2回目 税理士受験から開業まで ~挫折と再起、そして何もないところからのスタート~ |尼崎の税理士

税理士法人松野茂税理士事務所
目次

はじめに

税理士試験は長期戦です。私の場合、合格までに5年の歳月を要しました。その道のりは決して平坦ではなく、体調不良や阪神大震災という未曾有の災害にも見舞われました。そして、ようやく手にした税理士資格でしたが、待っていたのはバブル崩壊後の厳しい現実でした。


挑戦の始まりと現実の壁

退職して専念の決意

平成元年10月、私は勤めていた会社を退職し、大原簿記学校の2年パックに申し込みました。「2年で必ず合格する」という強い決意のもと、簿記論、財務諸表論、相続税法の3科目を申し込みました。

最初は順調に思えました。講義の内容も理解でき、問題演習もこなせる。しかし、学習が進むにつれ、税理士試験の難しさを痛感することになります。

1年目の洗礼

途中から「1科目でも合格すればいい」と考えるようになりました。目標を下方修正せざるを得ないほど、試験の壁は高かったのです。

自己採点の結果は厳しいものでした。簿記論はわずか10点。一方、財務諸表論は合格ラインを超えていました。初年度で1科目合格という結果に、安堵と焦りが入り混じりました。

2年目の戦略転換

前年の経験を活かし、2年目は法人税法1科目に絞りました。集中学習の効果もあり、この年も1科目を突破することができました。

3年目の挑戦

早く合格したい一心で、3年目は所得税法と消費税法の2科目を受験しました。相続税法も並行して勉強を続けていました。

結果は明暗が分かれました。消費税法は不合格でしたが、所得税法は合格。残すは簿記論と消費税法の2科目となりました。

4年目の苦難

4年目は、私にとって最も苦しい年となりました。受験疲れが蓄積し、体調が急激に悪化したのです。

めまいと耳鳴りの症状がひどくなり、週に3日も兵庫医大に通う日々が始まりました。受験勉強どころではない状態でした。ほとんど勉強できないまま、それでも消費税法を受験。奇跡的に合格することができました。

残すは簿記論のみ。しかし、体調は一向に回復しませんでした。

5年目の転機

この年も全く勉強できない状態が続きました。「ダメかもしれない」という思いはありましたが、「それでも受験しないと」という使命感だけが私を支えていました。

試験会場で問題用紙を開いたとき、驚きました。一度やったことのあるような問題ばかりだったのです。体調不良の中でも、これまでの蓄積が功を奏し、なんとか合格することができました。

平成7年、税理士登録

そして平成7年、ついに税理士登録を果たしました。

しかし、この年は私にとって人生最大の試練の年でもありました。1月17日、阪神大震災が発生。西宮の自宅は全壊し、更地となってしまったのです。

税理士登録という喜びの瞬間に、避難生活という過酷な現実が待っていました。さらに、めまいと耳鳴りの症状も一向に改善せず、むしろ悪化していました。

合格したときの私は、文字通り「ボロボロ」の状態でした。体調不良、震災による自宅の全壊、そして避難生活。悲壮感しかない船出でした。


バスの姿はどこにもありません

バブル崩壊という時代背景

平成7年、税理士登録を果たした私を待っていたのは、バブル崩壊後の厳しい経済環境でした。

かつての好景気は見る影もなく、日本経済は深刻な不況に突入していました。企業は倒産が相次ぎ、新規開業する事業者も激減。税理士としてスタートするには、最悪のタイミングだったかもしれません。

何もないところからのスタート

阪神大震災で自宅は全壊。避難生活を送りながらの開業準備は、想像を絶するものでした。

事務所、顧客、実績――何もありませんでした。

体調不良も続いており、めまいと耳鳴りと闘いながらの日々。「本当にやっていけるのだろうか」という不安が、常に頭をよぎりました。

バスの姿はどこにもない

開業当初、私は 次のバスが来るのをただひたすら待ち続けました。 何もすることはありませんでした。パソコンを組み立てたりホームページを作ったりしていました。体調の改善が最優先でした。

「お客様を乗せたバス」――それは、安定した顧客基盤と継続的な収入を意味します。多くの先輩税理士は、すでに満員のバスを走らせていました。

しかし、私のバスはどこにもありませんでした。乗客はおろか、バスそのものが存在しなかったのです。

一歩ずつ前へ

それでも、諦めるわけにはいきませんでした。

震災を乗り越え、5年間の受験勉強を乗り越えてきた私です。今さら引き返すことはできません。

「バスがないなら、まずは自転車からでもいい。一人でも二人でも、必要としてくれる方のために全力で仕事をしよう」

そう決意して、私は一歩ずつ前に進み始めました。

おわりに

あの「何もないところ」からのスタートが、今の私たちの強みになっています。どんなに苦しい状況でも諦めずに続けること、そして、クライアントの皆様の困難にも寄り添える税理士であり続けること。それが、私たちの原点です。

次回は 最後のバスに乗った瞬間をお伝えします。


税理士法人松野茂税理士事務所
〒660-0861 兵庫県尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F
(阪神尼崎駅徒歩1分)
TEL: 06-6419-5140 / FAX: 06-6423-7500
E-mail: info@tax-ms.jp

目次