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基本的な違い
消費税の課税事業者は、税込経理方式または税抜経理方式のどちらを選択してもよく、どちらの方式でも最終的な消費税納付額は同額と理屈では説明されています。しかし、実務の現場では、節税効果においては重要な違いがあります。
節税効果の比較
一般的には税抜経理が有利
1. 交際費の損金算入限度額
- 資本金1億円以下の中小企業:年間800万円以下の交際費は損金算入可能
- 計算例(年間交際費1,080万円の場合):
- 税込経理:交際費1,080万円 → 課税対象280万円
- 税抜経理:交際費1,000万円 → 課税対象200万円
- 節税効果:80万円 交際費の損金算入限度額は年800万円です。税抜経理の場合は税抜きで計算するので限度額の枠が税込経理に比較して増えます。
2. 固定資産の判定基準
- 10万円未満:消耗品として即時損金算入
- 20万円未満:一括償却資産として3年均等償却
- 30万円未満:少額減価償却資産として即時償却(中小企業)
税抜経理の場合は 税抜で金額の判定を行ますので有利となるケースもあります。
例:税抜価格28万円の設備投資
- 税込経理:30.8万円 → 通常の減価償却が必要
- 税抜経理:28万円 → 少額減価償却資産として即時償却可能
3. 減価償却費 税抜経理の方が取得価額が低くなり、減価償却費も少なくなります。
税込経理が有利なケース
特別償却・特別税額控除 設備投資における特別償却や特別税額控除では、「取得価格×一定の割合」で控除額を算出するため、税込経理の方が控除額が大きくなります。
経理方式変更時の重要な節税効果
税込経理から税抜経理への変更による一時的な節税
期首棚卸資産による所得への影響
税込から税抜きに変更した場合 期首の棚卸が税込の数字なので期首の棚卸の消費税額が多く売上原価が増加します。
- 期首棚卸資産:税込金額(前期からの繰越)
- 期末棚卸資産:税抜金額(当期から税抜経理適用)棚卸資産が多い場合は 仮に1億円の棚卸があれば1千万円利益調整されてしまいます。税抜1億円 税込1億1千万円なので
具体的な節税効果例
期首棚卸資産:1,100万円(税込)税込なので金額が多い→売上原価に期首の消費税の数値が増加してしまいます。
期末棚卸資産:1,000万円(税抜)※実際の在庫数量は同じ
一時的な所得減少:約100万円(消費税相当額)
この100万円は売上原価として計上され、変更初年度の課税所得を一時的に減少させます。
特に効果的なケース
税込経理を長年継続してきた事業者
利益が大きく出る見込みの年度
棚卸資産が多い製造業・卸売業・小売業
実務上の判断基準
税抜経理をお勧めするケース
- 交際費が多い事業者
- 固定資産購入が頻繁な事業者
- 正確な期中損益把握が必要な事業者
- 本則課税を選択している事業者
- 棚卸資産が多く、経理方式変更による節税を検討する事業者
税込経理をお勧めするケース
- 特別償却・特別税額控除を多用する事業者
- 簡易課税制度を選択している事業者
- 経理処理を簡素化したい小規模事業者
- 控除対象外消費税が発生する事業者
- 決算対策として一時的な損益調整を検討する事業者(慎重な判断が必要)
変更時の注意点
手続き
- 税務署への届出は不要
- ただし、継続適用が原則
- グループごと(売上・資産・経費)での選択は可能
タイミングの重要性
- 利益が多く出る年度での変更が効果的
- 棚卸資産の金額を事前に把握して影響額を試算
- 長期的な事業計画との整合性を考慮
まとめ
節税効果の観点からは、一般的に税抜経理が有利ですが、事業の性質により異なります。特に:
- 交際費や固定資産の購入が多い事業者:税抜経理による恩恵大
- 特別償却・特別税額控除を活用する事業者:税込経理が有利
- 棚卸資産が多い事業者:経理方式変更による一時的な節税効果あり
重要なポイント
- 変更初年度の一時的な節税効果を活用
- 事業の成長段階に応じた最適なタイミングでの変更
- 長期的な視点での損益への影響を考慮