スタッフとの会話で分かる!会社が倒産に向かう危険な階段
スタッフA:「所長、前回は粉飾決算の見抜き方を学びました。でも実際に会社が悪化していく時、どんな順番で粉飾が進むんですか?」
所長:「良い質問だ。実は粉飾には明確な段階があるんだよ。まるで階段を降りるように、少しずつ危険な方向へ進んでいくんだ」
スタッフB:「階段、ですか?」
所長:「そう。今日は赤字体質の会社が辿る7つの段階を教えよう。これを知っていれば、会社がどの段階にいるか判断できるようになる」
粉飾の心理的ハードル
スタッフA:「粉飾って、いきなり架空売上を計上するんじゃないんですか?」
所長:「いや、最初から架空売上を計上する社長は少ないんだ。なぜだと思う?」
スタッフB:「後ろめたいからですか?」
所長:「その通り。簡単に黒字決算にするなら、赤字にならないように架空売上を計上するだけでいい。でも架空売上は後ろめたさや色々な思惑から、できうる限り合法に近い方法を考えるんだよ」
スタッフA:「合法に近い方法…」
所長:「そう。社長は『これは合法だ』『これぐらいなら許される』と自分に言い訳しながら、少しずつ危険な道を進んでいくんだ」
【第1段階】交際費の取消し
所長:「最初の段階は、一番ハードルが低い交際費の取消しから始まる」
スタッフB:「交際費の取消しですか?」
所長:「会社の状態が良く、売上が伸びているような時期には、社長は税金を少しでも払いたくないから、少しずつ気が大きくなって交際費が増えるんだ」
交際費が増える理由
所長:「中小企業の場合、交際費には社長個人が負担すべき支出が含まれていることが多い」
スタッフA:「例えばどんなものですか?」
所長:「社長の個人的な飲食や、プライベートな付き合いでのゴルフ、家族旅行なんかもね。会社の成長期に増えた交際費は、会社の衰退期になっても止まることはないんだ」
交際費取消しの実態
所長:「そこで社長は考える。『自分が負担すべき交際費100万円だけ認めて、交際費を取り消そう』ってね」
会計処理:
現金 または 役員貸付金 100万円 / 交際費 100万円
この処理の意味:
- 交際費が減る → 利益が増える
- 現金または役員貸付金が増える → 架空資産の発生
スタッフB:「これが粉飾の始まりなんですね」
所長:「正確には、まだグレーゾーンだ。社長は『自分の分を会社に返した』と思っている。でも実際には架空の現金や役員貸付金が発生しているんだ」
【第2段階】地代家賃の取消し
所長:「次の段階は地代家賃の取消しだ」
スタッフA:「これも前に学びましたよね」
所長:「そう。社長個人の不動産を会社に貸付けている場合、会社の景気が良い時はできるだけ多く地代家賃を取っているんだ」
地代家賃を多く取る理由(好況時)
理由:
- 会社と個人の税金のバランス
- 役員報酬に対する社会保険料を軽減
- 個人の不動産所得として節税
スタッフB:「それを赤字の時に取り消すんですか?」
所長:「そう。赤字決算を防ぐため、そして社長個人の所得税も減少させることを目的に、期首に遡って地代家賃を取り消すんだ」
地代家賃取消しの処理
会計処理:
役員貸付金 200万円 / 地代家賃 200万円
この処理の意味:
- 地代家賃が減る → 利益が増える(200万円)
- 役員貸付金が増える → 架空資産の拡大
所長:「期首に遡って全額を取り消すから、一気に200万円の利益改善になる。でも実際には社長に貸し付けた形になっているんだ」
スタッフA:「架空の貸付金がどんどん増えていくんですね…」
【第3段階】支払保険料の資産計上
所長:「第3段階になると、明確に粉飾決算の始まりと言える処理が行われる」
スタッフB:「保険料ですか?」
所長:「会社は社長の万が一の事態と退職金の積立て目的で生命保険に加入している。通常は半分が損金で、半分を保険積立金にするパターンが多いんだ」
保険料の正常な処理
正常な処理:
保険料(損金) 100万円 / 現金 200万円
保険積立金(資産) 100万円
粉飾処理
所長:「ところが赤字を避けるために、税法上損金が認められているにも関わらず、全額を保険積立金で資産計上したりするんだ」
粉飾処理:
保険積立金 100万円 / 保険料 100万円
この処理の意味:
- 本来損金にできる100万円を資産計上
- 利益が100万円増える
- 完全に粉飾決算
スタッフA:「ここから完全に粉飾なんですね」
所長:「そう。税法で認められた損金を使わずに、わざわざ利益を多く見せる。これは明らかな粉飾だ」
【第4段階】棚卸資産の評価の水増し
所長:「第4段階は在庫の水増しだ。これもよくあるパターンなんだ」
スタッフB:「儲かっている会社とは逆ですね」
所長:「その通り。儲かっている会社は、極力在庫の金額を少なくして利益を圧縮している。でも会社の状態が悪くなると、在庫の金額をできるだけ大きく見積もるんだ」
在庫水増しの進行
第1段階:正常な評価
- 不良在庫を適正に評価減
- 実態に即した在庫評価
第2段階:甘めの評価
- 「これはまだ売れるかもしれない」
- 不良在庫を正常在庫として計上
第3段階:水増し評価
- 在庫の数量を多めに計上
- 単価を高めに設定
- 過剰な在庫金額
所長:「最終的には、明らかに過剰な在庫金額となる。売上が減っているのに在庫だけ増えている、という異常な状態になるんだ」
スタッフA:「これが前回学んだ『棚卸資産回転日数の異常』ですね」
所長:「その通り。この段階になると、決算書を見れば一目瞭然なんだ」
【第5段階】架空売上
所長:「第5段階で、ついに架空売上に手を出すことになる」
スタッフB:「いろいろ試した後なんですね」
所長:「そう。いろいろ『合法的な方法』と社長が思い込んでいる方法も手を尽くすと、もう架空売上しか残っていないんだ」
架空売上の処理
会計処理:
売掛金 300万円 / 売上 300万円
この処理の結果:
- 利益が300万円増える
- 売掛金(架空)が300万円増える
- 売上債権回転日数が異常値に
所長:「この段階になると、もう引き返すのは難しい。売掛金が回収されないから、翌年も同じことを繰り返すことになるんだ」
【第6段階】架空資産計上(製造業)
所長:「製造業の場合、さらに巧妙な粉飾が行われることがある」
スタッフA:「製造業特有の粉飾ですか?」
所長:「工場の経営者の場合、材料費や労務費、製造経費などを減らして、内部造作して架空資産を計上したりするんだ」
架空資産計上の処理
会計処理:
機械装置 300万円 / 材料費・労務費・製造経費 300万円
この処理の意味:
- 経費が300万円減る → 利益が300万円増える
- 実在しない機械装置が計上される
- 固定資産が不自然に増加
所長:「さらに、増え続ける架空現金や役員貸付金を消すために、架空資産を計上することもあるんだ」
スタッフB:「粉飾の上に粉飾を重ねるんですね…」
所長:「そう。もう完全に制御不能な状態なんだ」
【第7段階】総合的な粉飾(倒産寸前)
所長:「第7段階になると、もうあらゆる手段を使った総合的な粉飾状態になる」
倒産寸前の決算書の特徴
資産の異常:
- 架空現金が増加
- 役員貸付金が巨額
- 売掛金が異常に多い
- 在庫が過剰
- 架空の固定資産
利益の異常:
- 売上が減っているのに利益が出ている
- 売上原価率が異常
- 経費率が不自然
所長:「この段階になると、もう時は遅し。倒産寸前の状態なんだ」
粉飾の進行期間と役員報酬
スタッフA:「所長、この7段階って、どのくらいの期間で進むんですか?」
所長:「良い質問だ。(1)から(7)に至るまでの間に、4年から5年かかることが多いんだ」
スタッフB:「結構長いんですね」
所長:「そう。その間に、社長は役員報酬を減額していくんだよ。覚えているかな?役員報酬の減少は業績悪化の一番のサインだって話」
4〜5年の悪化プロセス
年度 | 段階 | 主な処理 | 役員報酬 |
---|---|---|---|
1年目 | 第1-2段階 | 交際費・地代家賃取消し | 減額開始 |
2年目 | 第3段階 | 保険料の資産計上 | さらに減額 |
3年目 | 第4段階 | 在庫の水増し | 最低水準へ |
4年目 | 第5段階 | 架空売上 | 変更できず |
5年目 | 第6-7段階 | 架空資産・総合粉飾 | 倒産寸前 |
所長:「この表を見れば分かるように、粉飾は突然始まるんじゃない。少しずつ、階段を降りるように悪化していくんだ」
危険信号の読み取り方
スタッフB:「所長、私たちが決算書を見る時、どの段階で気づけばいいんですか?」
所長:「早ければ早いほどいい。特に黄色信号と赤信号を見逃さないことが大切なんだ」
🟡 黄色信号(第1-3段階)
兆候:
- ✅ 役員報酬の減少
- ✅ 地代家賃の減少
- ✅ 役員貸付金が増加し始める
- ✅ 交際費が不自然に減少
判断:
- 業績悪化の初期段階
- まだ引き返せる
- 経営改善のチャンスあり
対応:
- 社長との率直な対話
- 経営改善計画の策定
- リスケジュールの検討
🔴 赤信号(第4-7段階)
兆候:
- ❌ 在庫の金額が増加
- ❌ 売上債権が不自然に増加
- ❌ 架空資産の計上
- ❌ 回転期間や売上原価率の異常
判断:
- 本格的な粉飾段階
- 倒産リスク大
- 時は遅し
対応:
- 取引の見直し
- 債権回収の強化
- M&Aや事業譲渡の検討
- 早期撤退の判断
所長:「特に在庫が増加し始めたら黄色信号。架空資産が計上され、売掛金も増加したら赤信号だと思ってほしい」
実務での判断チェックリスト
スタッフA:「具体的なチェックリストが欲しいです」
所長:「よし、実務で使えるチェックリストを作ろう」
【赤字体質会社の見極めチェックリスト】
第1-2段階の兆候(グレーゾーン)
- [ ] 役員報酬が前年比で減少
- [ ] 地代家賃が前年比で減少または消失
- [ ] 役員貸付金が増加傾向
- [ ] 交際費が急減
第3段階の兆候(粉飾開始)
- [ ] 保険積立金が急増
- [ ] 損金にできるはずの保険料を資産計上
- [ ] 利益率が不自然に安定
第4段階の兆候(黄色信号)
- [ ] 棚卸資産が前年比で増加
- [ ] 売上減少なのに在庫増加
- [ ] 棚卸資産回転日数が悪化
第5-7段階の兆候(赤信号)
- [ ] 売上債権が異常に増加
- [ ] 売上債権回転日数が100日超
- [ ] 固定資産が不自然に増加
- [ ] 売上原価率が異常
総合判断:
- 第1-2段階 → 経営改善で対応可能
- 第3-4段階 → 黄色信号、慎重な対応が必要
- 第5-7段階 → 赤信号、取引停止や撤退を検討
スタッフB:「これで段階が分かりますね」
所長:「そう。どの段階にいるかが分かれば、適切な対応ができるんだ」
税理士としてできること
スタッフA:「所長、私たちがお客様の会社でこういう兆候を見つけたら、どうすればいいんですか?」
所長:「それが税理士として一番難しい判断なんだ」
段階別の対応
第1-2段階の対応:
- 社長と率直に話し合う
- 「このままでは危険です」と伝える
- 経営改善の具体策を提案
- 役員報酬の適正化をアドバイス
第3-4段階の対応:
- より強い警告を発する
- 「粉飾に入っています」と明確に指摘
- 銀行とのリスケジュールを提案
- M&Aや事業承継の検討を促す
第5-7段階の対応:
- 「このままでは倒産します」と厳しく伝える
- 早期撤退の選択肢を提示
- 債権者への影響を最小化する方法を検討
- 場合によっては顧問契約の解除も検討
所長:「長年やってきて分かったのは、早期発見・早期警告が何より大切だということなんだ」
スタッフB:「厳しいことを言うのも、税理士の役割なんですね」
所長:「そう。お客様に好かれるために甘いことを言うのは簡単だ。でも本当にお客様のためになるのは、時には厳しいことを正直に伝えることなんだよ」
まとめ:赤字体質の7段階
所長:「最後にまとめよう」
赤字体質会社が辿る7つの段階
第1段階:交際費の取消し
- まだグレーゾーン
- 「合法だ」と思い込んでいる
- 役員貸付金が増加開始
第2段階:地代家賃の取消し
- 期首に遡って取消し
- 役員貸付金がさらに増加
- まだ引き返せる
第3段階:支払保険料の資産計上
- 粉飾決算の始まり
- 税法上の損金を使わない
- 黄色信号の始まり
第4段階:棚卸資産の水増し
- 在庫の過大評価
- 回転日数の悪化
- 黄色信号
第5段階:架空売上
- 本格的な粉飾
- 売掛金の異常増加
- 引き返すのが困難
第6段階:架空資産計上
- 製造業に多い
- 固定資産の仮装
- 赤信号
第7段階:総合的粉飾
- すべての手段を使用
- 倒産寸前
- 時は遅し
進行期間:4〜5年
スタッフA:「階段を降りるように悪化していくんですね…」
所長:「その通り。そして一度降り始めると、止まるのが難しい。だから私たちは、第1段階、第2段階で気づいて、止めさせないといけないんだ」
スタッフB:「それが税理士の使命なんですね」
所長:「長年やってきて、多くの会社が倒産していくのを見てきた。その多くは、この7段階を確実に辿っていた。だからこそ、早期に警告を発することが、私たちの最も重要な仕事なんだよ」
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当事務所では、長年の実務経験をもとに、赤字体質からの脱却支援と取引先の財務分析を提供しています。
当事務所のサポート:
- ✅ 業績悪化の早期発見と段階判定
- ✅ 粉飾決算からの脱却支援
- ✅ 経営改善計画の策定サポート
- ✅ 取引先の与信分析・リスク評価
- ✅ M&Aや事業承継のアドバイス
- ✅ 銀行交渉・リスケジュール支援
- ✅ 早期撤退を含めた総合的な経営判断支援
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