役員と会社間の売買取引の注意点 – 尼崎の税理士先生とスタッフのQ&A

尼崎の税理士法人松野茂税理士事務所 役員との取引Q&A

松野先生事務所スタッフの会話形式で、役員と会社の間で行われる売買取引の税務上の注意点について解説します。


スタッフA(入社3年目):先生、クライアントの社長から「個人所有の土地を会社に売却したい」という相談がありました。何か注意点はありますか?

松野先生:それは慎重に検討する必要がありますね。役員と会社の取引は節税に利用されることが多いのですが、規定をよく調べないと税務調査で多額の税金を追徴される可能性があります。

スタッフA:具体的にはどのような問題が起こるのでしょうか?

松野先生:主に「時価」の問題です。適正な時価で取引しないと、様々な課税関係が生じてしまいます。パターン別に詳しく見ていきましょう。


目次

役員が会社に売却する場合

スタッフB(入社2年目):先生、役員が会社に資産を売る場合はどうなりますか?

松野先生:2つのケースに分けて考える必要があります。

ケース1:時価より低い価格で売却

例:時価1,000万円の土地を800万円で売却

会社側の処理

  • 時価1,000万円で土地を取得したとみなす
  • 差額200万円は「受贈益」として益金算入
  • 法人税の課税対象となる

役員側の処理

  • 「みなし譲渡」の規定が適用される可能性
  • 時価の1/2以下(500万円以下)なら、時価1,000万円で売却したとみなして譲渡所得を計算

スタッフB:みなし譲渡って何ですか?

松野先生:実際の売却価額に関係なく、時価で売却したものとして譲渡所得を計算する制度です。安く売ったのに高く売ったのと同じ税金がかかってしまうんです。


ケース2:時価より高い価格で売却

スタッフC(入社1年目):では、高く売った場合はどうなりますか?

松野先生:例えば、時価1,000万円の土地を1,200万円で売却した場合:

会社側の処理

  • 時価1,000万円を超える差額200万円は「役員賞与」
  • 損金不算入となり、源泉所得税の徴収義務も発生

役員側の処理

  • 譲渡所得は時価1,000万円で計算
  • 差額200万円は給与として課税

スタッフC:会社が損をするということですね。

松野先生:そうです。高く買っても経費にならないので、会社にとってメリットがありません。


会社が役員に売却する場合

スタッフD(入社5年目):逆に、会社が役員に売る場合はどうでしょうか?

松野先生:これも2つのパターンがあります。

ケース1:時価より安く売却

例:時価1,000万円の土地を800万円で売却

会社側の処理

  • 差額200万円は「役員賞与」として処理
  • 損金不算入、源泉所得税の納付義務

役員側の処理

  • 差額200万円は給与として所得税課税

スタッフD:これも会社にとって不利ですね。

松野先生:そうです。安く売っても経済的利益の供与として課税されてしまいます。

ケース2:時価より高く売却

松野先生:時価より高く売却する場合は、特に課税関係は生じません。会社としては適正な利益を確保できるので問題ありません。


時価の算定が最重要

スタッフE(入社4年目):先生、結局「時価」の算定が一番重要ということですね。

松野先生:まさにその通りです。問題となるのが時価の算定方法です。

不動産の場合

松野先生:不動産は相場があるので、売買事例の証拠を収集することが重要です。

  • 近隣の取引事例
  • 不動産鑑定評価書
  • 固定資産税評価額×倍率
  • 路線価×倍率

スタッフE:複数の方法で確認するということですね。

松野先生:そうです。税務調査で「時価が違う」と指摘されないよう、客観的な資料を用意しておくことが大切です。


取引相場のない株式の場合

スタッフA:先生、非上場株式の売買はどうでしょうか?

松野先生:これが一番複雑です。相続税法の財産評価通達ではなく、法人税や所得税の通達で評価します。

評価方法の特徴

  • 会社の規模に関わらず、常に小会社として評価(純資産価額方式)
  • 類似業種比準価額との折衷法を使う場合は、L=0.5
  • ただし、課税上弊害がない場合に限る

スタッフA:相続税とは評価方法が違うんですね。

松野先生:そうです。さらに重要な点として:

土地の評価

  • 財産評価通達による評価ではなく、市場時価で評価
  • 含み益からの法人税相当額42%控除は行わない

スタッフB:相続税評価より高くなる可能性があるということですか?

松野先生:その通りです。だからこそ事前の検討が重要なんです。


実務上の注意点とアドバイス

スタッフC:先生、クライアントにアドバイスする際のポイントは?

松野先生:以下の点を必ず確認しましょう:

1. 事前の時価算定

必須事項

  • 複数の方法による時価算定
  • 客観的資料の収集・保存
  • 専門家(不動産鑑定士等)の活用検討

2. 取引の必要性・合理性

確認事項

  • なぜその取引が必要なのか
  • 第三者間取引と比較して妥当か
  • 節税目的だけでないか

3. 適正な契約書の作成

重要点

  • 取引価額の算定根拠を明記
  • 取引の経緯・理由を記載
  • 適切な取引条件の設定

スタッフD:税務調査で指摘されやすいポイントはありますか?

松野先生:よく指摘される点は以下の通りです:

よくある指摘事項

  1. 時価算定の根拠不足
    • 「なぜその価額なのか説明できない」
  2. 取引の不自然さ
    • 「決算直前の取引で明らかに節税目的」
  3. 継続的な低額取引
    • 「毎年同じパターンで利益調整している」

スタッフD:事前準備がいかに大切かよく分かりました。


スタッフE:先生、最近多い相談事例はありますか?

松野先生:最近は以下のような相談が増えていますね:

増加している相談事例

1. 事業承継関連

  • 後継者への株式売却
  • 会社への不動産売却による現金化

2. 不動産有効活用

  • 個人所有不動産の会社への売却
  • 賃貸から売買への変更

3. 相続対策

  • 相続税評価額と売買価額の差を利用した対策

スタッフE:いずれも慎重な検討が必要ですね。

松野先生:そうです。30年の経験から言えることは、「急いては事を仕損じる」ということです。十分な準備と検討を行えば、適正な節税効果を得ることができます。


まとめ

スタッフA:役員売買で気をつけるべきポイントをまとめると?

松野先生:以下の5つのポイントを押さえておきましょう:

  1. 適正な時価算定が全ての基礎
  2. 事前の十分な検討と資料準備
  3. 取引の必要性・合理性の確保
  4. 複数の評価方法による検証
  5. 専門家への早期相談

役員と会社の取引は、適切に行えば有効な経営手法となりますが、不適切な処理は重い税務リスクを伴います。

ご検討中の取引がございましたら、必ず事前に当事務所までご相談ください。豊富な経験に基づき、最適なアドバイスをご提供いたします。


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