消費税の「玉突き型スキーム」は危険です|新設法人・外注先を使った脱税手法に注意

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最近、一部のコンサルやSNSで「新会社を作れば消費税がずっと安くなる」「下請けをうまく使えば簡易課税を維持できる」といった情報が出回っています。

しかし、国税当局はこの手法を「玉突き型スキーム」として明確に脱税目的の行為と認識し、優先的に調査・摘発を進めています。

本記事では、このスキームの具体的な仕組みと発覚した場合のリスクを、国税庁の公式論文・査察事例をもとに専門的な視点から分かりやすく解説します。

この記事のポイント
① 「玉突き型」とは何か――売上型・外注先型の2パターンを解説
② 国税庁の公式論文・査察事例で「優先摘発対象」と明記されている
③ 重加算税・刑事告発・楽天/Amazonアカウント永久削除のリスク

目次

目次

  1. 問題となっている「玉突き型」消費税スキームとは
    1. 売上の玉突き型
    2. 外注先の玉突き型
  2. 国税当局は公式に問題視・摘発強化を宣言している
  3. 「実態がある」では通らない理由
  4. 発覚した場合のリスク
  5. 玉突き型スキームの本質と問題点
  6. 弊所からのお願い

1.問題となっている「玉突き型」消費税スキームとは

消費税には次の2つの重要な閾値(しきいち)があります。

  • 課税売上高 1,000万円超 → 消費税の納税義務が生じる(免税事業者から課税事業者へ)
  • 課税売上高 5,000万円超 → 簡易課税制度が適用できなくなる(本則課税に移行)

また、新設法人には重要な特例があります。設立後2年間は、前々事業年度の課税売上高がないため、原則として免税事業者となります。さらに課税売上高が5,000万円以下であれば簡易課税制度も選択できます。

国税当局が問題視するスキームは、この新設法人の特例と閾値を組み合わせて、新設法人を「箱」として使い捨てながら、消費税の免税・簡易課税を永続的に維持しようとするものです。具体的には次の2パターンがあります。

(1)売上の玉突き型 ― 玉突きのように(箱)を押し出して新設法人の免税・簡易課税を使い捨てる

新設法人は設立後2年間、数億円の売上があっても免税または簡易課税が適用されます。このスキームでは、この2年間を最大限に利用します。新設法人(箱)に売上を集中させて2年間フル稼働させ、本則課税に移行する前にその法人を縮小させ、次の新設法人(箱)へ売上を玉突きのように押し出します。これを繰り返すことで、消費税の免税・簡易課税を永続的に維持し続けます。

【スキームの流れ】

フェーズ 内容
第1フェーズ
(1〜2年目)
A社(新設)に売上を集中。数億円の売上があっても免税または簡易課税が適用される。消費税の負担が大幅に軽減される。(資本金1,000万円未満で設立された法人など、一定の要件を満たす新設法人では、設立当初に基準期間がないため、消費税の納税義務が免除される場合があります。)
第2フェーズ
(3年目・本則移行前)
A社は本則課税になる前に売上を縮小・事実上の廃業(箱を捨てる)。B社(新設)を設立し、売上をB社に移す。
第3フェーズ以降
(際限なく繰り返し)
B社も2年が経過すると同様に縮小し、C社(新設・箱)へ玉突きのように押し出す。以後、D社・E社と同じことを際限なく繰り返す。
→ 結果:グループ全体の実態売上は年間数億円に上るにもかかわらず、常にどこかの新設法人が免税・簡易課税を享受し続ける。

玉突き型スキームの重要な特徴は、消費税法の規定上は一見適法に見えることです。新設法人の免税規定も、簡易課税制度も、いずれも税法が認めた制度です。しかしながら、設立・縮小・再設立を繰り返すサイクルが消費税の負担回避のみを目的としていることが明らかな場合、国税当局はこれを脱税の意図があるものとして優先的に調査対象とします。

「設立した法人に実際に売上はある」「経営者は別人を立てている」という場合でも、同一オーナーまたは親族が実質的に支配し、資金が最終的に一か所に還流し、設立・縮小のサイクルが消費税回避を目的としたものと認定されれば、重加算税・刑事告発の対象となります。税務大学校論叢第88号は、「意図的に新たな法人を設立し、同じ場所で、同じ商品を同じ店名で行うなど、制度を利用して意図的に納税義務を免れようとする行為が認められる」と明確に問題視しています。

(2)外注先の玉突き型 ― 外注先も玉突きのように(箱)を押し出して益税を生む

(1)と同じ「玉突き」の発想を外注先に適用したのがこのパターンです。本則課税の親会社(元請け)が、新設した外注先法人(箱)に仕事を発注し続けます。外注先は設立後2年間、数億円の外注売上があっても免税または簡易課税が適用されます。本則課税に移行する前に外注先を縮小・廃業させ、次の新設外注先(箱)へ玉突きのように仕事を押し出します。これを繰り返すことで、外注先は常に免税または簡易課税の状態が維持されます。

【益税が生まれる仕組み】

  • 親会社(元請け):本則課税のため、外注先に支払った外注費の消費税を仕入税額控除として全額取り戻せます
  • 新設外注先(免税の場合):設立後2年間は免税事業者のため、受け取った消費税を一切納税しません。親会社が控除した消費税の全額が益税となります。
  • 新設外注先(簡易課税の場合):受け取った消費税にみなし仕入率(業種により50〜80%)を掛けた金額のみ納税。差額が益税となります。
  • 本則課税になる前に次の(箱)へ玉突き:2年が経過して本則課税になる前に外注先を縮小させ、次の新設外注先(箱)へ玉突きのように仕事を押し出します。この玉突きを際限なく繰り返すことで、外注先は常に免税または簡易課税の状態が維持されます。

【数値例】外注先が免税事業者の場合(外注費9,000万円)

親会社の仕入税額控除:9,000万円×10% = 900万円 全額控除(本則課税)
新設外注先(免税)の消費税納税額 ゼロ(免税事業者のため納税義務なし)
グループ全体の益税 900万円(全額)が国庫に入らず手元に残る

※外注先が簡易課税・みなし仕入率60%の場合:益税が発生します。

「実際に外注先に仕事はさせている」「別法人として登記している」という場合でも、①外注先の設立・縮小のサイクルが免税・簡易課税の維持を目的としている、②資金や意思決定が実質的に同一人物に支配されている、③グループ間で資金が還流している、といった事実が認定されれば、脱税として否認されます


2.国税当局は公式に問題視・摘発強化を宣言している

「脱税を疑うほどではない」「他の会社もやっている」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、国税当局はこの問題を正式な論文・研究として取り上げ、調査を強化しています。

【国税当局の公式見解(税務大学校論叢 第88号)】

「事業者免税点制度を悪用した租税回避的な行為も散見される。1,000万円を超えるにもかかわらず、免税事業者にとどまるために、事業主が意図的に新たな法人を設立し、同じ場所で、同じ商品を同じ店名で行うなど、制度を利用して意図的に納税義務を免れようとする行為が認められる。」

— 国税庁 税務大学校論叢第88号「消費税の事業者免税点制度の在り方についての一考察」

また、大阪国税局の査察事例(令和3年度)では、以下の事案が刑事告発されています。

【査察告発事例】大阪国税局 令和3年度

E社を基幹法人として55社で構成されるグループにおいて、グループ間の取引を利用し架空の修繕費を計上するなどし、不正に所得を圧縮。法人税・消費税を免れたとして法人7社が告発。

→ 「実態があるグループ取引」であっても摘発の対象となった事案です。


3.「実態がある」では通らない理由

「うちは本当に別会社として実態がある」とお考えの方も多いと思います。しかし、調査官は以下の観点から「実態」の真偽を徹底的に調べます。

調査項目 具体的な確認事項
実質的支配関係 役員・株主の親族関係、意思決定の一元化、印鑑・通帳の管理者
資金の流れ 売上が最終的に一か所に還流していないか、預金口座の管理者
事業の独立性 従業員・事務所・設備が本当に独立しているか
取引の必要性 複数社を経由することの経済的合理性があるか
売上の恣意的操作 閾値の直前で不自然に売上が止まっていないか

特に、近年は国税当局のデジタル調査が格段に強化されており、資金の流れ・取引の実態をデータで追跡することが容易になっています。「税務署には分からない」というのは過去の話です。


4.発覚した場合のリスク

このスキームが否認・摘発された場合、以下のリスクが生じます。

(1)税務上のリスク

  • 過去に遡って本来の消費税額を全額追徴課税(延滞税加算)
  • 仮装・隠蔽と認定された場合:重加算税 35%(無申告の場合は40%)が加算
  • 調査対象期間:通常5年、悪質な場合は7年に延長

(2)刑事上のリスク

  • 悪質と認定された場合、国税局査察部(マルサ)による強制捜査
  • 検察庁への告発・起訴:懲役10年以下または罰金1,000万円以下(消費税法違反)
  • 代表者個人・関与した税理士等も幇助罪として処罰の対象となる場合がある

(3)ECサイト・ネット販売事業者の方への特別警告

楽天市場・Amazon等のECモールに出店されている事業者様には、追加で深刻なリスクがあります。

⚠ ECモールのアカウント停止・永久削除リスク

楽天市場・Amazonともに、出店規約において「法令遵守」を絶対条件としています。玉突き型スキームでは複数法人を繰り返し設立・廃業させる過程で、名義貸し・別名義での迂回出店が伴うことが多く、これがECモールの規約違反として直接の停止・削除事由となります。

  • 楽天市場の違反点数制度において「法令違反」は最重大違反に分類され、出店契約解除の対象となります
  • Amazonはポリシー違反に対し予告なく出品アカウントを停止・削除する権限を持ちます
  • 特に名義貸し・別名義での迂回出店が発覚した場合、同一IPアドレス・名義・銀行口座等から同一人物と判定され、同一人物・同一法人での再登録は永久に認められません
  • FBA(フルフィルメント by Amazon)利用中の場合、在庫の返送・廃棄等の追加コストも発生します

長年積み上げてきた販売実績・レビュー・ランキングがすべて失われ、事業の継続が困難になります。


5.玉突き型スキームの本質と問題点

玉突き型スキームには、他の脱税手口と決定的に異なる特徴があります。それは「消費税法の規定通りに見える」という点です。新設法人の免税も、簡易課税制度も、いずれも税法が正式に認めた制度です。しかしながら、以下の点から国税当局は「合法に見せかけた脱税」として優先的に調査対象とし、重加算税・告発の対象としています。

特徴・論点 内容・国税当局の見解
表面上は合法に見える 新設法人の免税特例・簡易課税制度はいずれも税法上の正規の制度。個々の申告書だけを見れば法令通りに見える。しかし「制度の目的を逸脱した意図的な利用」と認定された時点で脱税扱いとなる。
脱税の意図が明らか 設立→2年フル稼働→縮小→再設立という周期的なサイクル、閾値直前での売上操作、資金の一か所への還流など、消費税回避以外の経済的目的が見当たらない場合、「脱税の意図が明らか」と認定される。
優先的に調査対象となる 国税当局は、新設法人の設立・縮小サイクルを名寄せ・情報照合でデータとして把握している。「玉突き型」の動きをするグループは優先的に税務調査の対象に選定され、重加算税(35〜40%)・刑事告発に至るケースも多い。
「実態がある」は免罪符にならない 「実際に営業している」「別の人間を代表者にしている」「取引は本物だ」という反論は通らない。実質的支配・資金の還流・設立目的が消費税回避であると認定されれば、形式的な実態は否認の妨げにならない。

6.まとめ・税理士法人松野茂税理士事務所からのお願い

弊所は30年以上にわたり、皆様の税務を誠実にサポートしてまいりました。書面添付制度を積極活用し、皆様の申告の信頼性を高めることを使命としています。

「玉突き型スキーム」は、短期的には消費税の負担を軽減できるように見えますが、発覚した際のリスクは本税の何倍にも膨らみます。また、このような行為に関与した場合、弊所として申告書への署名・関与を続けることができなくなります。

売上の付け替えや、新設法人の繰り返し設立・名義変更などを利用して、消費税の免税点制度等を意図的に利用するスキームについては、当事務所ではご相談・ご依頼を一切お受けしておりません。 これらは一見節税に見えても、否認・重加算税・刑事告発の対象となるおそれが高い取扱いであり、当事務所の業務方針とも相容れないためです。

税理士法人松野茂税理士事務所
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