には、500㎡を超える部分に相当する金額は繰り越すことができない(措置法第41条の5第3項)。


事例8-2:住宅ローンの償還期間10年未満

誤った取扱い
居住用財産の買換えに当たって、土地及び家屋に係る住宅借入金等を別々にし、家屋に係る借入金の償還期間は10年としたものの、土地に係る借入金の償還期間は8年とした。このため、居住用財産の買換え等の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措置法第41条の5)を適用できないとした。

正しい取扱い
措置法第41条の5に規定する住宅借入金等は、住宅の用に供する家屋の新築若しくは取得又は敷地の取得のための借入金で償還期間が10年以上であるものとされていることから、いずれか一方の償還期間が10年以上であれば特例を適用することができる。


事例8-3:譲渡損失発生後に賃貸資産として保有

誤った取扱い
居住用資産を譲渡し、その年の翌年に買換資産を取得して居住したが、その後転勤により家族を含めて買換資産に居住しなくなった。

そのため、譲渡の年の翌年12月31日において、住宅借入金の残高はあるものの、居住をしていないことから、繰越控除の特例(措置法第41条の5⑤)を適用できないとした。

正しい取扱い
繰越控除の適用に当たっては、買換資産に居住してその後居住しなくなったとしても、その年の12月31日に買換資産に係る住宅借入金の残高を有していれば繰越控除の特例を受けることができる(措置法第41条の5第5項)。


事例8-4:繰上返済により償還期間が短縮

誤った取扱い
昨年に居住用不動産の買換えを行い、譲渡損失が発生したため、居住用財産の買換え等の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措置法第41条の5)の適用を受け確定申告をした。

そして、本年、現在居住している不動産の住宅ローン(当初の償還期間15年)の繰上返済を行い償還期間が6年短縮されたが、譲渡損失の繰越控除の特例の適用があるものとして申告することとした。

正しい取扱い
繰上返済により住宅借入金等の償還期間が短縮され、その年の12月31日において、特例の適用要件を満たす(償還期間10年以上)買換資産に係る住宅借入金等を有しないこととなる場合には、繰越控除の特例を受けることはできない(措置法通達第41条の5-17)。


事例8-5:買換資産の取得に係る住宅ローン償還期間8年

誤った取扱い
平成21年に居住用不動産の買換えを行い、譲渡損失が発生したため、居住用財産の買換え等の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措置法第41条の5)の適用を受け確定申告をした。平成22年10月に償還期間8年のローンに借換えたが、同特例の適用があるものとして平成22年分の確定申告を行った。

正しい取扱い
買換資産の取得に係る借入金を借換えた場合合は、新たな借入金が当初の借入金を消滅させるためのものであることが明らかな場合で、一定の金融機関からの借入金等であり、償還期間10年以上の割賦償還により返済されるものであるときに限り、新たな借入金は買換資産に係る住宅借入金等に該当する(措置法通達第41条の5-16)。

事例の場合、借り換えた住宅ローンの償還期間が8年であり、通達に定める要件を満たさないことから、特例の適用はない。


事例8-6:離婚による財産分与のマンション売却

誤った取扱い
平成23年中に妻と離婚し、それまで居住していたマンションを元妻へ財産分与した。この分与により譲渡損失が生じたが、居住用財産の買換え等の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措置法第41条の5)を適用できないとした。

正しい取扱い
特殊関係者に対する譲渡による損失については、損益通算及び繰越控除の特例の適用はないこととされているが、その判定時期は、譲渡の時の状況によることとされている(措置法第41条の5-18で準用する第31条の3-20)。

事例の場合、分与時には、分与を受けた者は分与をした者の配偶者ではないので、措置法第41条の5の適用要件を満たすものであれば適用することができる。


9. 特定居住用財産の譲渡損失(措置法第41条の5の2)

事例9-1:登記事項証明書の添付

誤った取扱い
措置法第41条の5(居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)の適用を受けるための添付書類として、譲渡資産の登記事項証明書を売買契約書の写しで代用することはできないとした。

正しい取扱い
「登記事項証明書、売買契約書の写しその他の書類で、譲渡資産の所有期間が5年を超えるものであることを明らかにする書類」の添付が必要と規定されていることから、売買契約書の写しでも構わない。

ただし、所有期間が5年を超えることを明らかにすることが必要であるため、売買契約書の写しは、譲渡資産の譲渡時のものと取得時のものの両方が必要である(措置法第18条の25第1項二)。


事例9-2:譲渡損失金額の計算(措置法第41条の5の2第2項)

誤った取扱い
住宅ローンの残高が1,000万円あった居住用不動産を売却し、その譲渡損失の金額を計算したところ800万円(取得費等1,200万円-譲渡価額400万円)の譲渡損失の金額が算出されたため、その全額を給与所得と損益通算して申告することとした。

正しい取扱い
措置法第41条の5の2の適用が可能な譲渡損失の金額は、譲渡契約締結日の前日における住宅借入金等の金額が譲渡価額を上回る部分の金額が限度となるため、600万円(1,000万円-400万円)が特例の対象金額となる(措置法第41条の5の2第2項一)。


まとめ

不動産の譲渡所得については、特例の適用要件が複雑であり、また、取得費や譲渡費用の判断も難しいケースが多くあります。申告前に専門家へのご相談をお勧めいたします。


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本記事は大阪国税局資産課税課「資産課税関係 誤りやすい事例(土地等譲渡所得関係 平成23年分用)」を参考に作成し、令和7年(2025年)10月時点の現行税法に基づき内容を更新しております。

特に以下の点について税制改正を反映しています:

  • ゴルフ会員権の譲渡損失の損益通算制限(平成26年改正)
  • 居住用財産の買換え特例の廃止(平成21年廃止)
  • 保証債務履行特例の改正(平成22年改正)
  • 空き家特例の創設(平成28年創設)

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