スタッフとの会話調Q&Aで分かる!銀行を納得させる数字の作り方
スタッフA:「所長、創業融資の申込みで、5年間の事業計画を数字で出してくれって言われたお客様がいます」
所長:「よくあるケースだね。創業融資や大きな融資を受ける時は、5か年の事業計画を数字で求められることがあるんだ」
スタッフB:「でも、5年後なんて分からないですよね…どうやって作るんですか?」
所長:「実は、事業計画の数字にはコツがあるんだよ。今日は、銀行を納得させる事業計画書の作り方を教えよう」
事業計画書に求められる数字
スタッフA:「具体的に、どんな数字を出すんですか?」
所長:「基本的な損益計画を、複数年分作成するんだ」
5か年事業計画の基本フォーマット
項目 | 2年前(実績) | 1年前(実績) | 今期(見込) | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
売上高 | 100 | 95 | 100 | 105 | 110 | 115 | 120 |
売上原価 | 50 | 48 | 50 | 52 | 54 | 56 | 58 |
売上総利益 | 50 | 47 | 50 | 53 | 56 | 59 | 62 |
販売費等 | 45 | 43 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 |
営業利益 | 5 | 4 | 5 | 7 | 9 | 11 | 13 |
当期純利益 | 3 | 2 | 3 | 5 | 6 | 8 | 9 |
スタッフB:「過去の実績も入れるんですね」
所長:「そう。過去の実績から未来を予測する。これが基本なんだ」
事業計画書作成の3つのツール
スタッフA:「どうやって作るんですか?手書きですか?」
所長:「いや、今は3つの方法があるんだ」
ツール1:会計ソフト
弥生会計・クラウド会計:
- 会計ソフトにも事業計画機能がある
- 過去データを自動で取り込める
- グラフ化も簡単
メリット:
- ✅ 過去データとの連動
- ✅ 計算ミスがない
デメリット:
- ❌ 柔軟性が低い
- ❌ 細かい調整が難しい
ツール2:Excel(表計算)
所長:「私はExcelをお勧めするね。一番簡単で柔軟性が高いんだ」
Excelのメリット:
- ✅ 自由に項目を追加できる
- ✅ 計算式を自分で組める
- ✅ 見やすく整形できる
- ✅ 銀行に提出しやすい
スタッフB:「Excelが一番使いやすいんですね」
所長:「そう。事業計画書を作る時は、Excelの表計算で作成するのが簡単なんだ」
ツール3:専用ソフト・テンプレート
国民政策金融公庫のテンプレート:
- 公庫のホームページからダウンロード
- Excel形式
- 項目が決まっている
メリット:
- ✅ 公庫の様式に準拠
- ✅ 必要項目が揃っている
デメリット:
- ❌ カスタマイズしにくい
所長:「公庫のテンプレートをベースに、Excelで調整するのが効率的だね」
事業計画書作成の3つのステップ
スタッフA:「具体的に、どういう手順で作るんですか?」
所長:「3つのステップで作成するんだ」
ステップ1:売上高を予想する
所長:「最初に、将来の売上高を予想するんだ」
売上予測の方法:
既存事業の場合:
- 過去の実績を見る
- トレンドを分析する
- 成長率を設定する
創業の場合:
- 客単価 × 客数 × 営業日数
- 業界平均を参考にする
- 保守的に見積もる
スタッフB:「売上を増やす根拠が必要なんですよね?」
所長:「その通り。単に『前年の3割増』と書いても、根拠がなければ銀行から信用されないんだ」
売上増加の根拠例
根拠1:販売強化
販売を強化します
→ 営業担当者を1名増員
→ 人件費は年400万円増加
→ 売上は10%増(1000万円増)が見込める
→ 差し引き600万円の利益増
根拠2:仕入れコスト削減
円高で仕入単価が安くなる
→ 販売単価を5%下げても粗利は確保できる
→ 価格競争力が上がり、販売数量が増える
→ 全体の売上は伸びる
根拠3:新商品投入
新商品を投入する
→ 開発費500万円を投資
→ 新規顧客層を開拓できる
→ 売上15%増が見込める
根拠4:新規出店
2店舗目を出店する
→ 設備投資2000万円
→ 1店舗目の売上の70%が見込める
→ 全体で売上70%増
所長:「こういう具体的な根拠が必要なんだ」
ステップ2:売上総利益率を設定する
所長:「次に、売上総利益率を設定するんだ」
売上総利益率とは:
売上総利益率 = (売上高 - 売上原価)÷ 売上高
スタッフA:「これは改善させるんですか?」
所長:「そう。売上総利益率は改善させるのが望ましいんだ」
売上総利益率の改善例
改善前:
- 売上高:1億円
- 売上原価:5000万円
- 売上総利益率:50%
改善後(1年後):
- 売上高:1億1000万円
- 売上原価:5400万円
- 売上総利益率:51.8%
改善の理由:
- 仕入単価の交渉で5%削減
- 歩留まりの向上で廃棄ロスを減らす
- 高粗利商品の販売比率を上げる
スタッフB:「利益率が上がると、利益が大きく増えますね」
所長:「そう。だから銀行は、売上総利益率の改善を重視するんだ」
売上総利益率の設定ポイント
✅ 良い例:
- 毎年0.5〜1%ずつ改善
- 改善の理由を明記
- 業界平均と比較して妥当
❌ 悪い例:
- いきなり10%改善
- 根拠がない
- 業界平均から乖離
所長:「急激な改善は信用されない。少しずつ改善する計画が現実的なんだ」
ステップ3:販売費及び一般管理費を設定する
所長:「最後に、販売費及び一般管理費を設定するんだ」
販管費の特徴:
- 毎年、同じような金額になる
- 固定費が中心
- 大きな変動は少ない
主な販管費:
- 人件費(給与・社会保険料)
- 地代家賃
- 光熱費
- 広告宣伝費
- 通信費
- 減価償却費
スタッフA:「人を雇う場合はどうするんですか?」
所長:「人を雇うなら人件費を多くするだけだよ。例えば、営業担当者を1名増員するなら、人件費を年400万円増やすんだ」
販管費の設定例
今期(基準):
- 人件費:3000万円(5名)
- 地代家賃:600万円
- その他:900万円
- 合計:4500万円
1年後(営業1名増員):
- 人件費:3400万円(6名、+400万円)
- 地代家賃:600万円
- その他:950万円(通信費・交通費増)
- 合計:4950万円
スタッフB:「人を増やすと、それに関連する経費も増えるんですね」
所長:「その通り。連動する経費も忘れずに計上することが大切なんだ」
最も重要なのは当期純利益
所長:「ここからが最も重要なポイントだ」
スタッフA:「何が重要なんですか?」
所長:「一番重要なのが、当期純利益なんだ」
当期純利益の重要性
銀行が最も見るポイント:
- 利益が出ているか
- 返済できる利益があるか
- 利益が増加しているか
事業計画書の鉄則:
当期純利益は、1年後・2年後・3年後・4年後と
増加するように作成する
スタッフB:「必ず増加させるんですね」
所長:「そう。これが絶対的なルールなんだ」
当期純利益の推移例
理想的なパターン:
年度 | 当期純利益 | 前年比 |
---|---|---|
2年前(実績) | 300万円 | – |
1年前(実績) | 200万円 | -33% |
今期(見込) | 300万円 | +50% |
1年後 | 500万円 | +67% |
2年後 | 600万円 | +20% |
3年後 | 800万円 | +33% |
4年後 | 900万円 | +13% |
ポイント:
- 直前決算が悪くても、今期で回復
- その後は右肩上がり
- 成長率は徐々に落ち着く
所長:「こういう右肩上がりの計画が、銀行を納得させるんだ」
直前決算が悪い場合の対応
スタッフA:「所長、直前の決算が悪い場合はどうするんですか?」
所長:「良い質問だ。直前の決算が悪いようなら、事業計画書をうまく書かなければいけないんだ」
悪い決算からの回復ストーリー
例:直前決算が赤字の場合
年度 | 当期純利益 |
---|---|
2年前 | 500万円(黒字) |
1年前 | -200万円(赤字) |
今期 | 300万円(黒字回復) |
1年後 | 600万円 |
2年後 | 800万円 |
回復の説明(重要!):
1年前に赤字になった理由:
- 「設備投資で減価償却費が一時的に増加」
- 「不採算部門を閉鎖し、撤退費用が発生」
- 「新商品開発で先行投資が膨らんだ」
今期から黒字回復する理由:
- 「設備投資効果が出始めた」
- 「不採算部門を整理し、収益性が改善」
- 「新商品の販売が軌道に乗った」
今後の成長計画:
- 「効率化により利益率が向上」
- 「新規顧客が増加」
- 「安定成長のフェーズに入る」
所長:「ストーリーが説得力のある説明になっていれば、銀行は理解してくれるんだ」
税理士との打ち合わせが重要
スタッフB:「お客様が自分で作る場合と、税理士に任せる場合、どちらがいいんですか?」
所長:「税理士にすべてを任せてしまう場合もあるんだけど、その時は注意が必要なんだ」
税理士に任せる場合の注意点
重要なポイント:
銀行に説明を求められても話ができるように
十分に打ち合わせを行う
打ち合わせで確認すること:
1. 数字の根拠を理解する
- なぜこの売上予測なのか
- なぜこの利益率なのか
- なぜこの経費なのか
2. 説明できるようにする
- 銀行員からの質問を想定
- 自分の言葉で説明できるように
- 数字の意味を理解する
3. 実現可能性を確認する
- 本当にこの計画は達成できるのか
- 無理な計画になっていないか
- 修正が必要か
スタッフA:「税理士が作っても、社長が説明できないとダメなんですね」
所長:「その通り。銀行の面談で『税理士が作ったので分かりません』では、絶対に融資は通らないんだ」
事業計画書作成の実践ポイント
スタッフB:「実際に作る時のコツをまとめてください」
所長:「よし、実践的なポイントをまとめよう」
【実践ポイント1】売上高
✅ 良い作り方:
- 過去実績から現実的な成長率
- 成長率5〜15%程度
- 具体的な根拠を明記
❌ 悪い作り方:
- いきなり前年比50%増
- 根拠がない
- 楽観的すぎる
【実践ポイント2】売上総利益率
✅ 良い作り方:
- 毎年0.5〜1%ずつ改善
- 改善の理由を説明
- 業界平均を参考
❌ 悪い作り方:
- いきなり10%改善
- 根拠不明
- 業界平均と乖離
【実践ポイント3】販管費
✅ 良い作り方:
- 固定費は横ばいか微増
- 人員増強は明確に記載
- 連動する経費も計上
❌ 悪い作り方:
- 売上が増えても経費が変わらない
- 人を増やしても人件費が増えない
- 非現実的
【実践ポイント4】当期純利益
✅ 良い作り方:
- 右肩上がり
- 1年後から黒字増加
- 成長率は徐々に落ち着く
❌ 悪い作り方:
- 増減が激しい
- マイナスが続く
- 突然大幅増益
【実践ポイント5】説明
✅ 良い作り方:
- 数字の根拠を文章で説明
- ストーリーがある
- 説得力がある
❌ 悪い作り方:
- 数字だけ
- 説明がない
- 根拠不明
5か年計画の成長パターン
スタッフA:「5年間で、どのくらい成長させる計画にすればいいんですか?」
所長:「業種や規模によるけど、現実的な成長パターンを教えよう」
パターン1:安定成長型
売上成長率:年5〜10%
- 既存事業の着実な成長
- 大きな投資はしない
- リスクが低い
5年後の売上:
- 1億円 → 1.5億円程度
パターン2:積極成長型
売上成長率:年15〜25%
- 新規出店・新規事業
- 設備投資を実施
- リスクはあるが成長性が高い
5年後の売上:
- 1億円 → 2.5億円程度
パターン3:回復成長型
直近赤字 → 黒字回復 → 成長
- 1〜2年目で黒字化
- 3年目以降は安定成長
- V字回復のストーリー
5年後の売上:
- 1億円 → 1.3億円程度
所長:「自分の会社に合った成長パターンを選ぶことが大切なんだ」
まとめ:銀行を納得させる事業計画のコツ
所長:「最後にまとめよう」
事業計画書作成の7つのコツ
コツ1:Excelで作成する
- 柔軟性が高い
- 修正しやすい
- 見やすく整形できる
コツ2:過去実績から予測する
- 2年前・1年前の実績を記載
- そこから未来を予測
- 現実的な数字に
コツ3:売上増加には根拠を示す
- 「販売強化」「新商品」「出店」など
- 具体的に説明
- 数字の裏付け
コツ4:売上総利益率は改善させる
- 毎年少しずつ改善
- 改善の理由を明記
- 急激な改善は避ける
コツ5:販管費は現実的に
- 固定費は横ばいか微増
- 人員増は明確に
- 連動する経費も忘れずに
コツ6:当期純利益は右肩上がり
- これが最重要
- 1年後から増益
- 5年間ずっと増加
コツ7:説明できるように準備
- 数字の根拠を理解
- 銀行員の質問に答えられる
- 十分に打ち合わせ
スタッフA:「この7つを押さえれば、銀行を納得させられるんですね」
所長:「その通り。事業計画書は数字だけでなく、ストーリーが重要なんだ。数字の裏にある経営者の想いと戦略が伝われば、銀行は融資してくれるよ」
スタッフB:「お客様をしっかりサポートします!」
所長:「それでいい。事業計画書の作成は、税理士の腕の見せ所なんだ」
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